社会課題と市民活動内容

 未来からやって来たネコ型ロボット〝ドラえもん〟が取り出すひみつ道具。目的地を唱えて扉を開くと、その先が目的地になる。そんなどこでもドアを手にする日が近づいている。インターネットにつなげば、画面は学校や仕事場に早変わり。海を越えて誰かと話すことも容易にできる仕組みはあっという間に広まった。新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、バーチャルの可能性は一気に加速した。

未来のこどもたちは、木登りも虫取りも画面越しで体験するのだろうか? 実体験の積み重ねが素地にあってこそ、バーチャルの世界はこどもの想像力をかきたてるのだろう。

 

子育て世代が転出……大阪市の課題

 

大阪のような都会では、漫画に出てくるような空き地も少なく、自然にふれる機会も、異なる年齢で遊ぶことも学校を除けばほとんどない。

大阪市には270万人が暮らしており、そのまちに暮らす人の数は昭和40年をピークに減少を続けていたが、ここ20年は増加を続けている。一方で、0~14歳のこどもの人口は昭和35年をピークに減少を続けていて、全体人口は増えるもののこどもの数が増えていない。このような現象は日本全体でいわれることだが、大阪市では特に0~9歳と30~39歳の転出が目立っており、いわゆる「子育て世代」が大阪市を離れていることが推察される。

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その点からも、大阪市を子育て世代にとって、子育てしやすいまち、子育てしたいと思えるまちにしていくことが重要ではないだろうか。大阪市におけるこどもや青少年を取り巻く課題として「こどもの貧困」「幼児期の教育の質の向上」「学校教育における『生きる力』の育成」、「多様な体験ができる環境づくり」「いじめや不登校への対応」「社会参加、社会的・職業的自立への支援」が上げられている。中でも「多様な体験ができる環境づくり」については、インターネットで検索を行えば、いろんな体験活動があふれており、体験には事欠かない。

しかし、はじめてのおつかいに出て、お金を落とすまいとぎゅっと閉じた手から汗まみれの硬貨をだしてレジで支払いを済ませる……。家族と離れて参加したキャンプ体験から帰った夜。そこでの出来事についてご飯粒を飛ばしながらみんなに話す……。そんな姿はどんどん見られなくなっているのではないか。

こどもを一人で出歩かせることができるほど安全なまちなのか。最近のこどもは忙しく、習い事や塾の合間にゲームやインターネットで遊べば十分。泥まみれになる、けがをする、そんな体験をさせる必要性を保護者も感じなくなっているのかもしれない。

 

自然体験少ないこどもの割合増加

 

「青少年の体験活動等に関する実態調査(平成26年度調査)」によれば、学校以外の公的機関や民間団体等が行う自然体験活動に参加しなかったこどもの割合は、2006(平成18)年には30%台だったものが、5年後にはおよそ45%と、参加しない割合が増えている。また、こどもの体験活動は大切と思っていても学年が上がるごとに「自分のこどもには体験活動よりも勉強を優先させたい」と思う親の割合は増加している。

一方で6割弱の保護者が学校の授業や行事以外にこどもたちが体験活動をできる機会が十分ではないと感じており、7割の保護者が自分のこどもの頃と比べると「現在のこどもたちが体験活動をする機会は少なくなっている」と感じている。 

同じ調査の中で青少年の体験活動などの効果を経年的な視点から分析を行ったところ、こどもの頃の「体験」は、高校生になってからの自尊感情や精神的な回復力に影響があるという結果がでている。ひとつの体験を何度も重ねるのではなく、体験の種類を増やして多様な経験をすることが必要であることも同時にわかってきている。

今の若者は……と嘆く前に、彼らの育つ環境の変化についてももう一歩理解したうえで関わる必要があるのかもしれない。

 

子どもイメージ

 

 

支える大人の役割問われる

 

「なんで?」「どうして?」というこどもたちの興味関心に対して、できるだけ多くの大人が関わる仕組みづくりをどう整えるか。すでに大阪市・大阪市教育委員会では、学校・家庭・地域の三者が一体となってこどもを育てる新しい仕組みとして「小学校区教育協議会-はぐくみネット-」を作り、学校と地域をつなぐ観点で学校教育支援に取り組んでいる。地域住民がゲストティーチャーとして授業を行ったり、校内緑化、ビオトープ整備等を行ったりしている事例もあるが、なかなか取り組みが進んでいないところでも、市民団体と連携し、学校の取組みをさらに発展させることができるのではないだろうか。

大阪市内にもこどもたちに遊びの楽しさや生き物の生態を伝えようとする市民活動団体はたくさんあるが、テーマ型の団体だけで参加者を募り活動していくよりも、こどもたちに様々な体験活動を提供することを目指し、地域単位での活動と連携を取っていけないだろうか。こどもたちの「なぜ?」「なに?」というパワーは地域の大人に任せておいて、家庭では体験したことを話すことに特化すれば、家庭と地域の役割分担もできる。

こどもたちがドアを開けてその行き先を唱える時、どのドアを開けるのか指南する大人が多ければ多いほど、こどもたちがドアを開ける回数は増えていく。ドアを開けて出会った誰かから、さらなるドアを紹介され、さらに次の世界につながっていく。そういう体験の連続を支える大人がつながっていてこそ、こどもたちの世界を広げていくことができる。アナログな方法ではあるけれど、誰が検索しても同じ答えにたどり着かないけれど、思ってもみない出会いにあふれた未来との出会いがそこにある。

市民ライター 堀 久仁子

 

出典

◎独立行政法人国立青少年教育振興機構

「青少年の体験活動等に関する実態調査(平成26年度調査)」資料集

http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/107/

◎文部科学省 令和2年度青少年の体験活動に関する調査研究結果報告

https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_00738.html

◎ベネッセ教育総合研究所

「第2回放課後の生活時間調査-こどもたちの24時間-ダイジェスト版」(2013年度)

https://berd.benesse.jp/shotouchutou/research/detail1.php?id=4690

◎大阪市こども・子育て支援計画(第2期)

https://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000499222.html