市民活動ワクワクレポート内容

大阪北部地震や度重なる大型台風と災害に見舞われた2018年。

2016年に地域の防災マニュアルをつくり、防災への取組みを進めてきた緑地域活動協議会が学校と連携した取組みを新たに始められたと聞き、特定非営利活動法人 緑・ふれあいの家(緑地域活動協議会)の久木 勝三さんを訪問。

「子どもを防災への架け橋」に育てることがいかに大事かについてお話を伺いました。

 

マニュアル

 

地域でやるべきことは「防災」ではなく「減災」。まずは自分を守ることが第一

緑地域における防災の取組みについてお聞かせください。

 

昔は「防災」と一括りで言っていましたが、地域で行うには限界があります。

「防災」というのはそもそも国や自治体がやることであって、私たち地域がやることは「減災」だと思っています。まず守るべきものは自分の命、資財です。

守ってもらうのではなく、自分をまずは守る「自助」。自分が命を落したり大怪我したりすれば、助け合う「共助」も成り立たなくなりますからね。「被害が大きくならないために、各々がすべきこと、できることは何かを考える」―これが緑地域の取組の原点です。防災でなく、「減災」なのです。

2016年に地域の減災マニュアル「地震発生時の自助の心得 “緑 地震そなえ隊”」を作成したのですが、これは地震がきてから10分後に何をする?20分後に何をする?という具合に地震発生から1時間、どうすべきかの行動をまとめたものです。今年はさらに一歩進んで、「想定なき減災訓練」というものを実施しました。

今までの訓練というと、予め地域の役を持った方などに、指揮をとるリーダーの役割が割り振られていることが多いです。しかし、いくら予め役割を決めていても想定通りに動けるかはわかりません。被災状況によっては、その方々は動けない可能性も出てくると思います。公助つまり行政の支援が入るのは早くて一週間と考えなければなりません。区の職員だって被災者ですからすぐ動けるとは限りません。動くのは地域の人しかいないのです。

だからあえて「役割を決めない=訓練に集まってくれた時に役割を決め、動く」ルールでシミュレーションをしてみたところ、非常に面白かったと個人的に感じましたし、皆さんにも好評でした。

 

一概に避難所へ避難するのがいいとは限らない場合もある

「自助」が重要という点について、詳しくお聞かせください。

 

台風などの災害のときは、地元にある会館を開けます。避難する人数が増えて会館でおさまりきれなくなると、地元の小学校の講堂を開放することになります。さらにもっと大きな地震になると小学校だけでは収容できませんので中学校の講堂も開放することになります。地震の規模によって開設する場所もどんどん増えていきます。

昨年の台風24号は被害が酷かったため、25号に備えて大阪市長がすぐに避難所を開設してくださったので、多くの方々が避難所に集まりました。あれはあれで良かったと思います。でも小学校の講堂を避難所にする、ということが適切かどうかはわかりませんね。冷暖房設備がありません。もちろんライフラインの問題もありますが、冬場は床が特に冷たく感じ、高齢者や女性などには辛いと思います。あとトイレの問題も大きいですね。講堂の中にはありません。屋外か校舎の中。しかもみんな和式トイレです。台風の時、強風や豪雨の時に、外のトイレへ行けますか?足腰が弱い方には和式便器は辛いものです。そういうところへ避難したいと思いますか?ということですね。

台風24号の時、学校の講堂へ避難したことで、いろいろな問題が浮上しました。避難しないといけないくらい大規模な地震なら、学校を避難所として開設しなければならないですが、自分の家が大丈夫なら自宅待機が望ましいですね。それでも一人で不安な高齢者が「みんなと集まっている方が安心」といったレベルなら地域の福祉会館で十分だと思います。福祉会館なら冷暖房、テレビ、布団などの設備が充実しています。そこは行政の方で実情をふまえ、検討いただきたいところではあります。

 

いつ起きるかわからない自然災害。子どもを地域減災の戦力に育てることが大切

子どもへの防災教育に力を入れているとのことですが、詳しくお聞かせください。

 

鶴見区は人口比率で言っても、若い人たち特に子どもたちが多い地域です。だから「子どもをまず守ろう」そして「子どもたちを私たちの減災の架け橋になってもらおう」、「共助の部分で子どもたちも戦力になってもらおう」ということで減災教育や訓練に力を入れています。

まず自分の身を守る、次に周りにいる人を助ける、助ける方法について子どもたちにしっかり教えていきたい。そのための具体的な取組みとして、緑地域で登録されている「ジュニア防災リーダー」の中学生30~40名を対象に、避難所での暮らしを疑似体験しながら自分たちができることを考える実践プログラム「みどりJr.防災リーダー養成講座」を実施しています。

子どもをリーダーとしてさらに強化したい理由として、災害が起きる時間帯が予測不可能という点が挙げられます。

「いつ災害が起きるか」によって「誰が地域で動けるか」変わってきます。夜間は地域にみんないますが、日中は殆どの大人が外で働き、この地域におられない方も多い。高齢者を除くと、朝から晩まで地域にいる層は子どもだけということになります。だからこそ子どもは守らならければならない存在なのです。いつ災害が起きても地域にいる子どもたちが被害の拡大を防ぐ戦力となってくれたらいいと考えています。

「みどりJr.防災リーダー」育成と共に始めたのが、行政を通じた学校との連携による減災教育の実施です。

地域・学校・行政が連携し、実現した緑地域オリジナルの防災学習を通じて地域の子どもたちに知識や手法の定着をさせたいと考えています。

 

高校生を減災リーダーに育むための大学、高校、行政の連携

学校との連携教育について、詳しくお聞かせください。

 

高校生たちを減災リーダーにし、中学生-小学生のラインで減災教育を行うスキームをつくろうと考えました。小学生を取り込めば保護者の参加も見込めます。地域の訓練にはなかなか若い人たちが参加しない傾向がありますが、学校を介することで若い大人の理解者を増やすことになるのではないかとも考えました。

まずは、リーダーとなる高校生の教育から着手しました。

学習プログラムの開発については、昨年から大阪市立大学の防災・減災に関する専門の先生に入っていただいていますが、先生との出会いは講演に私が出向いたことがきっかけでした。その講演の中で「これからはもう防災ではない、防災から減災へ。想定外の被害がどれだけ発生するかを考えた時、人間は自然の前には無力。だから減災しかない」という話に私は強く共感し、鶴見区の高校生を巻き込んだ減災活動を先生と一緒にやりたいとすぐに区長に相談しました。区長に許可をいただいて、まずは鶴見区の防災アドバイザーをお願いしました。

その後、先生だけではなく大学の学生が高校生たちをフォローするという形でもご協力をいただくことができました。ソフトは大阪市立大学、会場や物資などハードは私たち地域で。しかし最もキーとなるのは高校生たちの参画です。高校生たちの協力がなければ、やりたいことが実現できません。今回、鶴見区を通じて、以前から産官学連携にご理解のあった鶴見商業高校にご協力をいただくことができたのは大きかったですね。

鶴見商業高校の1・2年生を対象に行った学習は全3回のプログラムで、1回目・2回目は防災や減災についての基礎的な学習、3回目は「避難所に入るときにどういう防災グッズがあったら助かるか」といった視点で生徒たちにさまざまなアイデアを考えてもらいました。ファシリテーションは地域・大学・行政がチームを組んで行いました。この連携はとても珍しいと思います。

 

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将来のめざすべきビジョンとしては、高校生たちが防災リーダーとして中学生や小学生の下の子たちへいろいろ教えることができるようになる教育支援体制を確立し、中学生、小学生まで、裾野を広げていくこと。学んだ子どもたちが、今度は学びを提供する立場へとバトンがつながっていき、地域で定着することが目標です。

災害が起きても、子どもたちが避難所を迅速に開設していく、どんな人が避難してくるか、避難してきたらどう行動するかを想定して子どもたちが的確に判断し、行動することができれば、例え未曾有の災害が起きたとしても、多くの人たちが子どもたちの姿から元気をもらい、復興に向けた希望を持つことにつながるのではないかと思います。