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「女性の活躍」が謳われていても、保育の環境はまだまだ整備されておらず、
その負担の多くは母親・女性の肩にかかっているのが現状。
そんな中、仕事と子育ての両立を支援する学童保育を事業化したのがNPO法人どんぐりの会。
女性も、子どもも、雇用主である企業もハッピーを追求する仕組みはどのように生まれたのだろうか。
事業は、木崎さん自身の「困った」経験から生まれた。
老人ホームで介護の仕事をしていた木崎さんは、妊娠中流産しそうになって退職し専業主婦になった。
ところがその後、離婚して、職探しで苦労する。
幼い長男を抱えた母子家庭で土日勤務も残業や夜勤もできなない環境の中、介護職で正社員に就くことは難しく、やむなく平日昼間の事務職で求職する。
しかし、それでは給料が安いため、条件が良いところを求めて何度も転職。
就学前は保育園が20時まで預かってくれたので残業もできたが、小学校に入ってからが大変だった。
学童保育に延長保育はない。
その上、津市の学童保育は9割以上が保護者の自主運営のため運営事務を分担する必要がある。
親が日替わりで当番に入ることもあり、大きな負担があった。
長男が高学年になって1人で過ごせるようになるまでなんとか乗り切った木崎さんが自身の苦労を振り返り、職探しと保育で困る人を減らしたいと考えたのが、事業を始めるきっかけだ。
めざすのは、女性が子育てしながら働き続けられる社会。
主な事業は飛び出し注意喚起の看板設置と学童保育どんぐりの家の運営。
飛び出し注意喚起の看板は、津市ではPTAや自治会が自主的に設置している事が多い。
しかし、熱心な人が役員になった時に設置した、せっかくの看板も、役員が交代すると、劣化し、破損したままで放置され、かえって危険な状態になっている。
しかも、本来なら行政の許可が必要な場所に、無許可で設置されているものが大半。
通学路は細い道を猛スピードで飛ばす車やマナーの悪い運転者も多く、見過ごすことが出来なかった。
そこで電柱の巻看板をヒントに考えたのが現在のシステム。
看板に企業名を記載して寄贈して頂き、企業から協賛金をもらってどんぐりの会が維持管理するというものだ。
企業は年会費1万円でどんぐりの会の賛助会員になり、看板(6000円/1体)を提供する。
同時に毎月(1500円/1体)の管理費を支払い、どんぐりの会が看板の設置、点検補修を行う。
管理費は巻看板の価格と同程度に設定した。
現在約90社が会員になっており、設置台数は津市内で250体。
看板は、企業の地域住民への社会貢献となりイメージアップにつながる、更に看板の台数に応じてその企業のどんぐりの家を利用する従業員には、学童保育の利用料を割引するため、社員の福利厚生にもなる。
最近は学校から看板を設置してほしいというオファーが増え、松阪市でも設置の準備中だという。
津市内に保育所は58箇所、小学校は51校あるが、学童保育は39箇所と少ない。
保育時間も短く冬場は16時、夏場でも17時で終了。
その上保護者の運営負担が多く、先生の給与計算や補助金の申請といった事務まで親が担うため、その作業が深夜までになることもしばしばだという。
女性が、仕事も子育てもどちらも諦めない為には、こうした負担のない学童保育を実現する必要がある。
どんぐりの家では、地元の小学校の子どもは歩いて通うが、遠方から通う子どもは学校までスタッフが車で迎えに行く。
仕事が終わるまで預かるので、毎日19時まで預かり、お母さんの会社の残業や社員旅行等で遅くなる場合は夜間の延長もある。
土日祝日の利用や夜間、泊まりの利用もできる。
台風で学校が休みになると朝から預かり、他の学童では受け付けない、夏休み期間中だけの利用もでき、長期休み中は、沢山の行事も行っている。
親の負担を減らすため、役員や当番はないのはもちろん、土日や祝日、夏休みなどは栄養バランスに配慮した昼食とお茶も提供する。
プール遊びの水着とバスタオルは夏休み期間中預かり、どんぐりの家で洗濯をするのでお母さんの負担軽減、ストレスはない。
ここに預ければ何でもしてもらえる、子供達にとっては「第2の我が家!」をめざしている。
「これまでどんな失敗があったか」という問いに対し、「思いつきで事業を始めてしまったこと」という答が返ってきた。
助成金等の知識もなかったし、起業家セミナーの類は受けていない。
「素晴らしいアイディアだから、絶対うまくいく」と考えていた。
「楽観的で戦略不足だった」と木崎さんは笑う。
看板事業で収入を得て、それを元手に学童を始めるはずが、実際はそう甘いものではなく、見込み以上に当初資金をつぎ込むことになった。
「借金も信用。資金ショートしてからでは厳しいので、今思えば蓄えがあるうちに融資を受けた方が良かった」
離婚して1、2年した頃、木崎さんは「ミリオネーゼになりませんか」という本に出会っている。
年収1000万稼ぐ女性の話だ。
これを読んで木崎さんは、「私も稼いでみたい。そのためには社長になろう」と夢を持った。
職探しに苦労して何度も転職したが、どんぐりの会設立までに従事した仕事はすべて今の事業に生きてきた。
今は失敗談も事例報告のネタにしながら、次のステップに向けて邁進している。
どんぐりの家の利用者は、現在36人。
子どもの自主性にまかせることを大事にしており、学校の延長ではないので、スタッフを“先生”とは呼ばない。
6人のスタッフも、子どももニックネームで呼び合う。
子どもたちの絆は強く、生き生き、のびのび過ごしている。
お母さんが迎えに来ると、「えっ~もう迎えに来たん!早い!」と言うくらい子ども達が楽しんでいる。
お母さんたちは、仕事で子どもを預けることに後ろめたい気持ちを持つことが多いが、子ども達が楽しんでいることがわかるので、安心して働けるのだと言う。
最近、「どんぐりの家に子どもを預けたいけれど、40分くらいかかるので送迎ができない。地元で学童を開設してほしい」という相談を受けた。
このようなニーズは他にもあり、木崎さんはさらに事業を広げていきたいと考えている。
2016度から民間の学童保育にも行政からの補助金が出るようになり、黒字経営の目処も立った。
しかし現状は、就職活動中、休職中は保育園に入れてもらえない、4月から保育園に入園なら9月に申込む必要がある、その半年の空き期間をどう解消するか、病児保育、病後児保育も必要だ、乳幼児から学童まで、保育施設の環境はまだまだ整備されていない。
この問題を全て解消する為、各施設を複合施設化するか、小規模な保育施設を増やしていくか模索中だ。
■団体概要 NPO法人どんぐりの会
三重県津市で2013年設立。通学路の安全を守る飛び出し注意喚起看板を企業の協賛金を活用して設置、維持管理している。同時に、放課後だけでなく夜間、土日祝日も対応する学童保育事業を実施。子どもの安全を守り、女性が子育てと仕事を両立するだけでなく、企業が地域貢献できる仕組みを作っている。
インタビュアー:理事長 木崎芙美氏