市民活動ワクワクレポート内容

高齢化率が世界一を続ける日本において、高齢者に必要とされるサービスは数多くあります。運送業界において、ヘルパーのいる引越屋さんとして、高齢者に寄り添った引越事業を展開している株式会社くらすむーぶは、コミュニティビジネス、ソーシャルビジネスの分野においても多くの受賞歴を持ちます。この会社の凄さは、アイディアやノウハウを自社だけに留めず、2011年に発足した任意団体、全国住むーぶ会(2019年に一般社団法人住むーぶ全国協議会へ組織変更)の活動を通じて他の運送業事業者に普及させ、その地域での課題解決にと、地域ごとに異なる課題や情報の収集を通じた研究成果を行政などにフィードバックされていること。

株式会社くらすむーぶ代表取締役で、一般社団法人住むーぶ全国協議会 代表理事を務める宮髙豪さんから、お話を伺いました。

 

父親の経営する運送会社へ。事業方向転換期に始めた、高齢者のための新たなサービス

 

事業を始めた経緯、サービス開発のきっかけは?

 

私の前職は銀行員です。1990年代後半頃ですが、バブル期の終焉とともに銀行の貸し渋りなどみられ、本当にお客様のお役に立てているのかどうかを疑問に思うことがしばしばありました。その後、父が経営する運送会社に入社しました。当時は地域の緊急輸送に特化した運送会社というカラーが強かったのですが、バブル崩壊でどの会社も生き残るための事業方向転換が迫られ、新たなサービスの必要性を皆が感じていたと思います。

これからの時代、会社としての生き残りをかけたビジネスでありながら、社会課題解決にもつながるソーシャルビジネスが必要と考えたのです。思い浮かんだ社会課題は高齢者問題。日本の高齢者人口は右肩上がりに上がっていますが、介護保険制度がスタートした2000年には高齢化率は17.4%になり、地域の高齢化も実感していました。銀行員時代は信託業務などを担当し、例えば財産分与や子どものいない方の不動産寄付などの遺言作成などを通じて、高齢者とはいろいろ関わりがありましたので、それも影響しているかもしれません。

また2002年、祖母が大腿骨を骨折し、介護認定を受けたという出来事もありました。これをきっかけに、祖母のために、私自身がヘルパー2級の資格を取りました。当時のいろんな思いや出来事が結びつき、2005年、地域の高齢社会に貢献できるサービスとしての高齢者に特化した引越サービス「ヘルパーのいる引越屋さん シルバー住むーぶ®」をスタートするに至りました。

「ヘルパーのいる引越屋さん シルバー住むーぶ®」は、例えば高齢者・要介護者の方のご自宅から施設に入居が決まった場合、広いご自宅から、施設の限られた広さしかない部屋へのお引越となると、「持っていく物」「持っていかない物」「処分する物」 を分類しなければなりません。要介護者の場合、本人はもちろん、ご家族にとって、その作業はとても大変です。でもヘルパーがいることで、利用者様の気持ちに寄り添いながら、物の分類・荷造り・輸送・開梱・設置・不用品の引取りまで一貫してサポートできます。

 

くらすむーぶ現場写真①

 

高齢者の方、ご家族、介護従事者に向けたさまざまなサービスを展開

 

他にどんなサービスがありますか?

 

引越が終わった後の記念写真撮影をスタートしたところ、お客様にとても喜んでいただいたので、本格的な撮影機材もそろえ、引越荷物搬出後のきれいになった自宅で、きれいにお化粧もしての撮影サービスを行っています。ご家族の方にも喜んでいただいていますし、住之江区役所や地域の団体からも好評で、地域のビジネスプランコンテストにも出場しました。

また、整理収納アドバイザーの認定講師で、介護環境整理アドバイザーでもあり、ヘルパー2級の資格を持つ片付けのプロが、高齢者が自分らしく暮らすための住環境改善の提案を行っています。

具体的には、地域のケアマネージャーやヘルパーの方々に向けて、安心して自宅で介護するためだけでなく、災害から身を守るためのセミナーや講座なども開催しています。

いつまでも我が家で暮らしたいと思いながらも、片付いていないがために自宅で暮らせなくなり施設に入る高齢者、残された荷物の行き場に頭を抱えるご家族や介護従事者も年々増えてきています。このように、片付けの必要性が最近は増加しているように思われます。

 

自分の親だったら…私の家族だったら…介護が必要な方に寄り添ったサービスをお届け

 

事業に対する想いは?

 

「高齢者にやさしい、暮らしを豊かにする引越屋さん」として、どうすれば介護が必要な方のお役に立てるのか? そして、介護をしているご家族にも喜んでいただけるのか? をずっと考えて続けてきました。

コロナ禍の前までは、社員食堂で家族のようにみんなと一緒に食事をしながら、お客様とのコミュニケーションづくりのことなどを話し合う等、スタッフ全員、「自分の親だったら、私の家族だったら」という思いで業務にあたっています。

そうした積み重ねが評価され、会社は健康経営優良法人※としても認定していただいています。

※経済産業省におけるヘルスケア産業施策のひとつ。優良な健康経営に取組む法人を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業」として社会的に評価を受けることができる環境整備を目的に、平成28年に創設。

 

また、自分の家で出来るだけ長く自立し健康的で活動的に暮らすには、その生活環境を元気なうちから整えておくことが大切です。余生を快適に暮らすためには、片付けも大変重要であることを多くの方に知っていただきたいという思いも強くあります。

今後も、「ヘルパーや整理収納アドバイザーのいる引越屋さん」として、施設へ入居される際の引越や、それに伴う家財整理など、ご高齢の方に寄り添ったサービスをお届けしたいと思っています。

 

社会課題解決の目的のもと、企業の枠を越え、全国26社とともに一般社団法人を設立

 

他企業や団体等との連携・協働については?

 

運送会社全体も新たなサービスを模索している折、国土交通省の「中小トラック運送事業の収益向上のためのインセンティブ施策助成事業」の認定を受け、高齢者に特化した引越サービスのあり方の研究やサービスの開発を始めました。

そして2010年に、全国へのノウハウ提供を目的としたサービスの仕組みのパッケージ化と展開のスタート、2011年に今の団体の前身である「全国住むーぶ会」を発足し、全国の事業者との連携を開始しました。全国の中小の運送会社と助け合いながら、日本の高齢社会に貢献できないかをより一層考えるようになりました。

加盟企業が20社を超えた2015年より、全国を3つに分けて地域ブロック活動を展開し、サービスの標準化、社員教育、付加価値向上を追求していくようになりました。

社会課題解決のための事業ですので、本来、行政とも連携すべきですが、企業の立場だとハードルがあります。そのため、2019年に全国26社の中小の運送会社とともに「一般社団法人住むーぶ全国協議会」を設立しました。

これまで以上に研究機能をさらに強化させ、行政へ高齢者の住環境を改善するための有益な現場の情報を提供していくこと等を通じて、行政との関係づくりにも努めてきました。

例えば、現場のスタッフが利用者の状況をその場で入力できるアプリを開発し、その情報を行政にフィードバック、その情報を活用していただけるようになりました。その情報は年間で約4,000件にのぼっています。

 

くらすむーぶ現場写真②

 

 

健康寿命を延ばすための安全で快適な住環境整備をテーマにさまざまな活動を

 

今後の目標は?

 

さらなる他団体との連携や賛助会員の募集を通じて、健康寿命を延ばすための安全で快適な住環境整備をテーマとして取り組んでいきたいと思っています。

一般社団法人住むーぶ全国協議会の今後の方針としては、

1,高齢化の実態把握に努め、行政機関との関係を強化

2.労働環境の改善を進め、働きがいの向上をめざす

3,スキル向上のため、教育ツールの整備を行う

このような活動方針のもと、2025年には会員数50社を目指しています。

また、検定制度の仕組みも2030年ぐらいから実施したいと考えています。

高齢者の住環境改善の実績は、全国26社の加盟各社の合計は2020年度の1年間で2,738件あり、各地の地域包括支援センターや社会福祉協議会や居宅介護支援事業所と連携して介護保険制度では解決できない諸問題の解決を行ってきました。

今後はこれらの事例のとりまとめをし、行政等に対して協働や政策提案につなげていく活動も行っていきたいと考えています。

株式会社くらすむーぶ としては、在宅介護在宅医療を進める国の施策を見据え、時代に適した介護環境ならびに利用者様の生活環境を快適にすることを、介護従事者の目線としてでも考えていきたいと思っています。

最近は、独居高齢者が増え、介護保険適用外の方も多くみられます。そのような方に向けてのオプションサービスも用意し、高齢者に寄り添う運送業者として、今後とも社会に貢献したいと考えています。

 

取材・記事作成:認知症予防サポート協会 鳴川 正