市民活動ワクワクレポート内容
ユートピア白玉温泉(有限会社白玉産業)
50年以上にわたり多くの人に愛される「ユートピア白玉温泉」(城東区)。赤ちゃんからお年寄りまで銭湯を満喫してもらえるようにと、子ども用プール、サウナ、氷風呂、ゆったりくつろげるスペースなど設備も充実しています。代表取締役の北出守さんは、高齢者や子ども、外国人の方などに向けて、銭湯を活用したさまざまな取組みを行っています。
銭湯は地域の公共財産
一般的に銭湯と呼ばれている公衆浴場は、公衆浴場法で『地域住民の日常生活において保健衛生上必要なものとして利用される施設』とされています。「生活衛生とは“生きる”ことと“衛る(まもる)”こと。銭湯はもともとそういう場なんです」と北出さんは話します。清潔を保つことは、日常の入浴だけではなく、災害時に自宅での入浴が困難となった際にも必要となります。たとえば昨年の台風21号の際には、城東区内の企業や商店で働く北摂地域在住者に銭湯を無料で開放したところ、3日で50人以上が来館しました。こんなに大勢の人が城東区内で働いているのかと北出さんが驚くほどで、災害時における銭湯の役割を改めて感じたとのことでした。
また、銭湯は、日々の見守りの場でもあります。「いつも来るおばあちゃんが来ないけど、どうしたのかな」など、自然と気が付くことが多く、また、裸になるというのが何より重要で、変化に気づくことができます。ボロボロの下着を身に着けていることから銭湯の主人が異変に気づき、地域包括支援センターに繋いだ例もあるとのことでした。
地域から銭湯が消えていく
このように、地域でさまざまな役割を果たしている銭湯。しかし、自家風呂の普及に伴い入浴者数は減少し、経営者の高齢化や後継者難による廃業など、公衆浴場は年々減っています。そのため、浴室を持たない世帯や、入浴中の事故が不安で銭湯に通っていた独居高齢者等の入浴の機会を確保できなくなるといった、「銭湯難民」も課題になりつつあります。「銭湯経営者の平均年齢は69歳で、70~80代が大半です。このままではどんどん廃業してしまう。一刻も早く手を打たなければならない」と北出さんは危惧しています。
新たなコミュニティを生み出す場所へ
そんな現状を打破するために、北出さんは地域住民や城東区社会福祉協議会(以下、「城東区社協」という)と連携し、銭湯を利用したさまざまな取組みを進めています。そのひとつが、銭湯のロビーのスペースを活用した介護予防としての「いきいき百歳体操」。月4回、毎週木曜日に高齢者が集まり体操をしたあとは、銭湯で気持ちよく汗を流すことができます。
そして、子育てサロンにも月1回取り組んでいます。きっかけは北出さんに孫が生まれたことでした。孫を通して、社会での子育ての大変さや母親の負担を知り、自分にも何かできることはないかと城東区社協の砂田さんに相談したところ、子育てサロンの存在を知ったのが始まりです。もちろん強みは、銭湯という場所。参加者の中にはシングルマザーで子どもから四六時中目が離せず、お風呂にもまともに入れていない母親もいました。サロンに来れば、母親は子どもをボランティアに預けて、入浴ができます。交流とともに母親のリフレッシュの場になっています。
さらに、銭湯を含めた地域の活性化をめざし、民泊と連携して訪日外国人客(インバウンド)を呼び込む取組みを進めています。民泊に宿泊している外国人に銭湯を体験してもらい、食事等で近隣の商店を利用してもらう仕組みです。「外国人観光客が望んでいるのは“モノ”から“コト”へと移り変わり、いずれは“ヒト”になると言われています。日常体験、地元の人とのかかわりを求めている人が増えているのです。」と北出さん。もちろん外国人客はいずれ帰ってしまい、常連客に直結はしません。新しい客にはまた一から銭湯の入浴方法やマナーを教えることになり、手間はかかります。しかし、将来的な活路になればと、仕組みや体制を整えて、この取組みを市内全域に広げたいと北出さんは考えています。今後は、餅つき体験などの地域行事とのコラボや、あるいは区内に居住する外国人が特技を発表したり、交流する場として銭湯を利用してもらうなど、銭湯が新たなコミュニティの場にもなればという構想も持っています。
「ぜひ、みなさんにもっと気軽に銭湯に入ってもらいたい。」と北出さん。ラグビーワールドカップの際に、オーストラリア人とニュージーランド人が肩を並べて湯船につかる姿に、銭湯にはまだまだ可能性があると感じました。「銭湯を地域の要に」と願い、北出さんの活動は続きます。
【参考】
公衆浴場法(昭和23年7月法律第139号)概要/厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/seikatsu-eisei/seikatsu-eisei04/04.html
(記事作成:大阪市社会福祉協議会)