市民活動ワクワクレポート内容
インクルーシブ教育をご存知ですか?
これは障がいの有無に関係なく、すべての子どもたちが一緒に教育を受けられることを言います。1994年にスペインのサラマンカでの国連総会で提唱された「サラマンカ宣言」以降、世界的にインクルーシブ教育の考えが広がりました。
この考えを広め、どんな子どもにも当たり前の教育環境を与えられてほしいと立ち上げられた「わくわく育ちあいの会」。障がいをもつ子どもの保護者、医師、研究者、行政、政治家、活動に共感してくれる人たちなど、さまざまな人たちと連携協働しながら活動されています。代表の佐々木サミュエルズ純子さん(写真左)と村田恵美さん(写真右)にお話を伺いました。
障がいのある子どもとそうでない子どもが共に学ぶインクルーシブ教育という考え方
「わくわく育ちあいの会」を立ち上げたきっかけや活動についてお聞かせください。
活動を始めたきっかけは2015年、ダウン症の息子が小学校に入学したときです。
息子が小学校に入学した頃の私は、中学へ入学するタイミングで支援学校に行かせることになるんだろうなぁと思っていました。ところが、息子より学年が上の障がいを持つお子さんのお母さんに話を聞くと、「中学校はもちろん地元の学校に通わせたし、高校へ進学している」と言われたんです。障がいのある子どもをわざわざ電車やバスに乗せて遠くまで毎日通学させるよりも、他の子どもたちと同じように近くの学校に通わせてもいいんだと気づかされました。大阪の教育の基本理念が「ともに学び・ともに育ち・ともに生きる」であることにも勇気づけられました。
それから勉強を始め、インクルーシブ教育のことを知り、同じ思いを抱えている保護者の方たちと会を立ち上げました。
もとは「インクルーシブ教育をすすめる会」だったのですが、一般的にわかりにくいのではないかとの声が内部から上がり、最近「わくわく育ちあいの会」に名称を変更しました。
現在、会の登録メンバーは30名ほどになりました。障がいをもつ子どもの保護者だけでなく、活動に共感してくれる保護者、学校の先生たち、研究者、医師、弁護士、報道関係者の方など、多岐にわたっています。
これまでに、大阪市教育委員会と年2回ほどの意見交換会を行ったり、コロナ感染拡大以前には、定例会としてランチ会を開催し、子育ての悩みや、インクルーシブな教育の実現のためにやりたいことをメンバーと話し合ったりしていました。
この「インクルーシブな教育の実現のためにやりたいこと」というのが、どんどん話が大きくなって、2019年1月に大阪市北区社会福祉協議会主催、わくわく育ちあいの会と当会のメンバーでもある瀧澤美紀さんが代表を務める特定非営利活動法人Sunny onesが共催という形で、「みんなの学校」無料上映会&シンポジウムが実現しました。
映画「みんなの学校」とは不登校も特別支援学級もなく、普通の公立小学校でありながら同じ教室でみんなが同じように学べる大阪市住吉区の大空小学校の活動の記録をまとめたドキュメンタリー映画です。大空小学校の初代校長である木村泰子先生、企画をされた関西テレビの迫川緑さんをはじめ、さまざまな分野の方のご協力を得ることができました。ランチ定例会で「子どものために何ができるかな?」そんな話をしたことに始まり、私たち自身も想像していなかったような大きな活動につながり、当時は、自分たちでも驚きでした。
シンポジウムを開催した大阪市北区の北区民センターでは、たくさんのイスを用意したにもかかわらず、立ち見が出るほどの盛況でした。インクルーシブ教育が当たり前の教育環境になってほしいというみんなの思いを多くの方に共有していただけたと思っています。
行政や政治家の方への働きかけを行う一方で、誰もが参加しやすいゆるやかなつながり
教育の仕組みを変えるということについて、どのような働きかけをされていますか?
行政や政治家の方への働きかけもしています。
公立小学校や中学校の教育環境の改善などは、区単位などではなく大阪市や大阪市教育委員会に陳情することになります。大阪市は全国的にみるとインクルーシブ教育への取り組みが現場の先生も含め熱心だと思いますが、少数派である障がいをもつ子どもへの配慮というのは、まだまだ十分ではないと感じ、保護者の生の声に耳を傾けてもらえるようにと、研究者の方を交えて行政だけでなく政治家の方も巻き込んで勉強会を開催させてもらっています。政治家の方にも超党派で取り組んでいただけるように、各党へお願いに伺ったりしています。
これを言うと、敷居が高いと感じる方がおられるかもしれませんが、メンバーの中には障がいを持たない子どもの保護者もいます。「子どもが安心して学校に通えるようになってほしい」「子育ての悩みを聞いてほしい」など、子育てに関する悩みは誰もが抱えているのではないかと思います。だから子育てのこと、教育のこと、関心がある方は誰でも大歓迎ですし、普段はゆるやかなつながりで活動しています。メンバーの居住地・活動エリアも多彩で、地縁が強いわけでもないので気軽に参加していただけると思います。
障がいをもつ子ども、そうでない子ども。当たり前にお互いを認め合う社会をつくりたい
最近始められたことや、今後への抱負をお聞かせください。
コロナで、シンポジウムのような大きなイベントはできていないですが、できることをコツコツと進めています。
いろんな方とつながりたくて、2021年から淀川区の社会福祉協議会でボランティア登録をしました。大きな病気、身体的な障がい、あるいはダウン症や自閉症などの知的な障がいがわが子にあると診断され、ふさぎこんでしまっている保護者のかた、そうでなくても何らかの生きづらさを感じている保護者の方や子育てについて悩みを抱えている方がいらっしゃれば、是非私たちに連絡してほしいと思ったからです。1人で思いつめなくてすむように、同輩・先輩として心のサポートを進めていきたいと思っています。
私たちの取り組みに共感してくれたメンバーの方が、別の区でも同様にボランティア登録をしてくれたり、動きだしています。
大阪市の各区にある社会福祉協議会はとても親切に対応してくれています。
子どもの頃、同じ学校に車いすにのった障がいをもつ子どもが通っていて、中学のときは部活動も同じように参加していた記憶が鮮明に残っています。
その頃のことを思うと、現代のほうが、インクルーシブな社会という点で、後退しているような気すらします。子どもを傷つけたくない思いから、遠くの支援学校にあえて通わせる選択をしてしまう親も少なくありません。でも子どもの時期こそが重要なんです。子どもの時期から一緒に過ごし、一緒に学び、当たり前の存在として認め合うこと。その実体験が必要なんです。あの頃のように違和感なく当たり前にどんな子どもも近くの学校に通わせることができたら…。そんな社会とするため、今後も積極的に活動をしていきたいと思います。
<取材を終えて>
純子さんと村田さんのお話を聞くまでは、少し対岸の火事のように思っていたところもあったのですが、「少数派にやさしい社会は多数派にもやさしい」と「多数派の人も事故や病気である日突然、少数派になることはあるんです」というお二人の言葉に目が覚める思いがしました。
コロナ感染拡大の終息がみえなくて人の心はギスギスしがちですが、多様性を認めようという社会の流れがあるいま、まずは人間の軸となる教育の現場から変わっていってほしいと思います。
大阪ローカルメディア ぼちぼち 藤本真里