市民活動ワクワクレポート内容

「学び合い助け合う長屋型大型マンション」

 

大阪市都島区の「毛馬コーポゆうゆうクラブ」は高齢化が進むマンションのコミュニティーづくりのモデルとして注目を浴びる築42年の民間マンション「毛馬コーポ」に住む住民の助け合い組織です。

ゆうゆうは友と遊を意味し、住民がゆるやかにつながって「学び合い助け合う長屋型大型マンション」を目指しています。70歳以上の住民が半数以上を占める高齢化マンションは、助け合いの温かい空気に包まれていました。

 

ちょっと楽しい在宅医療勉強会 福祉や健康のテーマ学ぶ高齢者

 

「ちょっと楽しい在宅医療勉強会」が12月の日曜日に毛馬コーポ集会室で開かれ、対面とオンライン併用のハイブリッド方式で会場11人、オンライン参加15人の計26人が学びました。この日のテーマは「健康寿命をのばすお片付け」。株式会社くらすむーぶ(大阪市住之江区)の住環境アドバイザー、みやたかみちよさんが講師を務めました。

「片付けは究極のバリアフリーです」

「自分らしく生活するため要らないものを減らしましょう」

みやたかさんが片付けの心構えを説明すると高齢者は熱心に聞き入ります。「『きれい』や『美しい』より安全第一をこころがける」「シルバー・シニアの片付けは『余生を快適に過ごすこと』」といった具体的なアドバイスが続き、参加者から「とても勉強になりました」と反響がありました。

在宅医療勉強会は2018年にスタートし、年4回程度開かれます。介護保険、認知症、末期がん、新型コロナウイルス、脳梗塞……高齢者の関心が高い病気や健康、福祉にかかわるテーマを毎回学びます。同じマンションで暮らす高齢者は、看取りなど現実の問題にも、ともに向き合っています。

 

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毛馬コーポゆうゆうクラブ1

 

有償ボランティア「お手伝いネット」やセルフカフェも

 

毛馬コーポは、1979年築の地上11階建てマンションで総戸数198戸。70歳以上の高齢者が住民の半数以上を占めます。淀川に近く自然環境に恵まれ、梅田に近くて住みやすく、比較的長く住む住民が多いのが特徴です。

毛馬コーポゆうゆうクラブの活動は2013年に始まり、定期的に集会室に集まるセルフカフェを開いてきました。

「2025年には団塊の世代が後期高齢者になる」と危機感を抱いた世話人代表の前田智希子さんがマンション住民に呼び掛けて結成されました。「なんとはなしに集まるのがいい」と厳密なルールを設けないゆるやかな組織です。それが長続きしている秘訣のようです。

包丁とぎや家具の移動など生活を手助けする有償ボランティア「お手伝いネット」、介護予防にも役立つピラティス、コーラスサークル、セルフカフェなどの活動を展開しています。毎月開かれるセルフカフェの参加者は女性が多く、囲碁・将棋・麻雀には男性も集まります。

70 代の住民が中心の世話人会10人が毛馬コーポゆうゆうクラブの運営を担っています。

世話人の一人で看護師であり元大学教授でもある青山ヒフミさんは、在宅医療勉強会の企画や司会も担当しています。青山さんは「地域の交流が進みました。私は以前、仕事ばかりで地域活動には縁遠い存在でした。5年前からゆうゆうクラブにかかわって、立ち話できる仲間が増えました」と話します。世話人副代表の飯田和代さんは「私は一人暮らしです。なんとなく集まれる仲間の存在が安心につながります」と語っていました。

 

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心強い専門職の支え 大学生もサポートに加わり

 

専門職からの支援もあり、いんべ診療所長の忌部周さんも在宅医療勉強会を応援しています。忌部さんはレゴブロックを用いてまちを考えるワークショップを開くなどして「住民主体で続く活動を支えたい」と願っています。毛馬コーポの周辺地域は都島区内でも高齢化率が高いエリアとなり、「超高齢社会の先端にあり、訪問診療でも看取りのケースが増えています。健康寿命をのばすためにも地域の人のつながりは大切です」と強調していました。

新型コロナウイルス感染防止で、在宅医療勉強会もオンライン開催になりました。当初は、都島区社会福祉協議会の生活支援コーディネーターだった佐々木さやかさんが高齢者宅を個別に回ってズームの接続方法を伝えました。佐々木さんは「高齢化率は高いのに好奇心旺盛で気持ちは若い方が多く、パワーがあります。毛馬コーポの取り組みを他の地域に伝えたい。点と点がつながり、線となり面となって住民主体のコミュニティーが広がってほしい」と期待しています。

新しいチャレンジに積極的な姿勢から、活発な行動力が生まれています。ズームを始める際、接続の設定などあらゆる段階で支援が必要でした。マンションに住む大学生、久保田晴貴さんがズームに接続するパソコンの操作も手伝い、グループLINEのつくり方も伝えました。周囲の人から「はる君」と親しまれる久保田さんは、ワクチン接種の予約受け付けでも活躍しました。久保田さんは「生まれたときからこのマンションで暮らしているので、安心して家に入れてもらいます。みなさんのお役に立てることがうれしい」と楽しげでした。

 

毛馬コーポゆうゆうクラブ3

 

「健康寿命をのばそう!アワード」最優秀賞を受賞

 

令和2年11月、「第9回健康寿命をのばそう!アワード(介護予防・高齢者生活支援分野)」で全部門の全国1位に当たる厚生労働大臣最優秀賞を受賞しました。補助金も受けない住民主体の活動は「これから進むべき生活支援・介護予防の到達点の姿を示した」と評価され、「本人たちもびっくりした」と振り返っていました。

この受賞のきっかけをつくったのは、在宅医療勉強会のオンラインの開催に尽力された佐々木さやかさん。当時は住人のみなさんとも親交を深めながらさまざまなサポートをしておられましたが、その後は独立して「はる社会福祉事務所」を設立され、日々ご活躍されています。

今後について、青山さんは「世話人も5年たてば、みな後期高齢者になるので、次の60代の世代に引き継ぎたい」、飯田さんは「男性の参加者がもっと増えることを望んでいます」と語っていました。

 

毛馬コーポゆうゆうクラブ2

 

<取材を終えて>

世話人のみなさんのほがらかな笑い声に包まれました。

同じマンションに長く住む住民が多く、住民同士の結びつきが強いコミュニティーです。同じ住民同士の安心感があるのか、在宅医療勉強会にも世話人会にもやさしく親しいムードが漂っています。

「健康寿命をのばそう!アワード」最優秀賞の受賞で有名になり、先進事例として紹介されることも増えています。

「住民パワーでコロナ禍の閉塞感も吹き飛ばそう!」

「こんな楽しいマンションで長生きしたい」

「ピンチをチャンスに」

そう思わせる雰囲気に満ちあふれていました。

ゆうゆうクラブのパワーと行動力が地域社会に広がったら面白い。そう実感しました。

 

取材と報告:市民記者 中尾卓司