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通信制高校と言えば、かつては「勤労学生が通う学校」だった。
だが、現在は生徒の半数以上が全日制高校などの中退者が占め、不登校経験や貧困家庭などの困難を抱えた生徒も相当数に上ると言われる。
しかも、生徒数は少子高齢化にもかかわらず増え続け、学校数はこの10年で2.5倍に増加。
今や通信制高校はさまざまな事情を抱えた高校生の最後の受け皿(セーフティーネット)となっているが、卒業生の2人に1人は進学も就職も決まらないまま社会に出て、フリーターやニート状態を繰り返しているという現実がある。
この問題に着目したNPO法人D×P(ディーピー)は、2012年6月に設立。
主に通信制や定時制高校の生徒を対象にした独自のキャリア教育プログラムを提供することで、高校生の進路未決定率と中退率を下げる活動を行っている。
共同代表を務める今井紀明さんは、「今、ニート・ひきこもり状態の人は全国に100万人以上いると言われますが、その一人ひとりにアウトリーチ(訪問支援)するのは至難の業。でも、彼らが所属先を失う前の高校生の段階でなら包括的な支援ができるんです」と話す。
具体的には、現在、通信制高校を中心に約10校と提携。
その中で、「コンポーザー」と呼ばれる社会人や大学生ボランティアとの対話を柱としたキャリア教育「クレッシェンド」を単位認定された授業として3ヶ月間(4回)にわたり実施している。
さまざまなバックグラウンドを持った大人と少人数制で長期間にわたって接することで、生徒の自己肯定感を高め、「やってみたい」という意欲や関心を引き出すのが狙いだ。
また、2013年からは、「やってみたい」を「できた」という成功体験につなげる学外チャレンジプログラムも新たに開始。
企業やNPOなどでのインターンシップ体験をはじめ写真などのアート活動やフットサルチームの結成など、生徒たちの意欲に応じた取り組みを応援している。
これらのプログラムにより、受講生徒の意欲が高まるなど成果は確実に表れており、卒業生の進路決定率も従来の55%から79%に上昇しているという。
通信制や定時制高校を対象にしたキャリア教育プログラムの実施は全国的にも珍しいが、その若者支援の原点には今井さん自身の過酷な体験がベースにある。
2004年に起きたイラク人質事件――。
当時、武装勢力に拉致された邦人3人のうちの一人が、実は18歳の今井さんだった。
戦火のイラクに渡ったのは劣化ウラン弾の怖さを伝えたいとの思いからだったが、拘束の報が伝えられると、日本国内では危険地域に入った3人に対して自己責任論が噴出。
帰国後は、容赦のない激しいバッシングにさらされた。
自宅には全国から批判の手紙や電話、メールが殺到。
世間から徹底的に否定される中で、次第に人と会うのが怖くなり、今井さんは約4年もの間、対人恐怖症でひきこもった。
そんなかつての自分が、困難や挫折を抱えた若者の姿と重なる。
「通信制や定時制に通う生徒の多くは、周囲から否定されたり、さまざまな困難を抱える中で何らかの挫折経験を持っている。
そんな彼らを20歳にも満たない時点で社会が切り捨ててしまっていいのか。
それが、僕らの基本的な問題意識なんです」
一方、バッシングの嵐の中では、一筋の光明もあった。
今井さんは、理不尽なバッシングに正面から向き合い、電話番号を公開して納得のいかない批判には一つひとつ丁寧に返事を返した。
時には、直接本人と会って対話したこともあれば、文通が長期にわたったこともある。
つらい作業だったが、そんな中で厳しい声は次第に和らぎ、「バカヤロー」と怒鳴っていた人が最後には「頑張れ」と励ましてくれるようになった。
「どんな人でも変わるんだなという思いが僕の中にはある。
文通や電話をしているうちに、だんだん相手が変わってくるのが手に取るように分かった。
その経験があるから、大変な困難や挫折を抱えた生徒たちも、きっと変われるはずだと思えるんです」
現在、D×Pの活動は、事業収入と寄付50%ずつで賄われている。
事業収入は主として私立高校に対するプログラム実施の対価によって得られるが、公立高校の場合は予算が取れないケースが多いことから、地域のスポンサー企業や個人の寄付者を集めてプログラムを行う。
その際の地域への協賛募集の呼びかけも、学校の協力を得ながらD×P自らが手がけている。
また、中退や進路未決定者を生み出さないための学校支援活動として、専門学校や大学の生徒に対する中退予防の取り組みも実施。
これは、生徒情報の整理体制の構築から先生や生徒へのサポートまで中退予防をトータルにコンサルティングすることで、中退率をほぼ半減させるなどの成果を出しており、同活動も事業収入の大きな柱となっている。
今後は、通信制や定時制高校の提携校拡大が目下の課題だ。
特に、通信制や定時制高校を切り口にした同様の支援は他にあまり例がないこともあって、プログラムの実施依頼が全国各地から寄せられており、まずは関西圏で地盤を固め、将来的には全国展開を図っていく考え。
また、生活保護家庭の高校生に対するニーズも高まっており、これについても行政と連携しながら、同様のキャリア教育を実施していく。
「自分の進路を決めて突き進めない生徒の多くは、過去に辛い体験を抱えていることが多いうえに、通信制や定時制に来てしまったという引き目もあって、自分に対する肯定感を持てないでいる。
また、進路を決めるだけの人間関係にも恵まれていません。
でも、逆に言えば、プログラムを通じて自己肯定感を得るための成功体験と一歩前に踏み出す人間関係を獲得できれば、自ずと進学や就職に結びついていくんです。
D×Pの活動はまだ始まったばかりですが、高校生を社会で孤立させないことで、ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会にできたらと思っています」
■団体概要 NPO法人D×P
「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」を創ることを目標に、通信制や定時制高校を対象とした独自のキャリア教育プログラムを提供。
生徒の自己肯定感や意欲を高め、進路決定に欠かせない社会関係資本(人とのつながり)を創ることで、高校生の進路未決定率と中退率を下げる活動を行っている。