市民活動ワクワクレポート内容
「つながる、ぬりえ」―そのプロジェクトは、たった1枚のぬりえから始まりました。
コロナ禍で人との接触が規制され、人と会う楽しみを奪われた高齢者施設の利用者様を思い、生まれた企画は、高齢者施設と子どもたちや若者を媒介とした社会とのつながりづくりのモデルとして、活動のたびに大きな反響を呼び、大阪を越え、全国へと波及しつつあります。
天神橋三丁目商店街にある天三おかげ館にて7月31日、8月6日~8日に開催された「『つながる、ぬりえ』展」の仕掛け人である近畿社会福祉専門学校の阪井妙子さんと、天神橋三丁目商店街振興組合理事長の築部健二さんにお話を伺いました。
高齢者施設のおじいちゃん・おばあちゃんたちと、子どもや若者たちを「ぬりえ」でつなぐ
「つながる、ぬりえ」とは?始めたいきさつについてお聞かせください。
介護福祉士を育成する教育現場に身を置く者として、コロナ禍にどうすれば社会と分断されたような状態にある高齢者施設とつながることができるか、自問自答の日々でした。そこで考えついたのが「つながる、ぬりえ」企画です。
高齢者施設では、利用者の方のリハビリにぬりえが使われています。それがプロの手による市販のぬりえではなく、もっと身近な子どもたちや学生たちに下絵を描いてもらい、高齢者施設でぬりえとして使ってもらうようにし、描き手である子どもや学生たちと、塗り手である高齢者の方々のおられる施設とをオンラインでつないで対話してもらうようにしたらどうだろう?描いてもらった絵は「密」を避けるためホームページにアップして無料でダウンロードできる仕組みをつくり、高齢者施設に案内をして…どんどんアイデアが膨らんでいきました。
居ても立っても居られず、大阪ガス株式会社の社会貢献担当部署に企画を持ち込みました。大阪ガスは障がいをもつ方々が働く福祉作業所の出店場所として大阪ガスビルの御堂筋側を提供され、「御堂筋ふれあいバザー」を定例で開催されているのですが、たまたまそれを目にし、社会貢献に熱心な会社なら提案できるかもしれない!と考えたのです。幸いにも話を聞いてくださった担当の方がとても理解がある方で、共感を得られたのです。すぐに個人的な知り合いの生野区商店街の方に話をつないでくださいました。
昨年12月に生野商店街で「『つながる、ぬりえ』展」初回が行われ、第2回目は私の地元でやりたい!と、北区の天神橋三丁目商店街に企画を提案し、開催することができました。
今回は、商店街つながりの地域の学校の子どもたちや学生たちに加え、長崎県小値賀島の地域学校協働活動「おぢか山学校」や鹿児島県徳之島町の亀徳水泳スポーツ少年団の子どもたちにも絵を描いてもらうことができて、活動の輪が大きく広がりました。小値賀島や徳之島とつながることができたのは、知り合いを通じて後援をいただいている公益社団法人「小さな親切」運動本部、一般社団法人「徳之島」と知り合い、活動への賛同を得られたことでそれぞれの役場のご担当を紹介いただけたからです。
オンラインでは子どもたちが「きれいに塗ってくれてありがとう」「素敵な色で塗ってくれてうれしい」「思っていた以上にきれいな色で塗ってくれてうれしい」と喜びを伝えれば、施設の高齢者の方々も元気な声で「上手な絵で塗りやすかった」「描いてくれた子を想像して色を塗りました」「孫が描いてくれたみたいでうれしい」と、応えていただけて、関わったすべての人の心があたたまる時間になったと思います。
また、「オンラインで描き手と塗り手が顔を合わせて、互いに感想を伝え合うというのは、同じ気持ちを共有できて不思議な体験が出来た」とアートスクールの先生がおっしゃっていましたが、90歳を超えた高齢の方との交流は貴重で、若い世代にとっても、良い出会い、良い刺激を感じてもらえたと思っています。
協力してくれた子どもたちや学生たちのなかには「自分が描いた絵でこんなに喜んでもらえるなんて」と、自己を肯定し自信がもてるようになった子もいるんです。子どもたちの成長、学生たちの自己肯定感醸成にも良い影響を与えられてうれしいかぎりです。
「つながる、ぬりえ」で商店街の合言葉である「ほっとする町」を体現することができた
築部さんにお聞きします。商店街振興組合として「『つながる、ぬりえ』展」を主催されていかがでしたか?
天神橋三丁目商店街も新型コロナウイルス感染拡大にともない、1年半イベントも出来ず、なんとか打破する方法はないかと思案していました。そこに阪井さんから提案をいただき、地域の堀川小学校や扇町総合高等学校や金蘭会高等学校・中学校、堀江アートスクールや高齢者施設に呼びかけたところ、皆さん快く賛同していただき、「『つながる、ぬりえ』展」には330点の心あたたまる作品が集まりました。
そしてイベントの鍵となるのが「ぬりえ」であるというのも良かった。コストが抑えられ、コロナ禍でも密になることなく多くの方に参加していだだけて、コロナに苦しめられた私たち商店街にとって、本当に有難い企画でした。
天神橋三丁目商店街の合言葉は「ほっとする町」なんです。このイベントはコロナ禍でストレスがたまりがちな中、「ほっとする」気持ちを共有することができました。本当にオリンピックで金メダルを取ったというくらい感激しています。
コロナ禍だからと諦めず、自分たちにできることを見つけて動いていきたい。
この1年を振り返って改めて感じること、今後への意気込みは?
「つながる、ぬりえ」を通じて、動けば動くほど、つながりは広がっていくのだと実感できました。
つながりがまた次のつながりを呼ぶ、という感じで、第3回開催時には、他府県の方たちも参加したいとの声をいただいています。
高齢者施設のケアマネジャーの方に初めてこの企画をお話したとき、「そんなことしてくれるんですか?!」と涙されていたのが、強く印象に残っています。
コロナ禍で、誰もが人とのつながりを渇望しているということをこの時に感じました。そして、「つながる、ぬりえ」企画は、きっと求めてくれる人が全国にたくさんいると思いました。
<取材を終えて>
コロナ禍は、医療従事者の方が大変な思いをされているだけでなく、世の中全体が不景気とストレスに淀んでいます。そんな時だからこそ、「自分たちにできること」を考え、躊躇することなく大きなウエーブを生み出そうとしている阪井さんたちに元気と刺激をいただくことができました。
高齢者施設のおじいちゃん、おばあちゃんたちの「塗り手よし」、子どもや若い世代の「描き手よし」、ケアマネジャーさんやイベントに関わった人たちみんな「世間よし」の心あたたかいイベントでした。
記事作成:大阪ローカルメディア ぼちぼち 藤本 真里