企業×市民活動 コラボのススメ内容
※持続可能な開発目標(SDGs)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標です。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っています。SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいます。(出典:外務省ホームページ)
製造ラインの効率化やマーケティングで、旭区をはじめ、周辺区である東成区や鶴見区など工業集積地におけるものづくり企業の発展につながる活動を継続的に展開。
「産官学」協働による持続可能な社会の実現への貢献をめざす大阪工業大学 皆川健多郎教授にお話を伺いました。
大阪工業大学
工学部 環境工学科
教授 皆川 健多郎 さん
1998年大阪工業大学工学部経営工学科に着任。助手、講師、准教授を経て現在に至る。専攻は、IE、経済性工学、マーケティング。博士(工学)。日本経営工学会監事、日本設備管理学会理事、IEレビュー誌編集委員、関西IE協会運営委員等を務める。主な著書・論文として、『ものづくり中核人材育成における産学連携事業の取り組み』(本位田光重・皆川健多郎共著、日本IE協会誌IEレビュー254号、2008年)IE文献賞・貢献賞受賞。『生産工学-ものづくりマネジメント工学-』(本位田光重・皆川健多郎共著、2012年10月、コロナ社)がある。
地域の発展は企業の発展が基礎。「産官学」の連携が今後の鍵
大学教授というお立場でどのように地域などと関わっていらっしゃるのでしょうか。
企業のCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)と同様、大学の社会的責任はUSR(University Social Responsibility)と定義されています。
工業大学ですので、まずは将来ものづくりに貢献できるような学生たちを育成し、社会へ送り出す、そのためのあらゆる教育を実践することが本来は本学の果たすべき責任となります。
それに加え、私自身は「地元企業の発展なくして、地域の発展はない」と考えを持っており、地元企業が発展するためには産官学の連携は今後ますます重要になると考えています。
まずは自分にできることをできることから社会に対して貢献していきたい、延いてはSDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の一翼を担えればとの思いで活動しています。
私自身はものづくりの生産性向上のための研究をしていますので、現在は生産ラインの見直しに関するアドバイスや社会人研修などを通じて地元のものづくり企業と協働させていただいています。こうした活動を積み上げていくことでものづくり企業の活性化や発展に少しでも寄与できれば考えています。
これまで関西生産性本部、大阪商工会議所、大阪府商工労働部、大阪産業振興機構、そして大阪市経済戦略局の他、企業ネットワークまで、さまざまな組織とコミュニケーションをとりながらネットワークをつくってきましたが、私が普段よりお世話になり、連携させていただいている地域としては本学のあるこの旭区のほか、大阪商工会議所・東支部とのご縁から、城東区、鶴見区、東成区、城東区、生野区、そして都島区と広範囲にわたります。特に城東区、鶴見区、東成区、そして生野区はものづくり企業が多い工業集積地です。これはかつて大阪城のそばに大阪砲兵工廠があったことも関わりがあるようです。このような地元企業の現場を革新して、より人の能力を発揮できる現場づくりの検討を進めています。またマーケティングに関する研究もしていますので、生産性向上の面からだけではなく、開発も含めた連携が企業と一緒にできないかと考えています。
こうした活動を通じて、リアルなものづくりの現場と次代を担う学生たちがもっとたくさんつながる場や機会を創生していきたいですね。
生産ラインの効率化…ほんの少しやり方を変えるだけで社会を変えることにつながる
具体的な取組みについてお聞かせください。
今力を入れているのは「生産性」をテーマとした企業対象の社会人研修です。ものづくり企業における「効率化」は生産性向上につながります。そしてそれは企業の利益アップにつながります。さらに、残業などを減らすことで従業員のワーク・ライフ・バランスを実現させ、従業員の生活の充実や心身の健康が会社そして社会にもたらしてくれるものは大きいと思います。
もし企業が「効率化」ができていないとするならば、企業本来の能力が発揮できないということになり、非常にもったいない話です。
企業対象の社会人研修では、「カイゼン」への意識を高め、体感理解により「カイゼンの原理・原則」を学んでいただくことを目的としています。
ツールとしてLEGO®を取り入れ、サンプル通りのものを組み立てるというプログラムです。サンプル通りにつくるのが目標ではなく、そのプロセスが大事です。サンプルを見て「どうすればもっと“早く” “正確”に組み立てられるか」をグループで考えて取り組んでもらうわけです。どのパーツを、どの順番で、どう協働すればより効率的に出来上がるのかをあれやこれやと皆さんで協力しあって考えて…とても楽しく取り組んでくださっていますよ。
ブロック遊びは典型的な子どもの遊びとして世間では定着しているものですが、この「組み立てプロセス」から学ぶことがとてもたくさんあるのです。作業をいかに効率化するか、だけではなく、新しいものを生み出すことに必要な課題意識の醸成と解決しようとする工夫などを通じて発想を転換したり、協働することを通じてチーム力や論理的思考力を養うことができます。これを応用することで、残業していた毎日も定時で終わる、あるいは定時より早く仕事を終えられることにつながり、余力ができる、という効果が期待できます。
生まれた余力をどうするか。余力が生まれることは心のゆとりができるということで、新たなものを生み出そうというモチベーションにつながったり、別の課題改善に時間や労力を有効に活かそうという発想につながります。多くの企業がこれまで以上に効率化を意識し、会社が、従業員の暮らしが変われば、社会は大きく変えることができるはずです。
もともと大阪東部地区は歴史が古いものづくり企業が多いのです。軍需工場に近いという背景もありますし、さかのぼれば、渡来人の影響もあるといわれています。脈々と続いてきた昔ながらのものづくり製法を今も残しているところもあります。しかし時代と共に生活が変わり、生活者ニーズも多様化しています。そしてインフラも大きく変化しました。
今の時代に合わせ、ほんの少しやり方を変えるだけで品質が上がることもあるでしょうし、コストダウンもできるかもしれません。
ものづくりは開発と製造の二面があります。これまで培った技術の良い点を伸ばしつつ、製造プロセスも含めて革新していく、QCD(クオリティ・コスト・デリバリー)の向上のため、変革と挑戦を続ける企業と今後も関与させていただける機会をいただければと思っています。
「ものをつくる人」と「ものを売る人」―旭区と周辺区とで産業を盛り上げていければ
「大阪のものづくり」に対するお考えをお聞かせください。また旭区ではどのような連携ができますか。
大阪は中小企業が多い都市です。そして技術力は世界に誇れるものだと思います。中小企業というとB to Bのイメージが強いです。そのような企業も効率化に取り組まれたり、新たな技術開発に取り組んだり、B to Cつまり生活者向けの商品と販路開発、販売にチャレンジする企業もたくさんいらっしゃいます。
私は生産性向上に関する研究と同時にマーケティングの研究も行っていますので、マーケティング視点でお話すると、生活者向けの商品は生活者ニーズに応えることができて初めて「成功した」と言えます。せっかくいいものを作っていても生活者ニーズに応えられなければ結局「自己満足」で終わってしまう。その「生活者ニーズ」を把握しているのは商品を販売する小売業界です。
旭区は「千林商店街」という大きな商店街があり、以前に交流をさせていただきましたが若手のオーナーもたくさんいらっしゃいます。問題を抱えておいでの方もいらっしゃるとは思いますが、世代交代をうまくされておいでの方もおいでのようです。若いオーナーの方々と、周辺のものづくり企業が一体になってまちを盛り上げていけたらいいですね。
商店街の持つ生活者ニーズ、企業の持つ新しい技術やモノ、生み出すプロセスなどが互いに共有され、協働できるよう両者との橋渡し役となれるような効果的な関わり方ができたら、と考えています。
「ものをつくる人」と「ものを売る人」をつなぐ。それにより、旭区を始め、周辺企業の活性化や発展へと波及していく、あるいは周辺から旭区へとあたらしいものが集まってくる、といったことが実現すれば素晴らしいと思います。
ものづくりとマーケティングとの融合がもっと活発になるように、できることから進めていきたいと思います。
これまで築いた産官学ネットワークを活かし、持続可能な社会への道筋の基礎づくりに貢献したい
今後の展望についてお聞かせください。
最近の学生の傾向として、「地元で働きたい」といった希望をよく聞きます。この状況を実現するためには、地元企業の発展なくしてありません。私が地元の企業の方々と交流をする理由はそこにあります。そして、いい学生が育ち、地元の企業で各々が存分に能力を発揮してくれることにより、地元の企業も発展します。学生の育成とともに、社会人、そして企業の生産性向上に関与するために、これからも多くの現場を訪ねてまいりたいですね。
私の研究分野である「生産性向上」、「マーケティング」の切り口で、この旭区を含めた大阪東部のものづくり企業と連携し、新しいものを生み出すための環境づくりに微力ながら貢献ができればと思っています。工業のみならず、商業とも連携し、産学が連携を深めることによりさまざまなことができると信じています。そして、地元からより良い社会づくりが始まることを願っています。
現代社会は豊かになり過ぎて、いつでも、どこでも、なんでも手に入る時代になりました。次のステージはどうなるのか、日本だけではなく世界的な視野で考えていかなければならない大きな課題ですね。そのためのSDGs―「地球上の誰一人として取り残さない」ための17の目標達成のため、私がこれまで関わってきた産官学ネットワークを活かし、持続可能な社会への道筋の基礎づくりに貢献していきたいと思います。