市民活動ワクワクレポート内容

天王寺区は日本最古の寺院のひとつ四天王寺をはじめ、神社仏閣の密度が日本一。そんな地域特性を活かし、まちを歩きながら歴史を学ぶ「観光ガイド同行型のウォークラリープログラム」を通じ、地域活性化に取り組む「てんのうじ観光ボランティアガイド協議会」会長 山口 和子さん、副会長八木 進さんにお話を伺いました。

 

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てんのうじ観光ボランティアガイド

協議会

会長 山口 和子さん

副会長 八木 進さん

 

天王寺区の歴史や文化などに理解と愛着を深め、誇りをもって天王寺区の良さを語り伝えること。またボランティア活動への参加を通じて、天王寺区のまちづくりの発展に寄与することを目的に活動されています。

・観光客に対する天王寺区の名所・旧跡のガイドサービス事業

・会員の資質向上のための研修・学習事業

 

 

天王寺の名所旧跡をめぐるウォークラリーを企画・運営。観光ガイド同行で学びをさらに強化

てんのうじ観光ボランティアガイド協議会ではどのような取組みをされていますか?概要をお聞かせください。

日本最古の寺院のひとつである四天王寺を中心に形成された「歴史と文化の宝庫・天王寺」を主体とした「ウォークラリー」の企画・申込受付管理を行う事務局と、当日同行するボランティアガイドの派遣を行っています。

行政や中間支援組織と協働し、当会が事務局を務める場合と、当会自主企画・単独主催で、参加者を募集する場合と2通りあります。行政や中間支援組織と協働する場合は、天王寺区役所や天王寺区民センターのウェブサイトから申し込むことができます。コースメニューは現在11種類。知識・経験が豊富なガイドが同行しますので、例えばメニューのひとつである四天王寺とその周辺を楽しむコースだけを取り上げても2~3時間じっくり学び、楽しむことができます。自主企画ものまで含めると実施頻度はかなり多いと思います。特に行楽シーズンの春・秋は団体のお客様が多く、月に20件くらいお申込みをいただく時もあります。また、お申込みが少ない冬は、屋内で無料講演会などを実施し、1年を通じて天王寺の名所・旧跡を楽しむことができる仕組みとしています。

 

 

名所・旧跡めぐりに軸足を置くことで、必然性を持って他の区と連携できる

「観光」という点から、天王寺区の特筆すべき点とユニークな活動についてお聞かせいただけますか。

天王寺区は多くの神社仏閣が密集しているのが特徴で、密度で言えば日本一なんです。その理由は戦国時代に遡ります。大阪城は中央区にありますが、当時、中央区の南にあたるこの天王寺区との境には河川がなく、天王寺区を通って敵に侵入されるリスクがありました。時の太閤秀吉は、そのリスクを回避するため、堀をつくらせたのですが、それだけでは不十分として、神社仏閣を全てこの天王寺区に集めたと伝えられています。武将といえども人間、神仏を踏み倒してまでは攻めてこないだろう、ということだったようです。

神社仏閣が多いことから、スタンプラリーなどの楽しい仕掛けも盛り込んでいます。

昨年から、大阪の熊野街道を知っていただこうというねらいで、団体主催(てんのうじ観光ボランティアガイド協議会・NPO法人すみよし歴史案内人の会・難波宮と大阪・熊野街道連絡協議会)、行政共催で、上町台地を北から南へ縦断する「大阪・熊野街道歴史ウォーク」という取組みを始めました。熊野街道は、中央区に始まり、天王寺区、阿倍野区、西成区、住吉区を縦断し、堺市から紀州・熊野古道へと続いていくものなのです。つまり、熊野街道が通っている他の区の協力なしにはできない企画でした。広報効果もあり、さまざまな地域から多くの方々に大阪・熊野街道を楽しんでいただくことができました。

歴史・名所めぐりに軸足を置くことで、他の区との連携が必然性を持って実現しているというのは、非常に意義あることだと思っています。

 

 

オリンピック招致の失敗。でも辞めずにコツコツやり続けてきた18年が、「今」に生きている

活動のきっかけについてお聞かせください。

平成12年から、18年間活動しています。

活動の発端は、約20年前に遡るのですが、大阪にオリンピックを招致しようという動きがありましたが、実はその時の活動が当時の有志によって継続し、今に至っているのです。

当時、天王寺区が中心になって、インバウンドを見込んだボランティアガイド養成講座など、観光人材育成にかなり力を入れていたと聞いています。結果的にオリンピックは招致できなかった。でも当時勉強した仲間が集まり、天王寺区を観光で盛り上げよう、活性化させようと、この会を発足したのです。

ボランティアガイドも兼務する会員は、ここだけでも30人くらいおられます。月1回、会員が集う定例会を開いて、どのウォークラリーに誰が行ってもらうか、など、役割分担を決めています。

会員にはシニア層が多く、定年退職した後の60歳以上から80歳代の先輩もおられます。私たちの実体験から言えることですが、歩くことで健康維持につながっているだけでなく、別の区の観光ガイドを受けることもありますので、その土地のことを調べ、自分なりの言葉で伝えることができるよう、常に勉強することや工夫することが必要です。単に知っていることを伝えるだけでなく、「勉強したことを観光ガイドとして人に伝える」ことを通して、自身の努力を確認したり、活かしたりする機会は、なかなか得られない大きなやりがいにつながっていると思います。

 

 

まちを歩いて歴史を学ぶ手法は、切り口・アプローチによっては幅広い世代に支持される強力なコンテンツであり、地域活性の鍵

「ウォークラリー」に参加される方はどのような方ですか。

もともとシニア層が多いですが、最近は若い方も増えています。旅行会社などを通じて、修学旅行生の観光ガイドを受けることも増えてきましたし、地元の高校生のフィールドワークのサポートを受けることもあります。生徒たちとの活きた交流で、普段とは違った体験ができ、刺激になりますね。また、一昨年(2016年)はNHK大河ドラマの「真田丸」で、非常に盛り上がりました。天王寺区には真田幸村ゆかりの地が多くありますので、全国から老若男女、多くの団体客が訪れました。また、大阪出身・在住の作家・有栖川 有栖さんの作品『幻坂』の舞台として有名な「天王寺七坂のウォークラリー」を当会単独主催で行いました。作家ご本人はもちろん、出版社にも話をし、著書の装丁の画像を無償でご提供いただくなど、多大なご協力をいただいて、素敵なチラシができました。それも功を奏したのか、参加者の約半数はファンの方だったと記憶しています。小説の一部を語りつつのミステリアス演出など、観光ガイドも通常のやり方でなく趣向をこらして行ったことで、若い方も楽しんでくださったようです。

まちを歩いて歴史を学ぶ手法は、切り口、アプローチによっては幅広い世代に支持される強力なコンテンツであり、地域活性の鍵になるものだと思います。

 

 

行政が積極的に関わることで、さまざまな活動主体との連携プログラムに発展

さまざまな団体や企業などが協賛、協力などされている点についてお聞かせください。

天王寺区が間に入ってコーディネートしてくださっているので、直接的な関わりはないですが、さまざまな企業が、ウォークラリーに協賛してくださっています。参加者の方に持ち帰っていただくお土産を用意してくださったり、ゴール地点にキッチンカーを用意してお茶をふるまってくださったり。他にも広報での協賛や、事務的なことでお手伝いしてくださっている企業・団体もあります。

例えば、地元に「まち・すまいづくり」というNPO法人があるのですが、毎月発行される「うえまち新聞」というフリーペーパーに、当会のイベント広告を掲載いただいています。

生涯学習とも連携し、大阪府高齢者大学校ではカリキュラムにウォークラリーを組み込んでいただいているおかげで神戸など遠方からも来てくださるケースがあります。

 

 

地元の方がこれまで以上に天王寺を好きになる、天王寺を中心に「大阪」を満喫できるコースメニューの充実など、思いは尽きない

今後に向けたチャレンジについてお聞かせください。

天王寺区の歴史と文化を知っていただくための発信を、今後も積極的にしていきたいです。遠方の方も近くの方も地元の方にも、天王寺区のいいところを知っていただきたいですね。「灯台下暗し」といいますが、意外に地元の方でも知らないことは多いと思いますので、地域の魅力再発見につながるような楽しい企画をしていきたいと思っています。

また、テリトリーを広げたいですね。観光ニーズとしては、「こっちにも、あっちにも足を運んでみたい!」というのが本音でしょう。実際、七坂のすぐ向こうには浪速区がありますし、天王寺区周辺には、区は違いますが新世界、コリアンタウンなど、たくさんの観光スポットがあります。そうした観光資源も踏まえてコースメニューを企画できれば、と思います。こじんまりした地域の中に、ごちゃごちゃとさまざまな見どころがある。物価も安い、どこで食べても美味しい、静かな荘厳な場所で古に思いを馳せていたかと思えば、コテコテ・ガチャガチャの喧騒もある。そんな対比の面白さも大阪の魅力ではないかと思います。

 

ツール集合