市民活動ワクワクレポート内容
あべのアルカスとJR天王寺駅がある大阪市阿倍野区の常盤小学校区には高層マンションと昔ながらの一軒家が混在し、人口が急増を続ける約2万1000人のエリアです。常盤小学校の児童数は、1300人とマンモス小学校になりました。住民も働く人も企業も参加できる地域活動の主体が、大阪市独自の地域活動協議会(地活協)です。常盤地域活動協議会会長の棚町泰英(たなまち・やすひで)さんに、活動ぶりをお聞きしました。
住民に情報を素早く届けたい
常盤地域活動協議会の取り組みを教えてください。
情報が素早く届くように地活協のIT化と紙資源削減のためのペーパーレス化を進めました。情報を整理して一人でも多くの住民に地活協の活動を知っていただき参加をしてもらうためにです。
交通の便から高層マンションが増えて人口が急増しています。引っ越してきた人に「地活協があるんや」とお知らせしたい。知り合いになって「遊びに来てください」と呼び掛けたい。そして「一緒に子育てや活動しませんか」とお誘いします。
活動拠点の中心である、常盤西会館がgoogleマップに表示されるようにgoogleに登録しました。私が3年前に会長になってから、ホームページ(https://tokiwa.pw/)を開設しました。またツイッター、インスタグラム、フェイスブック、LINE(ライン)とビジネスアカウントを取得してSNSをフル活用しています。
住民とこの地に働く人にも「情報のおすそ分け」が目的です。「あなたも、この地域の一員ですよ」と呼び掛けています。
地活協には、どんな活動がありますか。
常盤小学校で開く小学生と地域のためのお祭り「ときわフェスティバル」、地域全体を対象にした年1回の防災訓練「まちなか防災訓練」、「ときわサロン」などさまざまな活動を展開しています。通学路にボランティア誘導員が立って、小学生の通学路を見守る「ときわっ子安全パトロール」など地道な活動もたくさんあります。
常盤西会館では購入した65インチ大型テレビをフル活用し、カラオケをしたりYouTubeを観覧したり、会議に役立てたりしています。また、役員会では阿倍野区民の祭典「あべのカーニバル」を観覧したりしています。コロナ禍のために昨年と今年の2回、「あべのカーニバル」はYouTubeで映像が配信される形で開かれました。
大型テレビなど備品の購入には透明性を大切にしています。
サラリーマンが会長を務める秘訣
「サラリーマンでも会長になれる」とおっしゃっていますね。
サラリーマンでも、地活協会長を務められることが大事です。コロナ禍で緊急事態宣言が続く間、役員会議もLINEのビデオ通話で開きました。
「阿倍野区でIT化が最も進んだ」と評価されています。
サラリーマンや現役子育て世代は、地域の活動に時間を割く余裕は乏しいですから。
IT化を進めることで情報のタイムラグがなくなります。電話のやり取りには勘違いも生じますが、オンラインのやり取りなら記録が残るので間違いも減ります。
LINEのビデオ会議を始めた最初の頃は「わあ、顔出てきたわ」。みんなが一斉につなぐとハウリング(雑音の増幅)しまくり、「ミュート(無音)にしてください」「ミュートって何?」と大騒ぎになりました。LINEのビデオ会議を遊び感覚で楽しむことから始めました。「できなくて当たり前」「失敗して当たり前」と回数を重ねると、みなさん慣れてきます。
私は、地域活動に熱心に参加するタイプの人ではありませんでした。
子どものために、中学校のPTA会長を引き受けたことがきっかけでした。
4人の子どもがお世話になってきた地域に対する恩返しのつもりです。
時代が私たちに追いついてきた
どうやって、IT化を実現できたのでしょうか。
時代が私たちに追いついてきたと表現すると言いすぎでしょうか。
私は、超合理主義者です。
シニアの方にもお願いしてガラケーをスマホに換えてもらいました。
「ファクス受信のたびに家に取りに帰れません。だからファクスなら返事が遅れます」
「スマホなら、すぐに反応できますよ」と説得しました。
「スマホに換えてください」とお願いすると、みなさん協力的でした。こちらもそれなりに覚悟しました。「どんな機種がいいですか」といった相談には、「買い替えるなら一緒に行きますよ」と寄り添う覚悟をしました。
常盤西会館に集まる対面の参加と、LINEを通じてオンライン参加を併用するハイブリッド方式は、コロナ禍の前から試していました。
コロナ禍では、完全にLINEのビデオ会議だけになりました。
子育て世代のお母さんたちにも活動に参加して活躍してほしいのです。
夜の会合に、子育て世代のお母さんたちの参加は難しい。LINEのビデオ会議なら、自宅で用事をこなしながらでも参加できます。
緊急時の防災に力を発揮 「頼みの綱はスマホ」
IT化を進めて、よかったことはありますか。
防災に役立つことです。災害時に頼みの綱はスマホになります。
数年前、大きな台風で避難所が開設された際、携帯がつながらなくなりました。情報難民にならないように、災害時に備えて、地活協でモバイルバッテリーとソーラーパネルを購入し、避難所になる常盤小学校や文の里中学校などに配備予定としました。これさえあれば、市と緊急時の連絡ルートを確保できます。
大阪府の大阪880万人訓練も、LINEで情報が届くようになりましたね。
阿倍野区役所の対応も変化しました。
区役所との会合に備えて、「書類を事前にPDFで送ってください」と要望すると、区役所も協力してくれました。
会議の資料をペーパーのまま受け取ると、かなりの分量になります。会議中に資料を読むだけでも時間がかかります。事前に届くと、前もって読めます。PDFなら、PDFのまま、LINEに送るだけで役員みんなに情報を共有できます。
安全・安心のまちは、顔見知りの人間関係から
今後の抱負をお願いします。
広報部会が、写真いっぱいの広報誌「ときわフォトジャーナル」を発行しています。
防災マップと、ときわフォトジャーナルを全戸配布することをめざしています。
一人でも、顔見知りの人を増やしてほしいと願うからです。老若男女みんなが顔見知りの関係を築けると、安心のまちになります。誰かが転倒した場面を見たら「大丈夫ですか?」と声を掛け合える人間関係を大切にしたいのです。
連絡手段としてIT化を推進しても、人間関係の発想はアナログのままです。昔ながらの人と人の関係を大切にしています。
地域の祭りでは、率先して餅つきの杵を握ります。餅つきを楽しんで、その場でみんなと一緒に出来立ての餅を食べて、みんなの時間を楽しみます。
地活協の活動に力を注ぐのは、安全・安心のまちづくりを実現するためです。
常盤地区地域活動協議会
あべのハルカスとJR天王寺駅を含む阿倍野区の中心にある商業地と住宅地が混在する常盤小学校区エリアに2万1000人が住む。地活協には、広報、防災・防犯、子ども・青少年、環境・美化、福祉・高齢化の5部会がある。常盤西会館、常盤東会館、常盤文化会館が活動拠点となっている。
地域活動協議会(地活協)
おおむね小学校区を基本単位に、地域の実情に応じた形で各種地域団体や多くの住民が参加して、地域の活性化や課題解決に取り組む地域運営の仕組み。地活協は、行政ではカバーできない市民活動に取り組む行政の機能に準じた役割と、住民の意見をとりまとめる総意形成の機能も果たす。
<取材を終えて>
「私は、超合理主義者です」
「透明性を大切に」
「安心のまちづくりのため、顔見知りの関係を」
棚町さんのことばに、感心することしきりでした。
2万人が住むまちで、地域に住む人が誰でも参加できる地活協の活動は、割り切るところは割り切って大胆に進めないと展開できません。
「情報を素早く届けたい」。その願いが徹底されています。一部の人だけにとどまりがちな情報をPDF化して役員みんなに共有する。できそうに見えて、簡単ではありません。
こうした手法で新しい時代の地域活動を広げていく。他の地域でも共有できる実践例ですとお勧めします。
取材・記事作成:市民記者 中尾卓司