市民活動ワクワクレポート内容

圧力計や圧力スイッチなどの計測制御機器のメーカーで、地元の大正区において医工福連携に官民連携を加えて、地域課題解決に取り組む株式会社木幡計器製作所。

ものづくり支援拠点としてのイノベーション創出支援施設「ガレージ大正」を自社内に設置、地元企業や多方面の協力者とともに、地域に根差した新たな価値の創造に努めてこられました。その功績が認められ、平成30年、大阪商工会議所 大阪活力グランプリ特別賞を受賞、経済産業省地域未来牽引企業にも選定されました。

代表取締役の木幡巌さんにお話を伺いました。

 

15社が連携しての「関西積乱雲プロジェクト」での新たな商品開発や医工連携

 

会社の経緯と、事業展開の推移についてお聞かせください。

 

明治42年に当社の創業者が、家業であった金物製造の技術を活かして、ブルドン管圧力計の製造に成功し、その後、圧力計測技術を応用した圧力スイッチ等の制御機器や差圧計などの製品開発を行ってきました。

近年はレトロフィットDXをコンセプトとした後付IoTセンサユニット「Salta(サルタ)」を考案、他企業と連携し、商品化に成功しました。

これはアナログ式の圧力計に取り付けるだけで、計測データをデジタル化できる商品です。アイデアはあっても、IoT応用のノウハウがないため、弊社だけでは完成できません。そこで、2013年に発足し、現在15社が連携している「関西積乱雲プロジェクト」に設立当初より参画し、参加企業がそれぞれの得意分野を活かした結果、完成に至ったのです。共同展示会も実施し、順調に売れ行きを伸ばしています。

 

木幡製作所1

 

木幡製作所2

 

 

また医療機器の開発や、産学官連携による製品開発にチャレンジしました。呼吸リハビリという分野の呼吸筋力の測定器です。先代の社長でもあった母を肺がんで亡くしたことがきっかけで考えたアイデアです。

医工連携では、地域密着型の医工連携が理想であると思います。近くにある地域基幹病院の済生会泉尾病院としっかり連携できていることで、医療現場の実情や思いに共感でき、本質をおさえたものづくりができていると考えています。

 

木幡製作所3

 

連携力をキーワードに「ものづくりのまち大正」ブランドとして成り立つ事業活動

 

仕事に対して大切にしている考えやこだわりについてお聞かせください。

 

この大正区で事業をしているからには、つくり出すものや、活動そのものが「ものづくりのまち大正」ブランドとして成り立つことを第一に考えています。

それには「連携力」がキーワードになると思います。近年新たに開発した商品は、他企業、病院、そして行政と連携できたからこそ、つくることができたのです。

そして、ものづくり企業の経営者としての私のこだわりは「なぜ」と「そもそも」です。

後付IoTセンサユニットにしても、たまたま通りかかった宿泊施設のガレージに設置していた圧力計が壊れて、使われている形跡がないのに気づいて、「なぜなんだろう?」「そもそも、データを管理する人がいない→人手不足なのでは?」と推測しました。そこでIoT技術を使って楽に管理できるシステムを作れば問題は解消できるのではないか、と思いついたのがきっかけだったのです。施設を安全に管理するうえで計測データを記録し、管理するのはとても重要です。安全なものをつくるだけではなく、使う人のことも考えるということを大切にしています。

 

「医工福連携」が地域の課題解決とものづくり振興実現の鍵となる

 

「ガレージ大正」での活動について詳しくお聞かせください

 

医工連携のステージとして、「医工福連携」が必要との考えのもと、ベンチャー支援企業の協力も得ながら、2018年には、自社工場内にIoT・ライフサイエンス系ベンチャーのものづくりをサポートするイノベーション創出支援施設「ガレージ大正」の運営を開始しました。地域のものづくり企業などと連携することで、起業したてのベンチャーの成長促進を支援しています。こうした、ものづくり振興の活動はさらに「ガレージ大正」が事務局となり「りびんぐラボ大正・港」として発展し、現在は大阪市港区とも連携しています。

「りびんぐラボ大正・港」は、地元、大正区の少子高齢化などの地域課題解決をテーマに、医工福連携に、官民連携で大正区役所と地元のものづくり企業、地元基幹病院が中心となり、そこに大阪商工会議所や大阪産業局などの企業支援機関、医療・福祉系団体、大学研究機関、他地域の企、さらにベンチャー企業や大企業など多彩なメンバーが集いながら、さまざまな取り組みを進めています。

 

「りびんぐラボ大正・港」は、次の3つの具体的施策を掲げています。

①医工福連携での課題解決型のものづくり

②ものづくり企業の健康経営の促進

③区民も、ものづくりへの直接参画支援が可能なものづくりの街に

2番目の施策では、地域で健康経営に取り組む企業を増やそうとして、健康経営優良法人認定サポートを行い、これまでに5社が新たに優良法人に認定された実績もあります。

(注:医工福連携とは、医療の医、工業の工、介護福祉の福の連携のこと)

 

木幡製作所セミナー風景

 

地域活動はものづくり企業としてできること、求められることを区と連携して実施

 

地域と連携した活動内容についてお聞かせください。

 

大正区は、もともと産業革命の中心の場所であり、かつては東洋のマンチェスターと呼ばれていましたが、現在は大阪で一番人口が少なく、高齢化率も非常に高い地域となっています。そこで区はまちの活気を取り戻そうと2013年から「ものづくり」に焦点を当てた取り組みを開始し、私は推進メンバーのひとりとして、地域活動に携わっています。私が実行委員長を6年間努めている「ものづくりフェスタ」は地元の子どもたちを対象に、地元企業が趣向を凝らした、さまざまなものづくり体験ができるお祭り。

年々参画企業も増え、多い時には1日約1,000人の方に来場いただきました。

その後、一般の大人も参加できる工場見学会、コロナ前は全国の中学や高校の修学旅行で、年間約2,000人近く受け入れさせていただいたこともあります。

また、町会とも連携して防災訓練を行い、防災サポーター登録もさせていただいて、協力体制を整えています。

ものづくりでまちが活性化するには、地元企業が若者の雇用にもっと力を入れなければならないと思います。学校の進路指導の先生と地元企業との懇談会や、ハローワークさんとの連携で地元企業の合同面接会に協力させていただいていますし、最近、弊社でも新卒採用が決定しています。さらには地元のものづくり企業が合同連携して、ものづくり人材の育成を行うことにも、2020年より取り組んでいます。

 

木幡製作所セミナー風景2

 

地域課題を解決するために、地域メリットを活かしてできることを考えるという発想

 

今後の抱負についてお聞かせください。

 

高齢化率の高い大正区において、健康は重要なキーワードです。それは2025年大阪・関西万博のテーマともリンクしています。「りびんぐラボ大正・港」で、企業、行政、研究機関、一般区民の方と一緒になって考え、大正区・港区を万博のサテライトエリアにし、さまざまな実証事例を世界の方々にも見てもらいたいと思っています。例えば、大正区は人口の動態変動が少ない区であることから、疾病の要因と発症の関連を調べるための観察的研究の手法である「コホート研究」の実証の場とできるのではないかと考えています。実際、呼吸筋力の測定データは20年前のものしかないので、この大正区で現代の呼吸筋力の日本人の標準値をつくろうと思っています。また、医療系のベンチャー企業が多く集まっている利点を活かし、そこで作られた製品が本当に有用かどうかのモニタリングを、区民の方にも参加いただき、実施したいと考えています。

 

その他では、万博に向けてごみ問題を解消すべく、効率的なごみ箱の製作の企画を関係者と進めています。

今後もより良い社会の実現をテーマに地域のイノベーション支援活動に力を注いでいきます。

 

取材・記事作成:認知症予防サポート協会  鳴川 正