市民活動ワクワクレポート内容
障がいのある方や高齢の方など社会的に立場の弱い人たちの社会参加や生活の向上を掲げ、自由に個性を表現できる現代手織り「さをり織り」を通じたさまざまな活動を展開している特定非営利活動法人さをりひろば。北区中崎町に「手織り体験工房 SAORI豊崎長屋」を構え、障がい者とお客様が自然に触れ合うことにより多様性を尊重できる社会をめざし、障がいをもつスタッフと共に活動している金野 哲哉さんにお話を伺いました。
手芸としての枠を超え、障がい者の自己表現、活躍の手法として普及している「さをり織り」
さをり織りとはどのようなものですか。
さをり織りは現代手織りのひとつで、普通の織物と少し違い、作品の織り方に「こうでなければいけない」という決まり事がありません。
誰もが持つ感性の力『感力』を使い、織る人の個性を表現できる「アート」でもあります。また初心者でも自由に楽しみながら織れ、間違ったと思ってもそれが却って面白い柄になったり、自分のペースで思うままに自由に織ることができるので、年齢や障がいの有無に関係なく好きに自己表現ができます。障がいをもったスタッフたちはイベント講師等の仕事で外へ出ている時以外はここで作品をつくるのですが、多様性があり、魅力的でどこか優しい雰囲気を感じます。そうかと思えば、私には思いもつかない作品が出来上がることもあり、手芸としての枠を超え、障がい者の自己表現、活躍の手法としても普及しています。
SAORI豊崎長屋の拠点を構えることが地域に根付くことにつながった
SAORI豊崎長屋ができたきっかけはどのようなものでしょうか。
10年ほど前に大阪市立大学の建築家竹原 義二先生が長屋を改修する活動をされているのを紹介してもらい、障がいのある人が社会参加するための拠点にできないかとご相談したのが始まりでした。100年以上前の長屋をリノベーションしたSAORI豊崎長屋は木の温もりを感じる古い長屋の雰囲気を残しつつ、さまざまな色や素材の糸が壁を彩るあたたかい空間になりました。
豊崎長屋が出来る以前から、元々障がい福祉として、さをり織りの作家活動に取り組んでいましたが、活動拠点としてのSAORI豊崎長屋という地域に開かれた場ができたことにより、しっかりとした拠点ができたように感じています。
一般的な授産事業の活動としてというよりは、お仕事として依頼を受けて活動しているとはっきり言えるようになり、お客さんも根付いてくれたり、地域のためにプラスアルファで何かいいことができないかと地域活動のお手伝いをしたり、活動の幅が広がりました。個人個人の作家活動だけでなく、いろんな人とつながったり、SAORI豊崎長屋という存在を知ってもらうことで商業施設のイベントへの出店など次の新たな仕事につながっていくようになりました。
イベントへの出店はお祭りというかフェスのような盛り上がりですが、それとは別にSAORI豊崎長屋ではゆっくり静かに落ち着いて作家活動ができる空間にもなっています。
活動拠点を構え、続けていることで広がるつながりの輪を実感
主な活動についてお聞かせください。
商業施設などと連携したり、他団体との協働によるさまざまなイベントで、さをり織りを実際に体験していただくワークショップを行っています。現在はコロナのため予約制ですがSAORI豊崎長屋に来ていただいても、さをり織りを体験していただけます。
ワークショップでのさをり織りの体験は30分〜2時間くらいまで、その時々で変わり、織り上げるものも違いますが、さをり織り体験をしてもらうという「経験」を大事にしています。
障がいのあるメンバーが講師として、お客様の接客やサポートをしていますが、彼らのほうが私より接客がうまいです。人との距離感をとるのがとても上手く、人の心を感じる力が強いようで、さをり織りの自由に織れる織物という特長を活かして、「こうじゃないといけない!」といった枠に収まった接客をするのではなく、100人いたら100通り、教えないで引き出す手解きをそれぞれのお客様に合わせて寄り添った接客をしてくれます。
また連携や協働イベントでのワークショップ等に来てくれた方がSAORI豊崎長屋に来て、さをり織りをじっくり体験してくれることもあります。
商業施設などへの出店の経緯としては、近鉄百貨店 阿倍野ハルカス本店で「縁活」という地域と百貨店をつなげるプログラムがあり、そこでワークショップを行うようになったのが始まりです。そのことがモデルケースとなって体験事業を展開するようになりました。
今の時代として、商業施設も「モノからコトへ」とモノを売るよりも体験を売ることにシフトチェンジをしていくことが求められているのだと感じます。その潮流をうまく掴むことができたのではないかと思います。
スタッフの自主性を大切にするため、支援者としては、あえて一歩引いたスタンスで
SAORI豊崎長屋での障がい者の方々との関わり方で大切にされていることは何ですか。
一般的に授産施設では支援員の方が作業の段取りを組むことが多いですが、ここでは私は一歩引いた状態でいるようにしています。ワークショップに講師やスタッフとして参加する障がい者スタッフの自主性を大切にしたかったのです。始めは大変でしたが、自分たちで準備やスケジュールを考えるようになったり、体調管理ができるようになってきました。今では、次の目標のために自然にそれぞれで作業を分担し、責任感を持って作業管理ができるようになっています。
障がい者と自然に触れ合う機会をたくさんつくり、多様性を尊重できる社会をめざす
今後の抱負についてお聞かせください。
コロナでワークショップを行う機会が減ってはいますがコロナがおさまった後に動けるようにYouTubeなどのSNSで情報の発信などもしており、レクチャーの動画を出すなど、サービスの質を上げ、今までよりクオリティが上がるようにがんばっています。
今後はもっと、この活動を障がいのある人だからこそできる仕事として普及させていきたいです。これまで行ってきた障がいをもつ当事者への支援等を通じて、いろんな方の特性を肌でわかっているので、その経験を活かせると思います。
さまざまな場所にイベントなどで出かけると、いろんな人と出会いますが、いつかどこかでご縁はつながってくる。だから、いろんな場所に継続的に出ていることが、活動機会を増やす秘訣じゃないかと感じています。またこの活動は一般の方と障がい者であるスタッフが、さをり織りを媒介として、ごく自然に関わることができるので、障がい者福祉というよりは、多様性を尊重できる社会づくりにつながる効果が高いと思います。今後もワークショップの活動はどんどんと続けていきます。
<取材を終えて>
せっかくお伺いしたので、さをり織りの体験をさせていただきました。私は織物をするのは初めてなのでドキドキしました。まず最初に軽く教えてもらって織り始めました。失敗したと思っても「それでいいんですよ。それも味になります。」と失敗を失敗でなく、味として捉え様々な色糸をどんどんと自由に織り上げていくのは本当に楽しい時間で夢中になりました。手解きしてくださった方は時々さりげなく様子をみてくれて、「好きにしていいんだ」と思うとゆったりした気持ちで織り機に向き合え、心が開放されたように感じました。優しい空気が満ちているSAORI豊崎長屋は本当に素敵な空間でした。
大阪ローカルメディア ぼちぼち 今井きょうこ