みんなの活動報告内容
●伝統野菜掘り起こし×食文化×社会貢献
●難波葱の会×難波葱部会×浪速魚菜の会×良品計画×幸南食糧
●市民団体×生産者×企業×行政×病院
なにわの伝統野菜で免疫力アップ!
加工食品を開発し、医療従事者へ1万食を無償配布
“日本の葱のルーツ”といわれる、なにわの伝統野菜「難波葱」。この葱のぬめり成分には免疫力を高める効果があることから、コロナ禍の医療従事者の皆様に免疫力を届け、難波葱でねぎらいたい!として、2020年、難波葱の普及活動を行っていた市民団体や生産者らが連携し加工食品を開発。府内5カ所の病院へ、10,000食を届けました。今回、このプロジェクトに取り組んだ「大阪難波葱普及委員会」代表の難波りんごさんにお話を伺いました。
大阪はびきの医療センターに、難波葱ごはんなどを贈呈する
大阪難波葱普及委員会の皆さんと食品開発に協力した
幸南食糧、無印良品のスタッフ。
(前例左:普及委員会代表 難波りんごさん、右:医療センター山口院長)
難波葱の「ぬめり」成分が免疫力アップへ、プロジェクトを立ち上げる
日本の葱のルーツと言われる難波葱は冬が旬で、葉の繊維が柔らかく、強いぬめりと香り、濃厚な甘みが特徴です。江戸時代から現在の南海難波駅周辺で盛んに栽培され、明治の初めには約50ヘクタール、東京ドーム10個分以上の葱畑が広がっていたそうです。しかし近年になり、栽培や収穫に手間がかかることや、カットねぎなどの加工に向かないことから、しばらく市場から姿を消していました。
大阪市住吉区で上田隆祥さんが守ってきた昔ながらの難波葱を復活・普及させようと、2010年、市民や生産者らによる「難波葱の会」を結成。着々と難波葱の普及活動に取り組んだことから、2017年に「なにわの伝統野菜」の認証につながり、一気に注目されるようになりました。
実はこの難波葱の特徴であるぬめり成分は自然免疫力を高める効果があると、我が国の農業と食品産業の最大の研究機関である農研機構から発表されており、難波葱の会の会長の難波りんごさんは、コロナ禍に入り「難波葱の免疫力アップ効果を有効的に使えないか?」と考え、手軽に食べられる加工食品にして、コロナの最前線で戦っている医療従事者に無償提供するプロジェクトを発案し、2020年の8月、大阪食文化の普及活動を行っている特定非営利活動法人 浪速魚菜の会、生産者で構成されたJA大阪中河内松原地区 難波葱部会などに声をかけ「大阪難波葱普及委員会」を発足しました。
収穫された難波葱。葉がやわらかく、甘さと香り、ぬめりが特徴。
南海電鉄「開通五十年」(1936年)より
明治時代、難波駅建設予定地周辺の多くは葱畑であった。
と記載されています。
2020年2月1日「大阪農業時報」
難波葱の普及活動と免疫力効果について
加工食品の開発とクラウドファンディングに挑戦
加工食品の開発には、無印良品の運営会社「良品計画」と、難波葱の産地である松原市の米穀卸売業「幸南食糧」が協力しました。またメニューには生産者のおススメのレシピ、難波葱ごはんとスープがあがりました。2020年10月、カフェで難波葱メニューを提供している無印良品のシェフや大阪料理会、生産者らの協力のもと、幸南食糧の企画開発を行っている米匠庵にて試作が始まりました。良品計画では通常なら試作と商品開発で2年近くかけるところ、コロナ禍での社会貢献活動として関係者が協力した結果、数か月のわずかな期間で「難波ネギせんべい」を完成させ、幸南食糧・米匠庵が製造した「難波ねぎごはん」「難波ねぎスープ」の3点をセットとして贈呈することになりました。
2020年12月、無償提供に向けての資金調達のために「大阪難波葱普及委員会」で、初めてクラウドファンディングに挑戦。クラウドファンディングを実施するためにホームページを立ち上げ、活動で繋がりのあった飲食店などにお願いし返礼品を用意しました。慣れない作業に手間がかかり短い募集期間でしたが、400万円近くを集めることができました。支援者からは「コロナ禍で自分たちも何かできればと思っていたので、これで協力ができて嬉しい」との声もありました。
幸南食糧・米匠庵にて試作品作り
産経新聞 2021年1月21日掲載
産経新聞 2021年1月21日掲載
コロナ禍で初めてのクラウドファンディングに挑戦。
18日間のわずかな期間で支援者166名から約400万円を集めることができました。
大阪府はレッドステージ(非常事態)が発令、
医療従事者へ感謝をこめて1万食を配布
2020年12月には、コロナ感染が拡大し医療体制はひっ迫、大阪府はレッドステージ(非常事態)へ突入していました。会では加工食品の製造を進め、大阪府から紹介してもらった十三市民病院をはじめとする5か所の病院へ、2021年2月から4月にかけて3回にわたり、10,000食を配布することができました。
幸南食糧が提供してくれた10トントラックにて
十三市民病院に搬入している様子
大阪難波葱普及委員会、幸南食糧、無印良品のスタッフと
十三市民病院の西口幸雄病院長(当時)
思わぬ効果で販路が拡大、廃棄分ゼロへ
医療従事者の皆さんからは大変喜ばれ「難波葱の風味をしっかり感じ、とても美味しかった!」と好評でした。またクラウドファンディングの支援者からは「美味しかったので購入したい、どこ買えるの?」などの問合せもありました。難波ネギせんべいは翌年から無印良品の季節の定番商品として、無印良品の北花田店、セブンパーク天美店などで販売されることになりました。また新メニューとして難波ねぎのアヒージョやねぎ焼きなど、次々と難波葱の加工品が考案、商品化され、難波葱の由来や歴史、生産者の紹介とともに販売されています。また、医療従事者への寄贈の取組みを評価してくれた郵便局から寄贈した「難波ねぎごはん」「難波ねぎスープ」を窓口販売する提案があり、販路が拡大。今年は大阪市と松原市の一部の50局で販売されました。
加工食品の開発により、これまで廃棄していた余剰分の葱が活用され、ロスがなくなりました。また生産、加工、販売までが地域で出来るようになり、生産者も盛り上がり生産量を増やしています。生産者の部会メンバーからは「難波りんごさんが旗振り役となり一緒に走っていった感じでした。難波葱がこんな美味しい加工食品になるなんて嬉しい誤算であり、社会貢献できたことは一生の宝です」という声も聞かれました。
普段からの繫がりと信頼関係、純粋な思いが人を動かす
最後に、このプロジェクトを取り組んだ感想を、難波りんごさんにお聞きしました。「コロナ禍になり難波葱がこんな時こそ役に立つのに…歯がゆさがありました。まさに今でしょ!なんとかしたいの一心で夢中でやっていました。クラウドファンディングには沢山の方から申込みがあり大変嬉しくて、1件、1件、感謝を込めて、お令状と返礼品を送らせていただきました。しかし課題の連続でしたので、最後に加工食品をお届けできた時はホッとしました。同時に、もう燃え尽きるぐらいの達成感がありました。生産者、料理人、企業、大阪府、医療従事者、クラウドファンディングの支援者などの多くの方の協力があったからこそ、短期間で、このプロジェクトを成し遂げることができました。難波葱の加工品が次々と生まれることで、さらなる難波葱の普及につながれば嬉しく思います」
コロナ禍の緊急事態に、このような機動力を発揮できたのは、普段から活動を通して大事にしてきた繋がりや信頼関係、そして難波りんごさんの純粋な熱い思いが大勢の人の心を動かしました。どのような活動においても共通のテーマ、繫がり、信頼関係、純粋な思い、が「人を動かす原動力」になります。
コロナ禍に人の縁を繋いだ、なにわの伝統野菜「難波葱」ぜひご賞味下さい。
難波葱は旬の11月~3月、松原市内や大阪府内イオン系スーパー、高島屋大阪店・堺東店、あべのハルカス近鉄本店、河内長野や羽曳野、河南町の「道の駅」などで販売、また加工食品は無印良品の北花田店、セブンパーク天美店などで販売されています。
●大阪難波葱普及委員会 http://nambanegi.osakas.jp/fukyu/
●難波葱の会 http://nambanegi.osakas.jp/
●JA大阪中河内松原地区 難波葱部会 http://www.nambanegi.com/
●特定非営利活動法人 浪速魚菜の会 http://www.ukamuse.jp/
●㈱良品計画 https://ryohin-keikaku.jp/
●㈱幸南食糧(米匠庵) https://maishoan.co.jp/
●なにわの伝統野菜 https://www.pref.osaka.lg.jp/nosei/naniwanonousanbutu/dentou.htm
(取材・執筆:シミポタ運営事務局 榮 知子)