市民活動ワクワクレポート内容

生野区は長屋の戸数が大阪市内で最も多く、空き家率も高い地域であることをご存じですか?一方で2015年頃から同区周辺には日本語学校が多く進出し、60カ国をこえる外国人が多く住む多国籍なまちとしても知られています。

そんな背景のもと、障がい者の社会・経済・文化への参画支援をコアに福祉作業センターの設置運営やグループホームの設置運営、介護人派遣事業等、さまざまな事業を展開している特定非営利活動法人 出発(たびたち)のなかまの会が事業のひとつとして運営する「松野農園」は、障がい者の方のためではなく、地域に暮らす全ての人たちの憩いの場所。特定非営利活動法人 出発のなかまの会(松野農園)の吉岡徹さんにお話を伺いました。

 

元助産院だった空き家をリノベーションして作られた松野農園

 

松野農園の主な活動についてお聞かせください

 

昔から住むご近所の方の話によると、この家は戦後すぐの頃に建てられた築70年以上経った物件だそうで、もとは助産院として使われていました。耐震対策など含めたリノベーションを施して使っています。

松野農園は、地域の方に広く開放することをコンセプトに運営しています。この場所の存在を知ってくれたご近所の方がふらりと訪れて裏庭を眺めながらコーヒーを飲んだり、来訪者同士が知り合い雑談をしたり、ゆるく新たなつながりが出来る場所として定着してきました。

以前は「農園寄席」といって落語家さんにご協力いただき、落語会の開催をしていました。多いときは地域の方60名ほどが見に来てくださいました。また週に一度の、ここで育てた野菜を使ったランチ会も人気のイベントでしたが、現在は、コロナの感染拡大で、ここで行われるさまざまなイベントを中止しています。

松野農園で今育てている野菜は、なすび、ミニトマトなど夏野菜やさつまいもなどがあります。少し前にはたまねぎの収穫があり、ご近所に配ったり、生野区内でお付き合いのある「まちの拠り所~Yosuga~」さんに提供し、運営されている子ども食堂のお弁当食材に使っていただきました。

秋から冬にかけては少し日当たりが悪くなってしまうのですが、蕪や大根を育てる予定です。農園の隅にある柿の木の柿でつくる干し柿も、毎年好評いただいています。

 

松野農園1

 

 

多くの人とつながりを持てたことで、自分が支えられ、助けてもらっていると実感

 

地域の方とつながったり他の団体との連携をされて、どのように感じておられますか?

 

私は障がい者支援という立場からスタートしたのですが、多くの場面で「ままならなさ」を感じてきました。現に今、障がいをもつメンバーが体調を崩し病院へ行こうとすると、検査を拒まれることがあるんです。「なんで?」と怒る気持ちと、ままならない思いに何度もぶつかってきました。

でもこの思いは、障がいをもつ人だけが直面する問題ではなく、多くの人が感じている問題だと思うのです。ひとり親家庭で教育格差や孤独に悩んでいる母親もいます。外国から日本に仕事を求めてきた人の中にも、言葉の壁や習慣に慣れず、生活に苦しんでいる人もいます。

「“ままならない”と感じている誰も」を取り残したくないと、強く思っています。

そして自分はどれほどのことができるのか、日々葛藤を繰り返しています。自身はもともと、他人と協働したりすることはあまり得意ではなかったのですが、松野農園での交流会等を通じて、区内で居場所づくりをされている他の多くの団体と知り合い、思いを共有することができました。そして団体がまた他の人を連れてきてくださるなど、共感の輪が広がっていきました。

多くの人とつながりを持てたことで、自分が支えられ、助けてもらっていると日々感じています。

 

松野農園2

 

 

「おもしろい」と感じる気持ちと、「ままならない怒り」を原動力に前に進む

 

法人を長く続けていく秘訣、コロナにも負けない団体の底力について教えてください。

 

故・月川至 前代表理事の存在が大きいと思いますが、「人とのつながり」だと思います。

法人化する前の任意の福祉団体の頃から、地域共生や福祉、障がい者とともに生きるということについて大学の先生から話を聞いたり、海外の実践例を知れば研究会を開いたり、とにかく実行力とバイタリティにあふれたカリスマ性のある人でした。かつては月川に会うために、ここ松野農園に有識者をはじめ多くの方が訪れていました。幾多の困難もその力で乗り越えてきたと思っています。

もちろんコロナの影響はあります。たとえばグループホームで生活している障がいをもつメンバーが、農園で採れた野菜を子ども食堂や各事業所へ配達してくれていたのですが、それらの活動を全てストップせざるを得なくなりました。地域の方と交流する機会がなくなってしまうのは、とてもつらいことです。

また、社会福祉士の現場を知る実習などで学校と連携させていただいているのですが、実習に加えて、「空き家会議」など地域との関わりの場所に参加してもらっていました。それも昨年からは難しくなり、とても残念に思っています。

でも月川の背中を見てきた私たちスタッフが、月川が築き上げてきたネットワークを守りながら、新たにさまざまな団体と連携したり、松野農園を拠点に地域の人がつながる様子を目の当たりにして刺激を受け、この仕事がおもしろいと実感できるようになりました。これからも「おもしろい」と感じる気持ちと、「ままならない怒り」を原動力に前に進んでいきます。

 

松野農園3

 

 

<取材を終えて>

生野区は区のホームページでも「生野区政3本柱」として「子育て・教育環境の整備」「空き家対策」「多文化共生」をあげています。市立小中学校の統廃合が進み、子育て世代の格差にも直面していると感じます。吉岡さんのいう「ままならない思い」というのは、コロナ禍でさらに多くの人が抱え込んでいるはずなので、誰も取り残さないという強い思いをもつ存在が地域にあるというのはとても貴重なことだと思いました。

多様性がどんどん受け入れられようとしている現代、障がい者や高齢者の方が利用する場所ではなく、地域の誰でも訪れていい憩いの場所だということを声を大にして言いたい気持ちでいっぱいになりました。

取材・記事作成:大阪ローカルメディア ぼちぼち 藤本真里