市民活動ワクワクレポート内容
磯路地域は、JR・地下鉄弁天町に面した大阪市港区中心部の住宅地です。地域の行事や地元の人間関係を大切に、地域防災や福祉の活動にも力を注いでいます。地域のおこまりごとにも、たすけあいの心を重んじます。磯路地域活動協議会の会長、佐野耕司(さの・こうじ)さんと書記の古島智枝子(こじま・ちえこ)さんに活動ぶりを聞きました。
やさしさ、あんしん、すこやか、すみよい…親しみやすさに拘った部会の名前
磯路地域活動協議会の組織を教えてください。
佐野さん
磯路(以下、地活協)は、「誰もが輝き、元気で、やさしさに満ちた、安心してすこやかに暮らせるすみよいまちに」と目的を明記しています。誰にでも、わかりやすく、しかも、ひらかなでやさしい印象が伝わるように、目的の中に部会名をリンクさせています。
健康・福祉 やさしさ部会
防犯・防災 あんしん部会
子ども青少年 すこやか部会
環境・文化 すみよい部会
親しみやすい名称の部会がそれぞれ、幅広い活動を担っています。
磯路地活協の恒例行事を教えてください。
佐野さん
地域の運動会「磯りんぴっく」は老若男女問わず、誰もが参加できるよう簡単なルールの玉入れや綱引きなどのプログラムが組まれ、フィナーレはギャラリーもスタッフも全員参加の「大じゃんけん大会」で盛り上がります。会場は磯路小学校です。
その磯路小学校の西側の「桜通り」は街路樹として植えられた桜の木が有名で、4月には「桜まつり」を開いています。もともとは、桜通りに沿った住民有志の組織「桂音会」が桜の保存に取り組んでいましたが、補助金も出ない中、メンバーの高齢化などから、桜の木の維持管理が難しく、その現状を知ってもらおうと実施したものでした。安全面から、ガードマンを配置し、小学校前のゆずり葉の道を歩行者天国にし、牛乳パックを活用し、子どもたちが作成したぼんぼりを飾りつけます。港区内のほかの地活協の協力を得て模擬店を出店、毎年にぎわっていました。残念なことに、2019年は統一地方選挙と重なり、昨年と今年はコロナ禍のために桜まつりは3年間、中止が続いています。桜の木も老木化してきたことで、台風などの災害時には危険視され、伐採が検討されています。街路樹にふさわしい品種の桜に植え替えるなど、桜を楽しみにしておられる人々と共存できる方法を提案しています。地域住民の声を行政サイドに伝えることも、準行政組織としての地活協の役割です。
古島さん
未就学児から概ね高校生ぐらいの子たちが、ゆっくりと集える場になればと月1回の土曜日に「いそじ~らんど」を実施しています。学校でも家庭でもない居場所であり、子どもたちに生きる力を伝える場です。子どもたちはそれぞれ脳トレなど楽しめる学習活動に取り組んだり、宿題を持参する姿も見られます。コロナ前は、お好み焼きを焼いたり、餃子の皮を包んだり、料理も参加者みんなでつくっていました。現在は地域の飲食店のご協力のもと、手作りのおにぎりやお惣菜が届きます。創作タイムには、ハロウィングッズや落ち葉でしおりをつくったり、クリスマスリースを作成したり、季節感あふれる企画が続きます。幅広い年齢層のスタッフが、球技や囲碁、手芸、ボードゲームなど、子どもたちの遊びの相手をしながら、子どもたちからこぼれて来るお話に耳を傾けます。
配食サービス、ワクチン予約の代行支援など新しいことにもチャレンジしたコロナ禍
コロナ禍でどんな変化がありましたか。
佐野さん
独居高齢者向けの食事サービスを毎月1回、実施していました。コロナ禍で大勢の方が集まって会食することを避けるため、お弁当を配食する形に切り替えました。配食といってもけするのではなく、お元気な方には磯路会館まで取りに来てもらいます。毎回60人程度の利用があり、「変わったことない?」と声を掛け合うことは、見守り、安否確認、の相談などにつながっています。地域の飲食店4軒の協力を得てコロナ禍で打撃を受けた地元の飲食店に対するささやかな協力にもなります。コロナ禍で何もかも中止にしてしまうのではなく、ウィズコロナの発想で、できることを工夫しています。
古島さん
配食サービスの場で「新型コロナウイルスのワクチン接種、予約でけへん。どうしたらええやろか」と相談を受けたことをきっかけに、ワクチン接種予約代行の支援が始まりました。予約開始の日、希望者に会館に来ていただいて、予定を確認しながらスタッフ3人でスマホとパソコンを駆使し、予約が空いている日時を狙ってアクセスを続けました。5月は60人くらいの予約を取ることができました。
古紙回収もされているのですね。
佐野さん
古紙回収も、毎月の定例行事になっています。2015年に、それまでのこども会から地活協が引き継ぎました。1回で10万円くらいになる収入を積み立てて、いずれ、磯路会館を改修する費用に充てて、磯路会館のバリアフリーを実現したいと願っています。
地活協通信を毎月発行 全戸に配布
地域活動協議会通信を毎月発行されていますね。
古島さん
地活協通信は、地活協が設立された直後の2013年3月に第1号を発行しました。それから毎月発行して今年の6月に節目の100号を迎え、11月で105号になりました。105号では「町並み清掃」、「いそじ~らんど」などを報告しています。毎月、紙面の許す限り、行事報告や地域の話題を紹介しています。
港区の「広報紙みなと」を磯路地域の全戸に配布する事業を受託し、地活協通信も一緒に挟み込み3,600世帯に全戸配布しています。「楽しみにしている広報紙と地活協通信が届かない」と港区役所に苦情が届いたことがありました。苦情を寄せた方のご自宅を訪ねて、ご本人の声を直接お伺いしました。地活協は全住民が対象ですが、その方は町会に加入していないことで届かなかったと思われていたようです。地活協と町会は、性格が異なります。再度、全戸配布を徹底しました。地域住民のおこまりごとに耳を傾けることも私たちの役割です。
「防災」への強い思い入れが地域活動に目覚めたきっかけ
佐野さんが地域活動に目覚めたきっかけはありますか。
佐野さん
地活協が設立する以前に参加した行政主導の防災訓練では、学校まで避難して校舎の3階に上がるだけの内容でした。「こんな訓練なら、参加する意味がない」と思われてしまうことが大いに懸念されました。地域の訓練は地域で立案し、防災リーダーを中心とした訓練を実施する。この訓練が『自分たちの命は自分たちで守る』ということを意識するきっかけとなりました。
地活協では、災害に備える自主防災組織「磯路風゜(いそっぷ)」を立ち上げました。名称には、防災も、福祉も、磯路に地域活動の風を吹かそうという思いをこめました。小学校や中学校の防災授業にも、児童・生徒とふれあいながら「磯路風゜」のメンバーが参加協力しています。
いざというときに助け合える人間関係を構築したい。自然災害などの緊急時に自力で逃げることが困難で、手助けを必要とする高齢者や障がいを抱える方がどの家におられるのかを把握するため、地域地図にシールを貼って色分けし、一目でわかる災害時要支援者マップを作成しました。自分たちのまちは自分たちで守りたいからです。実際に、大阪北部地震の際も手分けして、70歳以上の方を訪問して、安否を確認しました。
地域の担い手づくり 地道な活動の積み重ねから
今後の抱負を教えてください。
古島さん
地域住民の小さなおこまりごとに、ちゃんと対応できる地活協でありたいですね。配食サービスを続けていると高齢者の一人が「頑張ってもらって、いつもありがとう」と花束を持って来てくれたことがあります。地域の方が喜んでくださる、笑顔を見ると「また頑張ろう」という力が湧いてきます。
佐野さん
「誰もが安全で安心して暮らせるまちにしたい」です。
例えば、点字ブロック。視覚に障がいをお持ちの方が頼りにしているこの点字ブロックが大通り沿いなのに途中で途切れている箇所があります。点字ブロックの整備が早急に必要となり、関係機関へと繋ぎます。地域活動は「どうせやるなら楽しくやりたい。」会長が名誉職にならないよう、任期も「75歳定年」を明文化して、若い人が参加しやすいようにし、地域をよりよくするために提案し合える雰囲気は車座の会議から生まれます。磯りんぴっくや盆踊りなど、各行事のあとは、必ず振り返り会を実施。磯路会館に集まって「今日はどうやった?」と話し掛けます。若手からは「もっと参加者を増やしたいですね」と前向きな提案、すかさず「どうしたら人が集まると思う?」すると「子どもが楽しめるコーナーを増やせば、子どもの参加が増え、そこには親が一緒に来てくれる」「そのコーナー任せるからアイデア考えといてな」「次は、周りの仲間を誘ってきてや」と次々と声があがります。日頃からの声掛けや、若手と呼ばれるメンバーにも役割を分担し負担感の少ない参画の形を取るなど、共に創りあげていき、達成感を持ってもらうことで、担い手を増やす仕組みができています。
磯路地域活動協議会 JR・地下鉄弁天町駅に面した港区中心部の住宅地、磯路小学校区に約3600世帯が暮らす。「やさしさ」(健康・福祉)、「あんしん」(防犯・防災)、「すこやか」(子ども青少年)、「すみよい」(環境・文化)の四つの部会を設けている。活動拠点は、磯路会館老人憩の家(大阪市港区磯路3-3-20)。
地域活動協議会(地活協) おおむね小学校区を基本単位に、地域の実情に応じた形で各種地域団体や多くの住民が参加して、地域の活性化や課題解決に取り組む地域運営の仕組み。地活協は、行政ではカバーできない市民活動に取り組む行政の機能に準じた役割と、住民の意見をとりまとめる総意形成の機能も果たす。
<取材を終えて>
「おこまりごとに気持ちよく応える地活協に」
「自分たちのまちは自分たちで守りたい」
「高齢者にも障がいを抱える方にもやさしいまちに」
「子どもたちには生きる力を」
佐野さんと古島さんは、熱く語っておられました。まっすぐで熱い思いにあふれた地元愛が地域社会を支えています。小さな声を聞き洩らすことのないよう、対話とつながりを重んじている姿勢が伝わってきました。
地域活動の原点は、人と人のふれあいから。
とても大切なことを確認できた取材でした。
取材と報告:市民記者 中尾卓司