社会課題と市民活動内容

連携協働をテーマとしたシリーズ考察の3回目となる今回は、JR大阪駅北側うめきた地区で毎月1回、早朝の出勤前のひとときに社会課題やまちづくりを学ぶ「うめきた朝ガク」を例に挙げ、現場リポートをもとに、どうしたら連携協働やコラボが実現するのか、全3回の総まとめとしての考察をお届けします。

 

 

「コラボの実験場」としての役割が期待されるうめきた朝ガク

 

うめきた朝ガクは、グランフロント大阪が開業した1993年から約8年続いており、コロナ禍のただ中にあって、オンライン会議の形で続いています。

初めての参加者も交流できる連携協働のきっかけづくりの場でもあり、別々の分野で活躍する人たちの新たな出会いを生む「コラボの実験場」としての役割が期待されます。

全1時間のプログラムのうち、前半の30分間がゲストスピーカーの説明、後半は、グループ討論とグループごとに報告される全体の場の共有となります。

第88回うめきた朝ガク(7月29日)のテーマは、「市民からの情報発信を考える。あなたも、市民ライターに?」でした。

株式会社アクセプトの桑山幸恵さんがゲストスピーカーとして登壇、大阪市の市民活動総合支援事業(社会課題解決に取組む活動主体間の連携協働の促進及び市民活動総合ポータルサイト運用業務)について情報をシェアしました。

ポイントは以下の通りでした。

●事業目的は市民やNPO、企業などさまざまな活動主体と行政によるマルチパートナーシップ(連携協働)の推進

●活動団体間の連携や交流をサポートするステップアップ交流会、協働をサポートするコラボ実現プロジェクト(仮称)、団体紹介1分動画チャレンジ100人リレーなど「顔の見えるつながりづくり」にこだわったプログラム

●大阪市市民活動総合ポータルサイトから発信する考察記事や取材記事を作成する協力者(協創ライター)を市民や団体など外部から有償ボランティアとして参画いただく連携協働の事業スキーム

 

朝ガクスライド

 

オンラインで参加者が交流するグループ討論

 

うめきた朝ガクの特徴は、参加者みんなが交流するグループ討論にあります。

オンライン会議システム「Zoom」には、「ブレークアウトルーム」という参加者を小グループに分ける機能があります。

オンラインのうめきた朝ガクもこの機能を活用して、参加者が5、6人程度のグループに分かれて情報交換しました。

 

桑山さんから示されたグループ討論の論点は、以下の2点でした。

①どうすれば、効果的にプロジェクトの認知拡大・理解促進ができる?

②ポータルサイトの登録団体の潜在層を掘り起こすには、どんな工夫ができる?

 

グループ討論の報告では、具体的な提案が続きました。

「情報発信したくてもその方法がわからない団体もあります。そのきっかけづくりの提案があれば役立つと考えます」

「口コミでも、コツコツと地道に継続して言い続けることが大切です。デジタル発信の方法にうとい人がその方法を学ぶ機会にも期待します」

「組織の場合、担当者が短期間で交代することもあるので、長い目でかかわることができるボランティアがどのように育つかに注目しています」

「市民ライターの発信がどう展開されるのか、とても関心があります」

 

桑山さんは「的を射たアドバイスを多くいただきました」と振り返りました。そして、「継続的な情報交換の相談も受けたので、この場で出会った人ともつながりを深めて〝連携協働〟が進むことに期待しています」と強調していました。

 

うめきた朝ガク集合写真(7月29日)その1

 

 

うめきた朝ガクの事務局を担う永井美佳さん=大阪ボランティア協会事務局長=は「朝のひととき、ソーシャルなシャワーを浴びるように社会課題やまちづくりの取り組みを学び語り合うことに意味があります」と言います。そして「知り合い同士で同質化しがちなので、いつもとは違うメンバーに出会えることは本当に大切です。さまざまな領域で活躍するソーシャルなゲストに登壇いただくことが、うめきた朝ガクの使命でもあります」と語っていました。

 

「コラボの実験場」のチャレンジ 課題を考察してみると

 

コラボを生む可能性を秘める場は、必ずしも「うめきた朝ガク」だけではありません。いろんな活動主体がつながる「コラボの実験場」のチャレンジが機能するには、どのような課題があるのでしょうか。

 

今、コロナ禍にあって、新たな出会いの場を求めるニーズは高まっています。

社会課題が複雑化し、ニーズが多様化する中、活動のマンネリ化や先細りを懸念して、活動の幅を広げたり、活動の在り方を見直したりする必要を感じる団体は少なくありません。

ましてや、2020年初めから1年半以上も続くコロナ禍において、活動そのものがストップしたり、人と当たり前に会えなくなったりした状況に、ストレスをため込み、内面に複雑な感情を抱え込んでいる人は多いのではないでしょうか。

だからこそ、リアルに人に出会える場は貴重なのです。

 

「連携協働」のステージを考える

 

団体や個人をつなぐ「連携協働」のステージをいくつかの段階に分けて考えてみましょう。①出会いの場、②情報交換、③コラボによる新しい活動の始動――と段階的な展開が想定できます。

 

「戦後最大の危機」とされるコロナ禍においては、「①出会いの場」があるだけでも、日常に変化をもたらす「清涼剤」のような効果を生むといえます。出会いの場で、興味・関心が相通じる人を見つけたら、「②情報交換」の段階に進むことはそう難しくありません。

課題は③コラボによる新しい活動の始動にどう進めるかです。

 

「③コラボによる新しい活動の始動」のポイントは、目的意識や方向性を共有することと考えています。最後に、うめきた朝ガクから誕生したコラボ実例をご紹介しましょう。

 

うめきた朝ガクから派生したグループのひとつに、私(中尾)も加わる「ミガク会」があります。ミガク会は、「文章表現力」や「伝える力」をみがくことを目的とした勉強会です。私は昨年春まで30年間、毎日新聞記者として働いていました。ミガク会は朝ガクのある会合で、毎日新聞記者だった私と何人かで「文章表現の力を鍛えよう」「伝える力をみがこう」と話し合って生まれました。

 

ミガク会のメンバーも今回、大阪市市民活動ポータルサイトに記事を発信する共創ライターの役割を担おうと準備しています。

うめきた朝ガクをきっかけにつながることができたゆるやかなネットワークの関係こそ、「連携協働」の在り方のひとつでしょう。

私たちも、市民ライターらしい情報発信にチャレンジします。小さなステップの積む重ねから、着実な成果が生まれることを願っています。

 

取材と報告・中尾卓司