市民活動ワクワクレポート内容

子どもが集うひろばや、親が集う交流会サポート、親子イベント等を始め、子育てを核とした「居場所づくり」を主軸に、積極的な活動を展開されている「NPO法人 にしよどにこネット」代表理事 福田 留美さんにお話を伺いました。

 

福田様

 

NPO法人 にしよどにこネット

代表理事 福田 留美さん

地縁のない都会において核家族という状況で子どもを授かり、人と人のつながりが希薄な現代社会での「孤立や不安」等子育ての大変さを痛感した女性により立ち上げられた子育てサークルが出発点。平成8年、地域で始めた子育てサークル活動が地域に広がり、5サークルになった平成10年、「孤立・不安・競争の子育て」から「共同・安心・信頼の子育て」となることを目的として子育てのネットワーク「心の子育てネット にしよどがわ」を発足。活動10周年にあたる平成20年に「NPO法人 にしよどにこネット」として法人化されました。

 

 

現代子育てにおける課題解決のためのネットワーク構築と親子の主体性を育むさまざまな子育て支援

「にしよどにこネット」ではどのような活動をされていますか?概要をお聞かせください。

「安心して生み育てるまちづくり」「生きがいのあるまちづくり」「子育てしやすいまちづくり」を掲げ、コミュニティの活性化と男女平等参画社会の形成つまり“子育ての社会化”に寄与することを目的に活動しています。

具体的には地域で生活する親子や子育てサークル及び子育て支援に関わる人に対し、現代子育ての課題解決を図るためのネットワークを構築。親子の主体性を育む子育て支援に関わる事業、“遊ぶ”“出会う”“支える”“育ちあう”“学び”“伝える”の切り口ごとに様々なプロジェクトを実施しています。

2年前に前任より代表を引き継いだことをきっかけに、有償ボランティアスタッフの雇用を踏まえて就業規則を見直し、子育てしながらでも子育てスキルを活かして地域で無理なく働ける環境づくり・雇用創出に努めています。

プロジェクトは、代表である私が指示して進めるのでなく、スタッフが自身の思いや経験、アイデアを活かして自立して行ってもらうスタンスです。その人のやりがいに繋がるようなプロジェクトを、スタッフ自ら企画し、アイデアを実現させるためには、子育て真っ最中のママや多様な立場の仲間がかかわってブラッシュアップし、プロジェクトが成長していくことが理想です。

私はスタッフの背中を押す、応援する、といった役割でしょうか。そうありたいと常に考えています。

 

 

●活動概要(主なプロジェクト活動)

プロジェクト概要

 

「子育ては一人ではできない」―小さな子育てサークルに参加したことから始まったキャリア

非常に多岐にわたる活動をされていますが、これまでの経緯についてお聞かせください。

1996年に前代表理事の原 博美さん(NPO法人 おひさま 理事長・NPO法人 にしよどにこネット相談役)が「おててつないで」という子育てサークルをつくられたのが始まりでした。当時、同じマンションに住むママ友が、メンバー募集のチラシをスーパーマーケットで受け取り、「一緒に行きませんか?」と誘われて参加したのがきっかけです。幼い息子の手を引き、お腹には娘がいました。その娘ももう20歳!早いものですね。でも、ドキドキしながら参加した当時のことは、今も鮮明に思い出されます。

その後、子育てに関するコーディネートができる「子育てネットワーカー」を育成するためのプログラムを原さんに勧められて受講する等、必要なことを学ぶ機会に恵まれ、そこで得た知識や経験を発揮する機会や繋がりを活かして新たな活動を立ち上げる…といったように走り続けてきて、現在に至るといった感じです。

出産・育児がきっかけで退職する前は、金融関係の仕事で、世間一般で言うところのバリバリのキャリアウーマンでした(笑)

結婚・出産によって赤ちゃんのぬくもりから人間らしさを感じ、子育てに専念することを決めました。

今だからこそ「ワンオペ育児」という言葉が流行していますが、原さんと知り合えたことで、「子育ては一人ではできない」という考えに強く共感できました。「一人で子育てしても楽しくない、だから誰かと繋がりましょう」と、ゆるやかに繋がるグループを発展させてきた結果・成果として「にしよどにこネット」があると考えています。

支援される側としてサークルに関わっていた頃、子どもの月齢や年齢が同じ人と話す機会があることにより、子育てに関する悩みがぐんと減っていくことを肌で感じました。その経験から「年齢別広場」をつくったり、状況に応じて事業やプロジェクトを立ち上げてきたという感じです。

 

 

大阪市長賞を受賞した学校教育プログラム「いのちのふれ合い授業」

さまざまな事業の中で特筆すべき活動について具体的にお聞かせください。

CSOアワード2018で大阪市長賞を受賞した「いのちのふれ合い授業」です。これは小学校を中心に、児童と妊婦さんや赤ちゃん親子が触れ合う交流授業で「いのちの尊さ」や「家族や人とのつながりの大切さ」を感じてもらうことを目的としています。

授業の時間だけでなく、授業後には授業のふりかえりとなる絵日記等を作成してもらい、そこに保護者からのメッセージ欄を設けることで、「いのち」について家庭内で話したり深い会話をしたりすることを促進しています。、このようなきっかけが、子どもの心の成長に繋がり、家庭教育の一助にもなればと願っています。

2002年、地元の佃南小学校で始まった授業が、地域の方々の声で中学校、高等学校にまで幅が広がり、開催校が年々増えました。今では授業に参加したスタッフや児童・生徒、妊婦さんなど、年間延べ1,500人もの方が授業に携わっています。わが子にも授業を受けさせたいと、学校との連携や授業に参加されているスタッフは、現在24名になりました。基本的に西淀川区内だけの実施に留めていたのですが、2007年、阿倍野区の団体からの要請でノウハウの伝授を行ったことを皮切りに、その後も、北区、東淀川区、松原市とそれぞれ各地域へのノウハウの伝授・開催の支援というスタンスで、授業の開催地域が拡がっています。

 

 

単なる授業パッケージではない。「地域交流を通じて地域の力を底上げする仕組み」

「いのちの授業」の実施スキームにおけるこだわり、大切にされていることは何ですか。

参加する側(妊婦さんや赤ちゃん親子)も一緒になって授業をつくる、というコンセプトで実施しています。例えば「あのおばちゃん知っている人や」という環境下で授業を行うことを大事にしたいので、授業をパッケージ化してツールだけを提供する、というやり方では成立しないものなのです。地域でこのプログラムをプロジェクト化し、運営できる人を増やしていくことで、地域交流を通じて地域の力を底上げする仕組みにできればと考えています。

地域の方(コーディネーター)が、ふだんよく知る地域の方(妊婦さんや赤ちゃん親子)をコーディネートし、地域の学校で実施するという点です。私たちにとって、縁や関係性がない方々や、地域と繋がっていないエリアを対象に、授業そのままをお届けすることはできません。デモンストレーションの講演会や、その地域の方々が「いのちのふれあい授業」をモデルに自分たちの地域でプロジェクトを立ち上げるという形での支援であれば、協力させていただいています。

うちの子どもにも受けさせたい!地域で授業を実現させたい!と考える保護者の方々に、授業の組み立てからネットワークづくり、学校との事前調整等、具体的な体験を通じて「学校と地域とが一緒に授業をつくる」ノウハウを学んでいただき、地域で自立して実施できるよう、プロジェクトリーダー、助産師、私たちスタッフがサポートさせていただきます。

本授業を機に、参加された方(妊婦さんや赤ちゃん親子)が、数年後には運営側のメンバーとしてプロジェクトのシャツを着て学校へ行く、という風景があちこちで見られればいいですね。

 

 

~よりそう人と場所がここにある~メッセージを「届けるべき人」に届けるために

喫緊の子育て課題は何だと思われますか。その対策として取り組まれていることはありますか。

「子育て中の親の孤立」ですね。特にマンション暮らし等、日頃、コミュニティでの繋がりをつくりにくい方は、他の方の実態が見えにくいですから…。家族がいても相談ができなかったり、悩みをタイムリーに共有できる友人や仲間がいなかったり、子育てを自分一人で抱え込んでいる親はたくさんおられると思います。

不安とか孤立感がまだ小さいうちに、“ほっ”とできる場所、関係をつくっておければ、いざというときに相談しやすく、解決できることもあると思います。本当に困っていても、どこへ相談すればいいのかわからない。そうこうしているうちに時間ばかりが経過し、手遅れになってしまう。そんな悲劇は何としても防ぎたいです。そこで、「子育てを応援する担い手育成連携事業」を起ち上げ、西淀川区役所、西淀川区社会福祉協議会、西淀川こどもセンター、おやこ劇場、あおぞら財団等、さまざまな団体が協働して「ふわり子育てよりそい隊」というプロジェクトをスタートさせています。

もともと、「マンションのエレベーターで親子さんに声をかけるときに、何かきっかけとして渡せるものが欲しい」という地域の方の声があり、それを実現させたものです。

まず活動に求心力を持たせるために、コミュニケーションマークをつくり、マークとQRコード、「よりそう人と場所がここにあるよ」というメッセージを印刷した名刺サイズのカードを作成しました。QRコードを読みこむと、当団体を始め、協働いただいている「西淀川区子ども・子育て支援連絡会」の参加団体や施設・行政機関のサポートダイヤルにすぐに繋がるという仕掛けです。

子育てに困っていそうな人を見かけたら、すぐ手渡せるちょっとしたお節介(笑)、いわば「大阪のおばちゃんの“あめちゃん”」に代わるものです。

こういったことがすぐに実現できるのも、さまざまな団体が協働で進めることのメリットだと感じています。また、区内の子育て施設の行事をカレンダー形式にまとめた地域子育て情報紙「西淀川区子育てまるごと情報Coo」を2か月毎に発行し、区役所HPからも閲覧できるように、情報の見える化を図っています。

http://www.city.osaka.lg.jp/nishiyodogawa/page/0000106583.html

 

 

地域まるごとエンパワーメント!子どもが笑顔で育つまちの実現を目指したい

今後に向けたチャレンジについてお聞かせください。

「にしよどにこネット」の運営に関しては、アイデアがある・しっかりと人の話を聞いて課題を発見することができる・外部との信頼関係を築くことができるなど、豊富な経験と強みをもったスタッフが活動を楽しみながら主体的に現場を切り盛りしてくれています。だからこそ、さまざまな事業へのチャレンジもできますし、課題を解決したり、ニーズに応えられるようなプロジェクトを積極的に企画・運営することもできるのです。子育てサークル時代から考えると、大きく進化・発展してきたと思います。

とはいえ、地域にとって身近で、「私も一緒にやってみたい」と気軽に思えるような敷居の低さは忘れてはならないと感じていますし、そうしたアプローチを心がけています。

私自身は、もう少し包括的な意味での「まちづくり」に視野が向いています。

「子育てサークル」で支援される側として参加していた時代、「赤ちゃんひろばのエプロンママとして活動しませんか?」という先輩ママさんの声がけから、「自分の経験が次の人のヒントに役に立つ」という成功体験を重ねて20年! 自分の子育て経験を次のママに、というトーンから、「子育てしやすいまちづくり」へと価値観、目標が変わってきました。だから、これまで以上にさまざまな外部との交流、ネットワークに積極的に参加しています。こうした活動を重ね、他の分野の方々とも積極的に交流しながら、地域まるごとエンパワーメントといった形で、子どもが笑顔で育つまちの実現を目指したいですね。