市民活動ワクワクレポート内容
子どもたちが和気あいあいとランチを楽しむマンションの一室。大阪市鶴見区で第1・3土曜日にオープンしている「こども食堂うつぎ」です。「子どもが落ち着ける場所を作りたい」という思いから、自ら経営されている会社とは別に、NPO法人PASまいんどを立ち上げ、こども食堂事業をスタートされ、現在は、こども食堂運営にとどまらず、さらなる夢を抱いているとのこと。株式会社PASまいんど 代表取締役 安本幸子さんに話をお伺いしました。
障がい者や高齢者の介護サービス事業を展開
「PASまいんど」とはどのような活動をされている組織ですか。
会社としては、高齢者や障がい者を対象に生活介護や就労支援などをしています。ほかに児童の放課後デイサービスもしています。利用者のほとんどが障がい者で、だいたい80名くらいです。地域に開かれた居場所づくりとして2018年から、「こども食堂うつぎ」の運営を始めました。こども食堂の運営をするにあたっては、「NPO法人PASまいんど」を立ち上げ、さまざまなご支援をいただくことで持続運営ができています。
幼いころの経験を糧に 子どもが落ち着ける場所を作りたい」
こども食堂を始められたきっかけを教えてください。
もともとはフリースクールをしたかったんです。障がい者の人を対象とした介護サービスや支援はたくさんあるのですが、不登校児など、障がい者ではないのだけど、生きづらさを抱えるような人たち向けには支援が整っていないし、サービスが少ないと感じます。
学校だけが学習の場ではないと思うので、来れば心を開けるような場所を作りたいなと思ったんです。学校に行けないのには、理由があると思うから。しんどいこととかね。その中で、「もしかしたら発達障がいがあるのでは」と気づいて専門のサポートにつなげることもできますし。
でもフリースクールとなると、就労支援などを含めて運営に十分手が回らない可能性もあり、断念しました。だから、そういう子も含め、いろんな子どもたちが来て落ち着ける地域の場所づくりということで、こども食堂を立ち上げ、運営することにしました。
私自身、幼いときに地域の青少年会館によく行っていたんですが、大学生のお姉ちゃんやお兄ちゃんが、宿題を見てくれたり、遊んでくれたりしてね。家にいたくないときなどは、そこにいると気持ち的に落ち着けたんです。そんな風に落ち着ける場所が欲しい子もいるんじゃないかと、もとを辿ると、それがきっかけになっていると思います。
日本の伝統や文化を引き継ぐため、祭事を意識したメニューも取り入れる
こども食堂を運営する上で、大切にしていることはありますか。
心の貧困問題を解消するには?ということを常に考えています。今って、昔に比べて家族で食卓を囲むことが減ってきていると思うんです。だから、知らない子ども同士でも気軽に食卓を囲んだり、おしゃべりしたり、遊べる場を作れば、喜んでもらえるかなあと。女の子なんかは、お皿を洗うのを手伝ってくれたり、お米を洗ってくれたりします。私は、どんどん手伝ってもらっていますね。人と人とがかかわるって生きていく上でとても大事だと思っています。
子どもたちが気軽に来て落ち着ける場所ではあるけど、ここでの活動や遊びを通じて、主体性やコミュニケーション力などを含む「生きる力」を子どもたちが体感理解してもらえることを意識しています。
メニューについては、日本の四季折々の行事を意識しています。日本の文化は引き継いでいかないといけないと、個人的に強く思っているところがありますね。例えばお正月は、ミニおせちを作ります。それだけじゃなく、おせちの意味を紙に書いて、貼りだします。子どもたちがちゃんと理解できるように伝える工夫をしています。2月は節分、3月はお雛祭りとか、いろんなことを身近な「食」を通じて教えていけたらいいなあって思っています。あと、来てくれるのは小学生が多いから、素直なうちに教えておきたいというのもあります(笑)。また、子どもが好きな調理法や味付けを心がけていますね。
地域の高齢者が作った新鮮野菜を子どもたちへ
地域で連携されている団体はありますか。
いつもお野菜をいただいているのは、鶴見区シニアボランティア アグリさんです。
木曜日にもらって、金曜日に洗って土を落とし、当日の土曜日に調理しています。
こども食堂を始めたときに、役所や社会福祉協議会などから、「高齢者のボランティアの方たちが作った野菜を使ってくれないか」と声をかけてもらったのがきっかけでしたが、採れたての新鮮で安心な野菜をいただけるのはありがたく、とても助かっています。
アグリの方が野菜を届けに来てくださった時、こども食堂での様子をご覧になるのですが、その時間がとれない時でも、アップした写真などで子どもが食べているのを見てくださっているみたいです。
弁当配布になったら来なくなった子もいた…人と人とのふれあいを求めている子はいる
コロナ禍ではどう運営されていましたか。
緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置などが出ていた際は残念ながら閉めざるを得ませんでした。2020年は、7月ごろからお弁当の配布をしていましたね。でも、食べには来ていたのに、弁当の配布は来ない子もいて。再開してからは、近くの公園まで見に行って声をかけたりして、もともと来ていた子が戻ってきたということもあります。
やっぱりここに来て、みんなでご飯を食べて遊んで…人と人とのふれあいに価値を感じていたのかと思います。
子どもがいつでも飛び込めるカフェを さらに広がる夢も
これからの夢はありますか。
今のこども食堂は、日にちが決まっていると、日が合わないと来られない子もいます。だから、いつでも行けるこども食堂カフェバージョンを展開したいです。その際は、スタッフとして障がい者の方に施設外就労でサポートしてもらってね。
共働き家庭の中には、お金を置いていって、「これで食べといて」という家庭も多いです。いくらそれが十分なお金で、好きなものを買って食べられるとしても、孤食というのはやっぱり心の貧困につながると思います。お弁当の配食にした途端、来なくなった子がいたように、人とつながることのニーズはあるはずなんです。子育てしているお母さんも、地域で孤立しがちです。そんな方も気軽に行ける場所としてありがたいと思ってもらえるんじゃないかなと。
例えば子どもたちに、「自分のものは自分で片付けて」というカフェでもいいと思います。主体性をはぐくめるし、コミュニケーションの中で、心の悩みを打ち明けてくれたりしたらうれしいですね。心の貧困をなくすために子どもや孤立しがちな大人がいつでも飛び込める場所、あったらいいですよね。だからぜひチャレンジしたいです。
あともう一つ、何年も前から抱いている夢があって。
障がい者の親御さんは、自分に何かあったときの子どもの未来を心配されています。だから、例えば1階が高齢者、2階が障がい者と、一緒に入所できる場所ができたらいいなあと思っています。一緒に食事をしたり、時には一緒に寝たり。もちろんサポートも付ける。今は制度が整っておらず、難しい部分もありますが、実現したらいいなあと思っています。
取材・記事作成:フリーライター 宮本 美智子