市民活動ワクワクレポート内容
町会、生協、子ども会にPTA…専業主婦が地域で培った豊富な人脈と資源、ノウハウを組み合わせてつくった地域交流の拠点。―あくまでも「自分らしく、できることをできる範囲で」をモットーに、「食」でつながるコミュニティづくりを実践されている「エコスペースゆう」のオーナー 田中 邦子さんにお話を伺いました。
エコスペースゆうオーナー 田中 邦子さん<エコスペースゆう>1995年に地域の子ども会活動として始めた「せいわエコクラブ」をきっかけに、子育て、PTA活動、地域活動を通じて、食から暮らしを考える場づくりを、との思いから2000年にオープン。オーガニック野菜販売のほか、食・農に関するワークショップなどを開催。
<DATA> 大阪府大阪市天王寺区勝山2-19-1 連絡先:090-6058-9947 開館日・時間:火~ 金 11:00 ~ 17:00 土 9:00 ~ 12:00 日・祝・月休(要連絡) |
結婚、出産を経て、子育てをすることを通じて「子どもには安心なものを与えたい」という思いから、添加物の入っていないオーガニックな食材への関心をもったことが、もともとのきっかけでした。
「エコスペースゆう」を、始めようと思ったきっかけについてお聞かせください。
自然に楽しい人が集まる―「食」つながりのコミュニティスペース
そこで、環境に配慮した商品を重視している生協に加入し、環境委員や産直委員をさせていただきました。
生産者の方々との交流や援農(農家ではない人が農作業の手助けをすること)、講座などの企画運営にも携わらせていただき、生活者の視点で企画・実施したことが参加者の方々の共感を呼び、自信につながりました。
それに、何よりやっている私自身がとても楽しかったのです。
先輩ママたちからも、いろいろ教えていただき、当時の経験が現在にも活きています。
子どもが小学生になると、子ども会の活動の一環として行われていた「子どもエコクラブ」に参加し、地域調べ、生き物観察、リユースやリサイクルなど、環境に関する学習活動を子どもといっしょに行っていたのですが、その延長で大学指導のもと、保護者、生協の仲間が中心となって活動する「大人版エコサポータークラブ」が2000年に始動しました。
ここで、近郊の有機農家の農産物や国産素材のみで作られたパンの販売、環境にやさしい商品の販売、フリーマーケットなどを週2回のペースで開催していたのですが、その活動が発展したのが今の「エコスペースゆう」なのです。
美味しいもの、楽しいもの、人、情報が集まる場であり、ひらがなの「ゆう」には、結・遊・湧・友・youなどなどいろいろな意味を込めています。
扱う野菜等は有効に食べられるよう、そして無駄を出さないよう責任を持つ、という意味で生産者からの買い取りとし、売れ残った野菜は、社会福祉法人など給食用の食材に活用いただくなど、無駄にしない運営を心がけています。
また、集荷は、ここで野菜を仕入れて販売をしている社会福祉法人の方々や大阪市内で移動販売をしてくださっている方々、生産者の方々などが中継に入って支援いただいています。
ネット販売はしていません。それは、対面にこだわっているからです。オーガニックな食材の美味しさを、きちんと言葉でお伝えし、納得して購入いただくスタイルを、今後も貫いていきたい、と考えています。
単なるオーガニックマーケットではない。地域の交流拠点であることがポリシー
「エコスペースゆう」ならではの強みについてお聞かせください。
有機野菜や女性料理人による健康に配慮した惣菜を販売しているだけではなく、地域の交流拠点であること、これが「エコスペースゆう」のポリシーです。
だから料理教室、食・健康・環境など多様なテーマ、講師によるワークショップなどを通じ、さまざまな人たちと交流できます。
「食」というテーマは不滅ですからね。「食」でいくらでもつながっていくことができる。料理教室ひとつとっても、「伝統」というキーワードひとつで、ここの食材を使っての味噌づくりや梅干しづくりなど、発酵食づくりにつながる。
今、インバウンドで大阪が観光地として人気を集めていますが、実はここにもたくさんの外国人観光客が来られて、「食体験」をされているんですよ。
そういう意味では、海外との文化交流にも貢献できているかな、と思います。
この場所をリフォームする際にも、強いこだわりがありました。キッチンのリフォームだけは業者の方に入っていただきましたが、その他は、ほぼ手づくりで、間伐材を使ったり、足場板を使ったりと、いただきものの材料で賄いました。
使える廃材ってアンテナを張っていれば結構見つかるもので、インポートのおもちゃなどを扱っているようなお店からいただいたり、会社が移転される時など、処分に困った木の廃材をいただいたりしました。昔、衣類や寝具を収納していた「長持」も活用していますよ。
「オーガニック」というキーワードで活動していると、自然に、「いい人、いい情報」が集まってくる気がします。また意外なつながりができたりしますね。
例えば、常連の女性の方がおられるのですが、ある日「妻が体調を崩したから代わりに来ました」と若いパパが来られて、思わぬ会話が弾んだり、生産者の方が来られて地域の方と交流、という場面があったり・・・またオーガニックなお菓子をつくってネット販売されている方と「オーガニック」つながりで知り合い、その方々の「移動販売スペース」として連携したりもしています。
タイミングが合えば、意外に簡単にコラボレーションはできるものですよ。
誰かと誰かが出会って、集って、何かしよう、となったら、「じゃあ、告知は任せて!」「私は場所の提供ならできるよ!」というように、自然に役割が分担されていって一気に進むということもあります。
夢は「オーガニックな食でつながる街なかのプラットフォーム」になること。
ここにいろいろなものが集まり、いろいろな人が集い、ここを起点に、ここを中継して生活者に届けられる。体験や援農で交流が始まる。そしてみんなが元気になる。そんな拠点となればいいですね。
有機野菜の流通課題。少しでも解決につながればと始めた「てんのうじ やおやじゅく」
今、社会で課題に感じていることは何ですか。その解決のために動いていることはありますか。
オーガニックは流通に乗せにくい、ということですね。私が扱う有機野菜は、「土」から拘っています。
極論を言えば、50年前の土で育った野菜なら、栄養バランスのいい元気な野菜というのが私の考え方なのです。土に含まれる微量栄養素をばかにしたらあかん、でも、自然のままに育てる有機野菜というのは手間がかかります。
だからどうしても一般に流通している野菜に比べ、価格が高くなってしまう。
だから価格競争で負けて、さらに販路が狭まってしまう、という悪循環です。
生活者側の事情もあります。子どもの成長につれ、家計のやりくりも大変になります。そこで1円でも安い野菜を購入したい、という発想になってしまうと、もっと流通に乗るような仕組みを整えたり、仕掛けを考えないと、需要が伸びず、オーガニックにこだわる農家は廃業、日本の農業がきちんと成り立たなくなります。
この課題を少しでも解決できるきっかけになれば、と始めたのが「てんのうじ やおやじゅく」です。
これまで区民センターで禁止されていた飲食が可能になったことを活かして、天王寺区民センターを管理運営する大阪コミュニティ協会の方々や、野菜つながりの有志からなるプロジェクトチームを発足しました。
都市と農山村を行き交う新たなライフスタイルを広め、人・モノ・情報の行き来を活発にすることをねらいに、区民センターのチャレンジスペースを活用して行う交流企画です。
関西圏で農産物をつくっている生産者と、天王寺区在住・在勤・在学の生活者が出会うコミュニティーキッチンで、産直野菜の美味しさを味わったり、野菜の物語を通して人のつながりを学んだりすることができます。
さまざまな活動の原点は「おせっかい」。いい「おせっかい」で地域を元気に
「人の輪をつくる達人」として、人とつながるためのアドバイスがあればお聞かせください。
最初は学校のPTA活動、町会、生協の活動から始まりましたが、PTAでご一緒した先輩から推薦されて地域のコミュニティ支援事業の中で行われた「寄り合いまちづくり」という活動に、参加することになったり、農林水産省関連の事業に大阪市の消費者として実行委員になったり、市内の大型公園で実施されているファーマーズマーケットで「おおさかもん」ブースを担当するなど、さまざまなご縁をいただき、農業や食に関心のあるさまざまな立場の方と知り合い、つながることができました。
そうした機会に自分が思ったことをきちんと伝えようとすると、例えば「委員」といった形式的な立場では、既に決まったことに対して「はい、そうですね」と確認するくらいしかできないような気がして、いろいろな人たちが集まる会議に、個人として積極的に参加するようになりました。
最近では、大阪市だけでなく、大阪府の事業や、他の区の事業にも参加させていただくことが増えてきました。
さまざまな事業、活動を通じて知り合った方々とは、また別の事業、活動でご一緒することがあります。「あの時に知り合った○○さんは〇〇で働いてはったんや!」みたいな感じで(笑)。
個人が入口でも、後でその方の所属を知ってビックリ!ということも多々あります。
私の活動の原点は「おせっかい」です。
「おせっかい」って、あまりいいイメージで受け取られませんよね?でも、例えば事業の委員の立場で何か意見を求められたとき、「それじゃあ面白くないからこんな風にした方が主婦にウケる!」といった建設的な意見をすることはいいことでしょう?
あと、人には本音と建前があります。だからこそ、言いたいけれど言えないこと、言えない場面が結構ある…結果としてさまざまなギャップを生み出し、物事がスムーズに進まなくなってしまう。
例えば、相手との関係性から、行政と現場のギャップ、地域間ギャップ、世代間ギャップ、性差ギャップなどさまざまなギャップが生まれてしまうのだと思います。
「言いにくいのなら私が言ってあげましょか?」みたいな感じで、これからも「おせっかい役」として、さまざまなギャップを埋めるサポートをして、地域を元気にしていきたいです。
自分らしく、できることをできる範囲で。「ゆるいコミュニティ」がトレンド
今後のチャレンジについてお聞かせください。
それは、つくりあげたコミュニティを成長させることです。
人と食、農業をつなぐお手伝いを、自分なりのスタイルで、時代に合わせて進化させながら続けていきたいです。
同じ思いを持つ仲間と一緒に考え、行動して、今、自分にできることをしていけたらと思っています。
実は、ここに集う人たちが自分らしく、それぞれができる範囲で参加することができる「ゆるいコミュニティ」として、「Bio(ビオ)ラボゆう」を立ち上げています。
また、野菜ができすぎてしまった際に、農家は売り先に困りますし、生産者のところで廃棄処分になってしまうのもったいないと常々考えていたので、人口の多い大阪市内の直売所同士で「八百屋ネット」をつくり、ほしい人に届けられる仕組みをつくることができるといいな、と考えています。
美味しい野菜を切り口に、都市のシニア層の場、グリーンツーリズムや援農、婚活までつなげて活動を広げていきたいです。
新しいことを始めれば、またそこから人はつながっていきます。どんな新しい出会いがあるか、それによってどんな新しいことができるのか、それを考えるとワクワクします。