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大阪市の地域活動協議会(以下、地活協)は、小学校区を基本単位に、地域振興会、地域社会福祉協議会をはじめ、ボランティア団体、NPO、企業などさまざまな団体が参画している連合体で、防犯・防災、福祉、健康、環境、文化などさまざまな分野の地域課題解決やまちづくりをするのが目的である。
NPO法人緑・ふれあいの家(以下、緑・ふれあいの家)は、みどり小学校区にて緑地域活動協議会として2012年8月に設立した。設立の背景には、行政からの要請以前に、みどり小学校の荒れた現状があった。当時、民生委員と町会長をしていた、緑・ふれあいの家 理事長・久木勝三さんは、冬のある日教室を訪ね、驚くべき光景を目にした。
「窓ガラスが全部割れ、ダウンジャケットを着て子どもたちは授業を受けていた。とても勉強できる環境ではない」
思わず、教頭に「どうしてこのまま放っておくのか」とたずねると教頭は、
「学校だけの責任だと思っていらっしゃるのか。私たちは地域と一緒に問題を解決したいが、誰に相談できたのか」
久木さんは、胸に刺さるその言葉によって「これまで地域が学校に対し、何の関与もしてこなかったことに気づかされた」という。
「このままではいけない」。危機感を感じた久木さんは、学校と地域のコミュニケーションが図れる場づくりを少人数のチームで進めたが、地域の子どもたちを見守るには、他方面と連携しなければならない、地域の組織をつくる必要があるとも考えていた。
「まず、PTAとの懇談会、先生方との話し合いをする機会を重ね、地域のマーケティングリサーチやヒアリングはプロボノを活用した」と話す。学校改革への道筋を考えていた矢先に、大阪市より「児童いきいき放課後事業」(後述)の公募があり、すぐに応募した。この受託事業を通じて地域から子どもたちのケアやサポートを実践している。
▶法人格がなければ事業受託ができない
大阪市は、地活協が自律的な地域運営を行えるよう地活協の法人格取得を見据えており、300を超える地活協のなかで、法人化した団体は、緑・ふれあいの家のほかには、山之内スマイル協議会(住吉区)、榎本地域活動協議会(鶴見区)、南市岡地域活動協議会(港区)の計4つである。
しかも、緑・ふれあいの家は、地活協設立の3カ月後すでにNPO法人となっている。その理由を久木さんはこう話す。
「最初から法人格を持ちたいと思っていた。理由は、簡単にいえば社会的信用。行政からの事業受託には法人格が求められるため、例えば、地域と学校の連携を深めたくても、法人格がなければ、関連する事業公募にすら応じることができないから」
▶2050年を見据えて予防に重点
緑・ふれあいの家は、組織運営全体を担当する「総務部・事業部門」、事業全般を担当する「事業部」、経理を担当する「経理部」、会計監査を担当する「監査部」、広報紙の編集・配布、ホームページやSNSの運営を担う「広報部」の5部門から 構成されている。各部門や各事業を統括するのが、理事長を中心に NPO法人の理事らで構成される運営委員会である。事業部門は有償と無償、それぞれに事業部が置かれている。
「事務局には常時3~4名がいる。私ができなくなっても事業が止まることがないようしっかりと組織をつくってきた」と久木さん。
事業内容は、2017年度の定期事業だけで13事業あり、多面的な広がりを見せている。防災・防犯分野では、毎日、下校中の子どもたちを見守る「青色防犯パトロール」ほか、近年では小中学生を対象とした「Jr.防災リーダー養成講座」、町会単位で勉強会を行い災害マップやマニュアルをつくる「緑地震そなえ隊」などがある。この分野における今後の展開は「鶴見商業高校の生徒が、学識者から防災知識についての講義を受けている。いずれJr.防災リーダーの講座を終えた小中学生の児童に、鶴見商業高校の高校生が教えるという取り組みを進めている」と久木さん。
健康分野では、心身鍛錬や頭の体操を継続して行う「緑ふれあいトレーニングハウス」が週3回行われている。久木さんによれば「杖がないと歩けなかった人が、ここに半年通っただけで歩けるようなったことがある」らしい。反響も大きく、登録人数も初回15人から58人へ増えている。このトレーニングハウスと同じ日に、食生活の改善を図る「緑コミュニティランチサービスと宅配」、情報交換や交流づくりの場「緑コミュティサロン」を実施し相乗効果を狙っている。
「2050年には3人に一人が高齢者。しかし、元気でお互いに助け合えるなら問題ではない。元気なうちにサポートするのがねらい。来年度は大阪市の委託事業である介護予防教室(なにわ元気塾)もとりいれたい」と張り切っている。
▶「いきいき」が国際交流に発展
緑・ふれあい家の核となる事業は、大阪市からの委託事業「児童いきいき放課後事業(以下、いきいき)」である。「いきいき」は、大阪市が1992年、独自に始めた事業で、学期中の放課後、夏休みや冬休みなどに、児童を小学校の空き教室などで預かり、宿題やゲームなどを通じて生活指導を実施する。緑・ふれあいの家が受託したのは、2013年度から。現在、みどり小学校区、鶴見小学校区、焼野小学校区、茨田西小学校区、横堤小学校区、5つの地域における事業の運営・管理団体となっている。
「いきいき」は平日午後6時までだが、問題も出てきた。
「保護者の仕事などで午後7時までに帰れない子がいる。しかも、同じメンバー。そこで考えたのが時間を延長して、英語を教えることだ。預かるだけでなく、その時間を利用して勉強ができればより有意義」。
久木さんは学習塾に相談し、講師から1年間、英語を教えてらうと案の定、好評だった。今年5月より、国際交流センター内にある日本語学習センターに依頼し、留学生が2人、週5日きて「ウガンダ、ケニアからも含め18カ国から来日している留学生と『いきいき』の子どもたちが英語を介しての国際交流している。お互いにいい刺激になっている」
来年3月には英語のスピーチなど成果発表会をする予定だ。ちなみに地域の盆踊りにも留学生が30~40人参加している。
▶2-3年後には補助金をゼロに
このように緑・ふれあいの家は、地域の実情に即した事業を多方面の人材を活用しながら、縦横無尽に展開している。これらの地域活動は、継続してやっていく必要がある。そのためには、財政基盤の確立と事業の役割を理解する優れた人材が求められる。久木さんは「人材が最も大切。いい人材を確保するには、地域にこだわらなくてもいい。また、有償ボランティアをはじめ、いい人材が働きやすい環境が必要だ。したがって、財政の安定は必須」だと話す。
緑・ふれあい家の場合、財源の自主財源の約75%は大阪市から受託した「いきいき」事業である。その予算額は2017年度で、総額約7700万円のうち、約5700万円にのぼっている。
「いきいき」以外の財源についても、区の補助金事業「緑ふれあいトレーニングハウス」などの収益事業のほか、区内の企業による季節のイベントごとの寄付金が占めている。寄付金については認定NPO法人になることで、税制優遇措置も視野にいれている。
「今後は、収入予算に占める自主財源の割合を大きくし、2~3年後には、補助金をゼロにしたい。そして地域の場合、分野に偏りが生まれてはならない。事業として分けていくには限界がある。また、コミュニティビジネスでなく、ソーシャルビジネスを行うとすれば、いずれは分社化が必要」と久木さん。
地活協を立ち上げる前から、いち早く法人化し、先を見据えていた緑・ふれあいの家においては、決して難しくないことだろう。
■団体概要 NPO法人緑・ふれあいの家
大阪市の地活協の中で、NPO法人化し既存の事業を守りながらも、幅広い分野の新たな事業を展開し、成果を上げている先駆的な存在。鶴見区で5地域の「児童いきいき放課後事業」運営・管理を担っており、学校を核としたネットワークづくりに取り組んでいる。