市民活動ワクワクレポート内容
教育格差問題は、発展途上国だけではなく、現代の日本でも深刻な問題であることを知っていますか?
日本の場合は、大都市や地方といった地域差に加えて、親の収入により教育を受ける環境の差が大きくなっています。大阪市内でも放課後に塾や習い事に通う子どもと、そうでない子どものあいだに学習量の差がうまれ、教育格差へとつながってしまっている場合もあります。そんな現状を「日本の将来にとって極めてもったいない!」と、現役大学生により、コロナ禍真っ只中の2021年4月に設立された特定非営利活動法人「ふらいおん」。
活動の発起人であり、代表理事を務めている、大阪教育大学4年生の藤川 了さんにお話を伺いました。
すべての子どもたちに学習機会と居場所を作りたい
コロナ禍のタイミングで動き出されたのは何かきっかけがあったのですか?
大阪教育大学天王寺キャンパスの学生は、大阪市が運営している「児童いきいき放課後事業」(通称「いきいき」)のスタッフとしても活動しています。私も天王寺区内の小学校に併設されている「いきいき」での活動を通じて、小学生の子どもたちの放課後の過ごし方について考えるようになりました。
「いきいき」は、親が日中仕事で家にいないという子どもたちが多く利用しています。
低学年のうちは、私たちと一緒に学校の宿題をやったり、運動場で遊んだりして、楽しく時間を過ごし、子どもたちも満足してくれていると感じられるのですが、学年が上になるにつれて、来なくなる子どもが増えてくるように感じました。要因はいろいろあると思いますが、個人的には、「いきいき」内の決まり事に縛られたくないと感じる子も多いのではないかと思うところがあります。
家に帰っても親はいない。1人じゃ寂しくて誰かと過ごしたいけど、「いきいき」はつまらない…高学年くらいの子どもにとっては居場所がないんですよね。友だちと過ごしたくても、天王寺区は文教区として有名ですから、塾や習い事などで友だちが多忙だったりすると、なかなか誘えないでしょうし…。そんな子どもたちのために何か出来ることはないかと思うようになりました。
もともと教職につくことをめざし、教育大学に入った自分の得意分野を活かしてできること、誰もが平等に学習機会を得られること、「そうだ!無料学習塾をやったら、成功するかもしれない」と考え、2020年の9月にNPO法人化する前の団体である「無料学習塾プロジェクトふらいおん」を立ち上げました。
また在学中に、世界一周しようと計画していたのですが、新型コロナウイルス感染拡大で断念せざるを得ない状況になり、大学の授業もオンラインになるなど状況が変わり、時間が出来たことも影響しました。
資金は世界一周旅行用にと貯めていたお金がありました。それを団体に資本金として貸すことで、無理なくできる範囲で活動をスタートさせようと考えたのですが、自分の考えに賛同してくれた大学の友人(現在の幹部メンバー)のアドバイスがあり、法人化することにしました。手続きはとても大変でしたが、対外的にも信頼を得やすくなり、良かったと思っています。
まずは来てほしい!チラシによるリーチとリピーター育成の工夫としてのポイント制
コロナ禍での集客やリピーター育成にどのような工夫をされたのですか?
チラシを作り、近所に配りました。チラシのデザインや「ふらいおん」のロゴマークなどは、大学の先輩が協力して作ってくれました。
「ふらいおん」というネーミングは旅好きな私が、某航空会社のマイレージの名称にインスパイアされて思いついたものですが、オリジナリティを出すため、すべて平仮名にし、ライオンをシンボルキャラクターにして…と先輩がどんどんイメージを膨らませてくれました。
団体のアイデンティティをビジュアルで可視化し、「大阪教育大学の学生が教える」という強みを打ち出したことが功を奏したとみえ、チラシを見た保護者の方が子どもを連れてこられて、通ってくださるようになりました。そして口コミで少しずつ広がってきています。
継続して通ってもらう工夫としては、勉強しに来た子どもたちにポイントシールを渡しています。来ると1ポイント、課題のプリントをやればまた1ポイント。少し難しい課題にチャレンジするとポイントシールがさらに増えていきます。子どもたちは、それを自分のクリアファイルに貼り付けて、ポイントシールをためています。ある程度たまったら、文房具や「ふらいおん」の手作りオリジナルグッズをプレゼントするようにしています。グッズを選ぶときの真剣な顔つきは、とても可愛いです。
上記の工夫は、私ではなく他のメンバーが考え出してくれた取り組みです。私一人では想いもつかないアイデアを出してくれるので、とても感謝しています。
教育大学の学生だからこそ出来ることを少しずつカタチにしていきたい
新たな活動、今後の抱負についてお聞かせください。
一定数のファンづくりには成功していますが、地域の中ですらあまり認知されていないと感じます。だからもっと認知度を上げ、この活動を必要とする人に情報を届けたいです。それに、無料学習塾として続けていくには資金が重要です。中間支援等から支援や助成金などをいただけるようにと、大阪市社会福祉協議会(大阪市ボランティア・市民活動センター)の地域こども支援ネットワーク事業の助成金は会場費をはじめとした活動資金にあてていますが、何かと経費はかかります。これら課題を解消する手立てとして、無料学習塾事業の継続を目的に、「伸ばせる子どもへ、教育の翼を」をスローガンに掲げ、GoodMorningにてクラウドファンディングにチャレンジ中です。まだ募集終了していませんので、関心のある方はぜひサイトをご覧になっていただきたいです。
https://camp-fire.jp/projects/view/441421
また地域での認知度につなげようと、「地域こども支援団体連絡会」に加入し、会合などに積極的に参加するようにしています。そのおかげで、地域の地蔵盆で、コラボイベントをする話がまとまり、8月24日に実施予定だったのですが、緊急事態宣言の発出により、残念ながら中止となってしまいました。
でも、このような地域活動の会議にも参加することで、新たな出会いもあり、「ウチの空きスペースを教室に使ってもいいよ」と声をかけてくれる方もあり、2教室目、3教室目と可能性と広がりが出始めています。
現在、プログラミングに特化した教室や英語学習アプリの開発も行っています。
教育大学の学生だからこそ出来ることを少しずつカタチにしていきたいと考えています。そして大阪教育大学学生発信というスタンスを大事にしつつ、同じ思いを共有できる後輩たちを巻き込んで一緒に走って、この思いをつないでくれる人材を育てていきたいと思っています。
<取材を終えて>
インタビュー前に、少し授業風景を見させていただきました。様々な学年の子どもたちが、それぞれ課題のプリントをこなしていました。大学生やボランティアの女子高生の先生とのかかわりは、大きな親戚のお兄ちゃんやお姉ちゃんに勉強を見てもらっているようで、とてもほほえましい雰囲気でした。
「どんな勉強やってるの?」と小学4年生の男の子に聞くと、「学校で勉強したとこで、ちょっとわからんかったところを、ここで習ってる」と教えてくれました。
現代の寺子屋風であり、大学在学中に起業し、地域の大人たちを巻き込み自分たちがやりたいことをカタチにしてゆく姿はとても頼もしく感じました。
そして、そんなお兄さんやお姉さんたちとの関りは、子どもたちにも良い経験になるはずです。
「ふらいおん」のこれからの広がり・発展にますます期待したいです。
取材・記事作成:大阪ローカルメディアぼちぼち 藤本 真里