みんなの活動報告内容
大阪市の成人式といえば、みおつくしの鐘。新成人が鐘を鳴らすシーンを思い浮かべる方は多いと思います。実は、このみおつくしの鐘、1955年、女性たちの発案と市民の力で完成した歴史があります。みおつくしの鐘にこめられた子どもを思う女性たちの思いを受け継ぎ、アートを媒介に子どもたちに鐘のエピソードを伝える活動を続ける玉登ゆかりさんの呼びかけにより、2022年のクリスマスに、「鼎談『愛の鐘』みおつくしの鐘」が実現しました。「鐘が作られた背景や当時の女性たちの思いを知る。そして、次世代に伝えていきたい」。概要を紹介します。
登壇者の皆さん
左から、美術家・中島保美鋳金工芸美術研究所所長 中島保美さん、大阪市地域女性団体協議会会長 前田葉子さん、ドットアートコスモ代表 玉登ゆかりさん
戦後のみおつくしの鐘の運動を、コロナ禍を前向きに生きるヒントに
玉登)ドットアートコスモという団体で、アートの活動をしています。コロナ禍が続き不安なことが多い中で、明るい未来に向けてポジティブになるにはどうすればよいのだろうと考えていたときに、約70年前、戦後まだ食べることや生きることが大変だった時代に、女性たちが運動を起こしてみおつくしの鐘をつくったエピソードを知りました。「当時の大変さは、今のコロナ禍と似ているかもしれない。みおつくしの鐘をシンボルに活動してみよう」と思いつきました。幼稚園や小学校に出向いて日本の伝統的なアートともいえるのし袋を使って「めで鯛」を折ってもらい、完成した折り紙の鯛で、鐘を作るのです。クイズ形式で鐘のエピソードを伝えるなど、ワークショップを続けています。
鐘の歴史を多くの人に知っていただきたいと考えて、2022年5月、大阪市役所ロビーに展示していたときに、大阪市市民活動総合ポータルサイト(シミポタ)運営事務局の榮さんと出会い、鐘の運動に縁のある方たちに引き合わせていただき、今日、この鼎談が実現しました。
ドットアートコスモ代表 玉登ゆかりさん
「~ハートのコミュニケーション拡張活動を~」をミッションに、アートを通じたコミュニケーションを展開する
「めで鯛」で再現された、みおつくしの鐘。
みおつくしの鐘にこめられた女性たちの思い
榮)本日の進行を務めます、大阪市市民活動総合ポータルサイト(シミポタ)運営事務局の榮です。はじめに、60年前に鐘がつくられた経緯について伺いたいと思います。「みおつくしの鐘を鳴らす運動」についてお話しいただけますか。
前田)大阪市地域女性団体協議会は、昭和24年に地域婦人団体協議会の名称で結成され、当初は15万人の会員がおりました。当時、国民の暮らしは困難で、戦禍で身寄りを失った子ども達が多数、路上生活をしていました。昭和29年にヒロポン患者に幼児が殺害される事件が起こるなど、様々な社会問題がありました。こうした社会情勢の中で、子どもたちが夜10時を過ぎても街中を歩いていることを嘆いた女性たちが、現状をなんとかしたいと思ったのです。
大阪市地域女性団体協議会会長 前田葉子さん
大阪市地域女性団体協議会は、大阪市内各区の女性会が参加する全市組織。
子どもたちの健全育成を進めるために何ができるかという話し合いが進められる中で、「夜に鐘を慣らし、子どもたちに家庭を思い出して自発的に家に帰ってもらおう」ということになり、提案は理事会で満場一致で可決されました。これが愛の鐘の運動の始まりです。
制作のための募金は、目標200万円でしたが、一般市民や財界からも募金があり、300万円(現在の価値で6000万円)が集まりました。
鐘の寸法は「良い子」の願いをこめて四尺一寸五分。表面にはお母さんが子どもを抱いているマークをあしらい、子どもたちが手を繋いで囲むようなデザインで、しっかりと子どもを抱きかかえ育てる母親の願いを表しています。
鐘には、
「鳴りひゞけ
みおつくしの鐘よ
夜の街々に あまく やさしく
”子らよ帰れ”と
子を思う母の心をひとつに
つくりあげた 愛の この鐘」
と銘文が刻まれ、昭和30年5月5日の子どもの日に、大阪市に寄贈されました。
以来、夜10時に鐘を鳴らしています。反響は大きく、みおつくしの鐘は当時の青少年非行防止運動の代名詞となりました。また、鐘の運動はレコードや映画にもなり、北海道から九州まで広がりました。成人になった感謝と喜びをこめて鐘を20回鳴らす打鐘式は、昭和33年から始まり、今も続いています。
榮)みおつくしの鐘は、大阪市役所を皮切りに大阪市内全区にも広がっていきました。現在も福島区、西淀川区、生野区に鐘が残っています。中島さん、生野区の鐘についてお話しくださいますか。
中島)大阪市役所の鐘が完成した後、生野区でも全員一致で鐘を作ることになりました。区役所の新庁舎ができるのに合わせて鐘を寄贈することになり募金を募ったところ、生野区でも、目標額36万円の3倍近い81万8700円が集まったそうです。
その時、私は中学2年生でしたが、生野区在住だった父に制作の依頼がありました。鐘は昭和32年3月に完成し、4月に設置されました。大阪で3番目の鐘でした。
戦後11年を過ぎて、青少年の非行が問題になっていた時代です。夜遅くまで街で夜遊びしている子どもたちに心を痛め、早く家に帰れという母の思いがこめられていたと思います。
多くのお金が集まったので、音響効果は当初1kmを予定していたところ、2kmにできたと聞いています。生野区役所はその後リニューアルされましたが、鐘は現庁舎6階食堂のホールに設置され、成人の日に打鐘式が行われています。
美術家・中島保美鋳金工芸美術研究所所長 中島保美さん
鋳金、鋳物での作品を作る。 父が生野区の鐘の製作に関わった。
現在の生野区役所にある、みおつくしの鐘
玉登)本や資料を読むだけではわからない、みおつくしの鐘にこめられた当時の女性たちの思いの一端を知ることができたように思います。アートの展示を見ていただくお母さんたちから、「誰を信じていいかわからない」という声を聞くことがあります。不安な気持ちをどうすればよいのか、答えは簡単には出ませんが、「みおつくしの鐘を見てください」とお声かけしています。戦後、女性たちが子どもたちの未来を考えて手をつなぎ、鐘を作った。テレビもスマホもない時代でしたが、運動は大きく広がりました。スマホやネットばかりに頼らず、人と人がつながるというのは、一番のキーワードだと思っています。
大阪市市民活動総合ポータルサイト(シミポタ)
運営事務局 榮 知子
登壇者のコーディネートをサポート。鼎談の司会進行を担当
鐘が伝える未来とつながりを作る女性たち
榮)みおつくしの鐘から60年以上が経っていますが、地域やコミュニティにおける女性の活動や役割はいかがでしょうか。
前田)大阪市地域女性団体協議会の活動の基本はリーダー養成の学習ですが、成人式でのDV防止チラシの配布や、大阪マラソンのクリーンアップ作戦など清掃活動にも取り組んでいます。
地域コミュニティで活動しているのは、ほとんどが女性です。女性の力がなければ、コミュニティは成り立たないと思います。ふれあい喫茶も百歳体操も、子育てサロンのお手伝いもお世話をするのは女性が大半。女性はつながるのが上手です。
「ボランティアはお節介」だと教えられましたが、お節介で地域でつながっていく。女性の力は地域ではひじょうに大切ですが、高齢化していますので、若い方につなぐことが課題になっています。男女は半々ですから、男性に出て来てもらうと少しは問題が解消されます。リタイアされた男性を引き込んでいくことも課題です。また商業ビル、高層マンションなどの皆さんにコミュニティに入っていただくことも重要です。防災を手がかりに「一緒に活動しませんか」と呼びかけています。
榮)中島さんは、作品作りのテーマを「生命」とされています。親が子を思う気持ちから作られたみおつくしの鐘と共通するキーワードですね。
中島)高校を卒業してから作品作りを始め、父の跡を継ぎました。結婚して、流産を3、4度経験したのですが、その子たちがこの世からいなくなったとき、子どもたちの存在価値は何だったんだろうと考えて、生命をテーマに表現していきたいと思うようになりました。今もいろんなことに取り組んでいますが、社会の動き、世界の情勢を見て、子どもたちが成長していく姿を見て、何が必要なのかを考えながら、制作しています。
玉登)アートなんていらない。アートでお腹いっぱいにはならないという声があります。鑑賞する、観察することがおろそかにされていないでしょうか。作品はどんな気持ちで作られているのかを、よく見る、知る、気づく、発見することで世界観が広がります。小さな子どもの時からそれを体感してほしい。「なぜ?」の問いかけをたくさんしてほしい。ただ飾るだけでなく、その向こう側にあるものを観察してほしいと願って活動しています。今日の鼎談でも、生命、愛、人を思う心というキーワードが出ました。みおつくしの鐘にこめられた思いやエピソードを、皆さんもぜひ、誰かに伝えてください。点が線になり、面になり、愛があふれる街になればと思います。
中島)鐘そのものは、金属です。私の作品も金属なので冷たいですが、そこに温かい気持ちをこめて、これからも作品を作りたいと思います。作品が少しでも、観る人の心に響いていけばと思っています。
前田)みおつくしの鐘は、お母さんが子どもを抱き、子どもたちが手をつなぐ姿がデザインされています。コロナで直接触れ合うことが減っていますが、お互いに相手を認め合う子ども達に育ってくれると嬉しいと思います。
玉登)アートの力、愛の力を信じて、鐘のエピソードを伝えていきたいと思います。ドットアートキャラバンプロジェクトは、いろんな学校に行って、「あなたの作品でいろんな人を笑顔にしてくださいませんか」と呼びかけています。一人ひとりの未来が大きく社会を作っていくということが見える化できればと願っています。
榮)本日は貴重なお話をありがとうございました。
※シンポジウム「鼎談『愛の鐘』みおつくしの鐘」は、2022年12月25日、ドットアートコスモと大阪府立国際会議場(グランキューブ大阪)共催のもと、大阪府立国際会議場の特別会議室で開催されました。
イベント終了後、玉登さんは「今後もこのような機会を作り、鐘のエピソードを伝えていきたい」とお話しされていました。現在でも大阪市役所本庁舎では毎夜22時に、みおつくしの鐘のメロディーが鳴り響いています。成人の日にはぜひ、みおつくしの鐘にこめられた女性たちの思いや活動に思いを馳せてみて下さい。
取材・執筆
シミポタ運営事務局
ドットアートコスモ(ドットアートキャラバンプロジェクト)
https://www.designdot.co.jp/gallery-01.html
大阪市地域女性団体協議会
https://danjo.osaka.jp/shijyoseikai/index.html
中島保美鋳金工芸美術研究所(出展:生野区役所「生野ものづくり百景」より)
https://www.city.osaka.lg.jp/ikuno/page/0000347741.html
大阪市ホームページ「みおつくしの鐘」
https://www.city.osaka.lg.jp/seisakukikakushitsu/page/0000023621.html
キテミテ中之島
http://www.keihan.co.jp/traffic/kitemite/
大阪府立国際会議場(グランキューブ大阪)