企業×市民活動 コラボのススメ内容

京橋に生まれ育ってまちの盛衰の歴史を見てきた経験から、若い世代が自分たちの力、自分たちの発想で地域を活性化したいとプロジェクトを立ち上げ、PR戦略を駆使して活動の裾野を広げている一般社団法人京橋地域活性化機構 理事長 鷲見慎一さんにお話を伺いました。 

記事掲載_使用写真

一般社団法人 京橋地域活性化機構   

理事長 鷲見 慎一さん

PRSJ認定 PRプランナー

 

同志社大学大学院 MBA卒

大京商事株式会社 専務取締役

宅地建物取引士

公認不動産コンサルティングマスター

 

 

2015年スタートの「京橋しゃべり場」。すべてはここから始まった。

若い世代が集まる「京橋しゃべり場」とは、どんな「場」なのでしょうか? 

京橋に住む人だけでなく、このまちの事業主や、このまちを利用する人、このまちが好きな20代から40代までのメンバーの集まりです。定例で月に1度集まって地域活性化のアイディアをブレーンストーミングで出し合っています。2015年3月にスタートしてこれまでに45回を数えます。毎回20人前後が集まりますが、SNSで広く参加者を受け付けているので、初参加の人も常に4、5人います。京橋のまちを良くしたいという思いを持っている、それがメンバーの共通点です。「京橋にはこんないいところがある」「京橋にあったらいいな」という様々な意見を交換し合っています。ブレーンストーミングですから、出てきた意見に「でも」や「だって」は言いません。全員がフラットで自由な意見を出して、誰かが「やりたい」と言ったら、面白そうなものからやる、しかも即やる、みんなでやる、ことをモットーにしています。「京橋しゃべり場」からすべての活動が生まれています。

 

 

「地域の特色を活かす」とは、その地域でしか味わえない、その地域に行く価値のあるまちにしていくことだと気づかされてスタート!独立した活動を続ける社団法人。

なぜ「京橋しゃべり場」、そして「一般社団法人京橋地域活性化機構」を立ち上げられたのでしょうか?

生まれ育った京橋で不動産関係の仕事をしていますが、空室率が上がり、賃料が下がり、駅の乗降客数も減っていく状況を目の当たりにし、停滞感を肌で感じていました。「このままでは」と危機感を覚えたのが10年くらい前、ちょうどその頃、隣町の蒲生4丁目で「がもよんにぎわいプロジェクト」がスタートしたのです。京橋は空襲で焼け野原になったため、古い建物はありませんが、蒲生4丁目にはあります。蒲生4丁目では、あえて古いまち並みの特色を活かし、築百年を超える古民家を再生して地域活性化に取り組まれていました。「地域の特色を活かし、その地域でしか味わえない、その地域に行くだけの価値あるまちにしていくことが本当の意味での活性化である」と、蒲生4丁目の実例を間近に見て気づかされたのです。「がもよんにぎわいプロジェクト」をロールモデルにして、自分もこの京橋の地域特性を活かして何かやりたい、京橋を活性化したいと思い始めました。でもやるからには違う切り口でやりたい、オリジナルでやりたいと立ち上げたのが「京橋しゃべり場」です。

ここにしかないもの、ここでしか生み出せないものはあるのか、できるのか。しかも自分たちの手で、行政の力を借りずに、しがらみに縛られずに。私個人は既存の様々な団体にも所属していますが、なかなか若い世代が意見を言いにくい、出しても通りにくい環境があり、若い世代が自由に発想して実行できるしくみをつくりたかったのです。その思いが「京橋しゃべり場」から2015年10月の社団法人化につながっています。メンバーのそれぞれの思いが実現可能な完全な独立団体、コラボはするがしがらみはない、それが「一般社団法人京橋地域活性化機構」です。

 

 

活動のルールはシンプル。面白いと思ったものを、スピード感をもって実行する。

京橋しゃべり場」から生まれた企画や活動を教えてください。 

社団法人化するまでの半年間、毎月新しい取り組みをどんどん行いました。そこでできると確信を得たので、その後もスピード感をもって様々な企画を実現していきました。マスコットキャラクター「けいはつ犬」をつくり、「けいはつ犬」の活動として京橋駅クリーンアップの啓発や、大阪府警、税務署、赤十字社などとコラボした啓発活動をしました。京橋駅周辺の飲食店では飛び込みで若いミュージシャンが演奏する「京橋流し」のプロジェクト、都島区とコラボした区民まつり前夜音楽祭の企画実行、「秀吉大茶会」開催、5大学とコラボした「京橋学生映画祭」の開催、落語家と史跡をめぐる「大阪歴史ウォーク」など、思いついたことをどんどんやっていきました。「京橋流し」は若者が活躍できる場を提供したい、「秀吉大茶会」は使われていない茶室を復興させて貴重な茶室を地域資源にして一般の人にも楽しんでもらいたいという思いがありました。食に関わるものでは飲食店を巡りながらはしご酒を楽しむ「せんべろイベント」や、地産品をアピールする食イベント「大阪産づくし会」、「子ども食堂」の開設や「京橋農園」など、それぞれテレビや新聞、ラジオ、ネットニュースなど数多くメディアに活動を取り上げていただきました。すべて「京橋しゃべり場」に集まったメンバーが出したアイディアです。やるかやらないか、の基準は非常にシンプルで、「面白いか面白くないか」、それだけです。実現すれば面白いね、と思ったものをみんなで計画し、即座に動いて実行してきました。「子ども食堂」は、やると決めてから2週間で実現させました。やる気、面白い、スピードが「京橋しゃべり場」のキーワードです。

 

 

やみくもにイベントをやっても広がらない。コンセプト、ストーリー、そしてPRまで含めた仕組みづくりが重要。

活動が数多くのメディアに取り上げられたのはなぜでしょうか? 

メディアはとても重視しています。地域活性化ですから、地域の人に知ってもらうのはもちろんですが、ただ「つくりました、やりました」ではなく、多くの人に知ってもらってこそ意味がある、と考えています。地産品のアピール企画「大阪産づくしの会」もメディアに取り上げられて大きな反響があり、地域の数十人規模ではなく、大阪の数十万人に向けてこんな盛り上がりが京橋にある、ということを知ってもらうことができました。

PRに重点を置いているのは、PRの基礎を教えていただいたPRプランナー殿村美樹さんの影響が大きいです。殿村美樹さんが企画された「うどん県」や「ひこにゃん」、「佐世保バーガー」などのように、話題性や仕掛け、そしてストーリーがあれば注目され、全国メディアに取り上げられます。私たちはまず、ストーリーを考えてから企画を詰めていきます。例えば、「子ども食堂」を始めた頃はすでに全国2000箇所くらい「子ども食堂」がありましたが、私たちは「まちの皆で子どもを育てる」というコンセプトで京橋地域100箇所に募金箱を設置して、その資金で「子ども食堂」をやろう、と決めました。メニューはカレー、しかもまちの様々な飲食店でカレーの調理を持ち回りするという企画です。イタリアン、和食、バー、居酒屋など、調理する店の個性が出たカレーです。子どもたちには、「同じカレーでもつくり方でいろんな味がある」ことを知るきっかけになっただけでなく、地域のことを知るきっかけにもなり多くの人が関わることで、相互の交流も生まれました。単に子どもに食事を提供するだけではなく、コンセプトがしっかりしているのでメディアにも興味を持ってもらえたと思います。

PR戦略はとても重要です。地域活性化の取り組みは地味になりがちですが、私たちは1次発信を新聞やテレビなどマスメディアから、2次発信をSNSやWEBサイト、ローカル誌、チラシなどで行って情報を拡散しています。取り組みや活動が広がらないのはPRまで含めた仕組みがないからです。 仕組みができればきっと広がります。

 

 

京橋からの発信を大阪全体に、全国に。

具体的にはどのような広がりや反響がありましたか?

「子ども食堂」から派生したのが「京橋農園」です。子どもが参加して野菜づくりの工程を知る機会になりました。カレーに入っている玉ねぎをひとつつくるのにどれだけの労力がかかっているのか、子どもたちに知ってもらい、収穫した玉ねぎが入ったカレーを食べるというのは、まさに「食育」だと考えています。募金箱で資金を集めて実施したこの活動は、マスメディアに取り上げられたことで、同じ大阪府でも地理的には随分離れた高石市から問い合わせがあり、私たちの「子ども食堂」の仕組みを提供させていただきました。

また、「子ども食堂」では企業とのコラボも実現しました。3箇所目の開催にあたっては、地元の企業が運営資金を出資してくださることになりました。地域活性化には企業の資源やノウハウはとても貴重ですから、CSR活動の一環でコラボをしていただけるのは大変ありがたいことです。

他にも、空き家問題では、地域の皆がDIYで地域コミュニティスペースを生み出すという活動をしていますが、材料は地元の工務店から提供してもらい、指導をしていただいています。皆でつくることが愛着につながりますし、「地元やから、地元のためならやりたい」という思いが浸透しつつあります。地域の絆が薄れている中、自由に交流できる場が絆をつくるきっかけの場になれば・・・それがまちのあちこちにできれば、より一層活性化していくと思います。活用されていない空き家が地域の活力になるようにという期待を持ちつつ、続けています。

京橋という一地域での私たちの活動事例がモデルケースになって、さらに他の地域や大阪全体、そして全国に広がってほしいと願っています。

 

 

できない理由を探さず、まず動く。やる気があればできる。「主役は市民」の時代。

これからの活動やそこにかける思いについてお聞かせください。 

商店街の過疎化も全国的な問題ですが、京橋も同じです。立ち退きで建物がなくなってしまったところもあって、暗くて寂しい一角があります。防犯のためにも、そこに提灯を飾ろうと「提灯彩りプロジェクト」を昨年行いました。書道家を招いてワークショップを開き、参加した人は自分の手で提灯に好きな文字を書いて、それをアーケードに飾るのです。一人一人がそれぞれ自分の思いを込めて書いた提灯が飾られるって嬉しいですよね。

昨年は多くの災害がありましたが、大川のあたりも台風でたくさんの木が折れて風景が変わり寂しくなりました。そこで新たに桜を楽しめる場所をつくろうと「みんなの桜プロジェクト」 を現在進めています。植樹の資金はクラウドファンディングを活用し、みんなで植えてみんなで育てて、みんなが楽しめる新しいスポットになればと思っています。

まだ活動を始めて4年目ですが、何事もやろうと思えばできるのです。できないとしたら、それは周りのせいではなく、できない理由を探しているのだと思います。実際に行動を続けることで地域の中での信用も得られてきたと感じています。小さなことでも、ちょっとしたことでも始められる、やれることはたくさんあります。その都度、何かの課題を見つけて解決していく、そのままにしないで行動をとり続けていく姿勢をこれからも貫き通したいですね。

メンバーの20代から40代前半の世代はフットワークが軽く、ICTスキルも、人を巻き込む力も、エネルギーもあります。今、そしてこれからの社会を支えていく世代です。時代は変わりつつあり、パラレルキャリアが認知され、仕事とは違う楽しみや活動フィールドを求めていますし、そのニーズも増えています。「主役は市民」の時代になってきていると感じます。「地域の担い手として参加していこう」、というのは今の時代だからこそのひとつの素晴らしい生き方だと思います。地域活性化の担い手としては若い団体ですが、私たちの活動がそのムーブメントの一翼を担えればと思っています。