社会課題と市民活動内容
高齢者になるほど事故を起こすって本当?
最近、テレビや新聞で高齢者のドライバーによる交通事故のニュースをよく見かけるようになりました。高齢者の事故は本当に増えているのでしょうか?
平成31年2月28日発表の警察庁交通局の統計資料によると、年齢層別免許保有者10万人当たりの交通事故発生件数(※1)が16歳~19歳は1,489.2件、20~24歳は876.9件なのに対して、一般的に高齢者とされる65~69歳は438.4件、75~79歳でも533.3件、さらに85歳以上でも645.9件と事故発生件数は他の年齢層と比較して、それほど高いとは言えません。
また、年齢層別免許保有者10万人当たりの死亡事故件数(※2)でみると、16~19歳で11.43件、20~24歳で4.58件、高齢者とされる65~69歳が3.42件、70~74歳で4.4件です。ここまで見ただけでは、高齢者の死亡事故の割合はそんなに高くないように思えます。ところが、75歳~79歳になると6.17件、80~84歳までなら9.21件、85歳以上になると、なんと16.27件にもなり、死亡事故件数の割合は75歳から高齢者になるほど高くなっている事がわかります。
原付以上運転者(第一当事者)の年齢層別免許保有者10万人当たりの死亡事故件数(平成30年中)
※警察庁交通局 報道発表資料の概要(統計資料)より作成
このことから、高齢者の事故率は他の年齢層と比較してそれほど高いとは言えませんが、死亡事故につながるような重大な事故を起こしていることが多いということが分かります。また、70歳以上の免許保有者(※3)は全体の13.7%に当たる約1,130万人で、高齢者とされる65歳以上を含めると約1,860万人もいることから、今後も高齢者の事故件数および死亡事故件数は増えていくものと考えられます。
高齢者ドライバー特有の事故
では、なぜ高齢者は重大な事故につながりやすいのでしょうか?それには、運動機能や認知機能の低下(※4)による高齢者特有の事故があります。
例えば
・ブレーキとアクセルの踏み間違い
交通事故総合分析センターの調べ(平成24~28年)(※5)によれば、ペダルの踏み間違いによる事故が全体の事故に占める割合は、24歳以下は約1.5%で、25~54歳は0.8%、55~64歳は0.9%、65~74歳は1.5%、75歳以上では3.1%にもなり高齢者の方が起こしやすいことがわかります。これは股関節の可動範囲の低下や素早い判断ができない事によるものではないかと考えられています。
第1当事者が四輪車の年齢層別のペダル踏み間違い事故割合
(特殊車、ミニカーを除く)
注)事故割合=ペダル踏み間違い事故件数÷全事故件数
出典:交通事故総合分析センター イタルダインフォメーションNo.124
・高速道路の逆走
平成30年調査の国土交通省の資料(※6)によれば、75歳以上の免許保有者数は全体の6.8%しかいないにも関わらず、逆走事案発生件数全体(事故後の確保も含む)の48%も75歳以上が占めており、一般的に高齢者とされる65歳以上まで幅を広げると約7割にも達します。また、「2017年の動機別の逆走発生状況(※7)」によれば、最後(事故・確保)まで逆走だと気づかないドライバーの約9割が65歳以上の高齢者です。これらは、認知症などによる認知機能の低下が原因の一つとして考えられています。
その他、右折時の事故や出会い頭事故などについても加齢による認知機能や身体機能の低下による要因が大きいと考えられています。
官民の協力で高齢者ドライバーの事故を減らす取り組みが行われています。
高齢者ドライバーによる事故を減らすために、免許更新時に70歳以上は「高齢者講習」を、さらに75歳以上については認知機能検査を義務づけていますが、抜本的な対策にはなっていないのが現状です。
そこで、国では自動ブレーキ搭載車などに限定して乗ることができる「高齢者限定免許」の導入をめざすと共に、警察と協力して自動ブレーキなど安全運転を支援する機能を搭載した安全運転サポート車(愛称:サポカー、サポカーS)(※8)の普及活動にも取り組んでいます。
高齢者ドライバーの免許自主返納への取組み
一方、地方自治体では、65歳以上の高齢者の免許返納を促進するために、公共交通機関の1年分の乗車券や、運転免許有効期限までバスを無料で利用できる乗車券、またはタクシーの割引チケットや商品券などを支給しているところもあります。
さらに、ユニークな取組みとしては地域住民と警察、スーパーのチェーン店が協働して免許返納に取り組んでいます。高齢者ドライバーのお宅に、地域住民と警察が定期的に個別訪問を行ない、免許証の自主返納を促すと共に返納の特典として提携したスーパーの配達を無料で行っています。
企業や民間団体の取組み
企業や民間でも様々な取組みが行われています。例えば、ある自動車メーカーでは助手席から親や祖父母の運転能力を簡易的に確認し、アドバイスする「#助手席孝行」と呼ぶ見守りアクションを推奨しています。
また、運転技術に得点を付けることで、可視化を行ない返納基準を含むアドバイスや運転能力の定期的な練習メニュー作りに役立てるように活動している民間団体などもあります。さらには、地域住民にボランティアのドライバーになっていただき、免許を返納したお年寄りを車で買い物や病院へ連れていくサービスを行っているNPO法人もあります。その他にも、身体にセンサーを付けることで運転の特徴を可視化し、高齢者の安全運転に役立てるため、アドバイスと訓練を行なっている自動車教習所があります。
これから高齢化はますます進んでいきます。自分の親や祖父母、さらには自分自身についても、安全に運転ができているのかどうかを常に意識することが大切です。そして、車を運転する人もしない人も、安全・安心に暮らすためにはどうすればいいのか、社会全体で考え、取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。
(記事作成:大阪市社会福祉協議会)
※1 出典:警察庁交通局 統計表
「交通事故の発生状況」(平成30年(2018) 公表日:平成31年2月28日)
P.17 「原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別免許保有者10万人当たり交通事故件数の推移」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/toukeihyo.html
※2 出典:警察庁交通局 報道発表資料の概要(統計資料)
「平成30年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」
P.19 「原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別免許保有者10万人当たり死亡事故件数の推移」
https://www.npa.go.jp/news/release/2019/20190212001jikosibou.html
※3 出典:警察庁交通局 「運転免許統計」
P.3 「平成30年末の運転免許保有者数」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/menkyo/h30/h30_main.pdf
※4 出典:内閣府 特集 「高齢者に係る交通事故防止」
(3)加齢に伴う高齢者の身体的特性
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h29kou_haku/zenbun/genkyo/feature/feature_01.html
※5 出典:交通事故総合分析センター イタルダインフォメーション№124
https://www.itarda.or.jp/contents/6/info124.pdf
※6 出典:第5回 高速道路での逆走対策に関する有識者委員会 配付資料(国土交通省)
P.12 逆走事案(確保)件数 [年齢別]
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/reverse_run/pdf05/03.pdf
※7 出典:第4回 高速道路での逆走対策に関する有識者委員会 配付資料(国土交通省)
資料3 逆走発生の詳細分析 P.11 2017年の動機別の逆走発生状況[傾向]、
P.13 2017年の動機別の逆走発生状況[詳細]
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/reverse_run/doc04.html
※8 サポカー・サポカーS(経済産業省)