市民活動ワクワクレポート内容
東淀川区・東淡路に何棟も連なった大規模マンションがあります。それらの棟の下にあるショッピングセンターに現在拠点を構える株式会社Snailtrackは堺で創業し、2011年からは東淡路で新聞販売店を営む会社でした。
マンションが建てられたのは1970年代半ば。当初は働き盛りだった住民も40年の歳月が流れ、高齢化が進んでいます。
Snailtrackが拠点を構えるショッピングセンターも空き店舗が目立ち、当初87店舗入っていたテナントも現在は8店舗になり、空洞化しています。
それを受け、シニアを中心とした「買い物難民問題」を解決する事業として立ち上げた「ばんざい東あわじ」をはじめ、地域の「困った」に焦点を当てた、さまざまな事業を展開する株式会社Snailtrack。
ユニークな事業展開とその秘訣など、代表の本川 誠さんにお話をうかがいました。
株式会社Snailtrackのさまざまな活動をはじめたきっかけはどんなものですか?
高齢化が進むと生活のちょっとした事でのお困りごとが出てきます。
新聞販売店は毎朝・毎夕、新聞を手で配り、集金も対人で行っていて、そういったお困りごとの話を直接聞くことが増えていました。
そこで、今まで商売をさせてもらったこのまちをもっと住みよくしたい!と30分500円(サービス開始当時)のなんでもお手伝いサービス「いえサポ!」をはじめました。
いえサポ!の事業を始めてみて利用者さんと話をしていると、さらにさまざまなお困りごとがあることに気がつきました。
それらを解決するためには、どうしたらいいだろう?とアイデアを考えては活動を実践し、思いついた事をどんどん実行していくうちに、多方面に渡っての事業を展開するようになっていましたね。そうした経緯もあって昨年、新聞販売店を卒業し、地域課題解決に特化した会社として生まれ変わりました。
具体的にどんな活動をされているかお聞かせください
まず最初に始めた「いえサポ!」は電球の取り替えや犬の散歩、庭の草抜きなどのちょっとしたお困りごとをお引き受けするサービスです。
そして、ご要望が多かったために新たに事業化したハウスクリーニングなど本格的なサービスを行う「いえサポ!プロ」ではスタッフはハウスクリーニングの研修をしっかりと受けたり、専門的な知識をつけ、本格的なサービスができるようになりました。
東淀川区は一人暮らしのシニアが多いのに加え、共働き家庭も多く、子どもの教育格差問題があるのではないかと考えました。そこで、安心して放課後を過ごせる場所 「放課後スペースviva!」を開設、子どもの教育リーダースタッフとして携わってくれている「ひだ先生」を中心に、子どもに寄り添って教える地域で一番やさしい個別学習塾「朝日塾」を立ち上げました。ひだ先生は、日中はここで整骨院を開き、夕方から朝日塾という二足のわらじで活躍してくれています。
朝日塾の他に、放課後スペースviva!に宿題をして終わったら遊べる居場所 「しゅくだいカフェ」も運営、子どもの居場所づくりにも力を入れています。しゅくだいカフェ運営の一環で、子どもたちが、未来のためにお金や時間などのリソースを使う思考を楽しみながらはぐくむため、ゲーム感覚で料理スキルが身につくプログラム「じぶんメシクエスト」を考案、現在はクックパッドさんと一緒にプログラムをブラッシュアップし、全国のこども食堂へ広げようと活動しています。
ショッピングセンターに入っていたスーパーの撤退を機に、シニアの買い物難民の問題を解決するために始めた「ばんざい東あわじ」は、1g1円で毎日8~9種類のお惣菜を提供するサービスで、ひとつの器にごはんをよそい、その上に好きなおかずを乗せていく台湾の食堂を参考にしています。食材は買いすぎた食品や賞味期限間際の食品などを寄付してもらい、食材をできるだけ地域で循環できるよう運営しています。気軽に食材を持ち込んで保管したり、ばんざい東あわじで余ったお惣菜はタッパー容器のお弁当「ばんざい弁当」にし、お困りの方が誰でも持ち帰れるように設置した「親切な冷蔵庫」に入れています。親切な冷蔵庫はメディアなどに取り上げられました。ばんざい弁当の器は使い捨てではなく、タッパー容器です。使った容器は洗って返却されますが、いっしょに感謝のメッセージなどがよく入っていて励みになりますし、新たな課題発見につながりますのでありがたいですね。
これだけのたくさんの事業をどのように運営されているのですか?
やはり人の力ですね。
私は新しいことを考えるのが好きで、思いついたらすぐに行動して形にしたいほうです。私が現場に入っていくことは出来ますが、私が現場に入って没頭してしまうと、次の新しいことが始められなくなります。事業を思いついてある程度形になったら、任せられる人を責任者におき、事業を任せてしまいます。任せた後は、相談やアドバイスを求められるまで一切口は出さない。私が新しい事業に意見を出して、「こういうふうにしたらいいんじゃない?」と言ってしまうのは簡単です。でも、任せられた人が考え、自分の仕事としてオーナーシップをもって取り組んでもらうと任された人のやりがいも生まれます。本気で取り組む過程でいろんな壁にぶつかったり、何度も失敗します。でもそれがきっかけでかえっていいものが出来たりします。自分の考えたものが採用され、形になると楽しいですよね。それでまた頑張れる。その繰り返しじゃないかと思います。
これからのSnailtrackはどうなっていきたいですか?
日本は超高齢社会に突入しています。人口は減っていき、全ての商売や仕組みが縮んでいくのは確かで、大きな規模の商売は時代に合わなくなってきます。そうなった時に小さな商圏でいかにうまく小さい商売をしていくか。ただ小さいだけではだめで、本当にそこにいる人が困っていることを解決できるサービスになっているか、必要とされるサービスになっているかが、続けていく上で重要です。
そういう視点を持ち、地域課題解決と商売を掛け合わせた事業展開を行うことで地域の企業はもっと元気に活性化していくと思います。
ローカルとソーシャルを合わせて「ローシャルビジネス」と私たちは言っていますが、小さな範囲、地域の中のソーシャルビジネスを地域密着企業が成り立たせていく、小さい商圏を生態系として支えていく企業が増えたら日本はまだまだ大丈夫だと考えています。
たくさんは儲からないけど、たくさん「ありがとう」を言われ、精神的に豊かな報酬を多くもらえる商売というモデル事例として示していけたら、今後、あとに続く会社が出てくるのではないかと考えています。
現場はスタッフにある程度任せ、自分自身は広告塔としての役割も担いながら、日々頑張っています。
取材を終えて
取材前に少し時間があったのでショッピングセンターを歩いてみました。本当に大きな規模のショッピングセンターですが、空き店舗だらけで、これは未来の日本の姿だと感じました。そんな事を思った後に、本川さんから未来につながるお話をたくさん聞かせていただき、希望が持てるように感じました。
お話を聞いている時に「一回の失敗で失敗した気になっていたら失敗で埋もれて可能性を狭めてしまう。やってみて失敗しないと分からないことがあり、トライの数は人によって違い100回の人も10回の人もいる」という言葉があり、何度でもトライしていいから、私もいろんな事に挑戦していきたいと思いました。
取材・記事作成:大阪ローカルメディアぼちぼち 今井 きょうこ