社会課題と市民活動内容
大阪市には、外国につながる子どもたちが多く住んでいます。外国籍も、日本籍も両方いて背景はさまざまです。「外国にルーツがある子ども」「日本語を母語としない子ども」などさまざまな呼び方で呼ばれています。
外国につながる子どもたちは私たちの身近にいて、地域をともに支える心強い社会の構成員になります。子どもたちは今、どんな問題に直面しているのでしょうか。多文化共生に向けた課題を一緒に考えてみませんか。
大阪市データによると、2020年末現在で大阪市内に住む外国人住民は、14万4,123人。2013年と比較すると約1.2倍となり、全市民の約5%を占めています。
子どもだけでみると、大阪市内の小中学生約17万9,000人のうち、外国籍の子どもは、小学生2,624人、中学生1,051人、合わせて3,675人となっています。(2020年5月1日現在)
文部科学省の日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(2018年)では、全国で日本語指導が必要な児童・生徒は、外国籍4万755人、日本籍1万371人。合わせて5万1,126人となっています。
高校段階では、日本語教育が必要な生徒の中退率は9.6%。公立高校の平均の7倍を超えています。日本語指導が必要な生徒の中退率からも、外国出身者には、厳しい現実が浮かび上がります。「ことばが分からず、つらかった」といった当事者の声が支援者に届いています。自分が周囲から大切にされているという自尊感情を持てることも大切なのだそうです。
日本人が『当たり前』と考える以上に、『ことばの壁』『文化の壁』に阻まれている!
「せんせい、この掛け算おしえて」「それ、まちがってるやんか」。子どもたちの明るい声が響きます。大阪市西淀川区の阪神出来島駅近くのゆうせいホールで月曜日午後、ペルー、フィリピン、パキスタン、スリランカ出身の小学生6人が宿題や漢字、計算のドリルを学習していました。ボランティアがそばで一つ一つ、丁寧に指導します。ボランティア団体「西淀川インターナショナルコミュニティー」が運営する小学生向けの「学習支援教室 きらきら」です。小学生の後、中学生向けの「たぶんかじゅく アニモ」もありました。子どもたちの学習の場であり、居場所づくりの取り組みでもあります。
西淀川インターナショナルコミュニティー運営委員の坪内好子さんは、長年、日本語指導の必要な小中学生の学びを支えてきました。
坪内さんは「子どもたちの笑顔は、希望です」と話します。一方で、「現実は厳しい」と実情を語っていました。
日本生まれだから日本語が堪能になるとは限りません。大阪弁を流ちょうに話しているようでも、授業の内容を完全には理解できていないことも少なくありません。日常会話と学習言語の能力は必ずしも一致しません。そのことはなかなか、理解されにくいのです。
外国から来た親は生活のために仕事に忙しく、日本語の能力は完璧でありません。日本語も母語も中途半端な状態にある子どもとの間で、親子の意思疎通が難しいこともあります。母国の文化を守り続ける親と、学校で日本の文化に慣れ親しむ子どもとの間で意識のずれが生じるケースもあります。
同じ立場の親たちのポルトガル語やスペイン語の通訳を引き受けることが多い日系ブラジル人のセリアさんも、高校2年生の母親です。「『こんなこともわからんの』と言われて泣いて相談に来た子もいます」と打ち明けていました。高校の先生たちと相談の場を持って、その子が漢字を読めていない事実を初めて共有できたそうです。大阪市教育委員会や西淀川区役所、市立淀中学校と連携して今年10月に初めて、「たぶんか高校進学セミナー」が開かれました。公立高校と私立高校のちがい、専願と併願のちがいなど学校制度の詳細について通訳を介して説明されました。フィリピン、ベトナム、ペルー、ネパール、イラン、インド、中国、スリランカ、日本と9カ国の参加者、支援者や関係者も含めて約50人が集まりました。日本の学校制度に慣れ親しんでいない保護者から、とても感謝されました。
日本に来て間もないパキスタン人の姉妹が昨年秋から、「たぶんかじゅく」に通って、今春、府立高校の特別枠に合格しました。2人はパキスタンで中学校段階を終えてから日本に来て日本の中学校を経ずに直接、府立高校に入学しました。日本語指導が必要な帰国生徒や外国人生徒向けの入学者選抜の制度があり、この制度を活用しました。坪内さんは「頑張っている子を応援できることがうれしい」と話します。
大阪市西区の市立中央図書館で10月28日に開かれた大阪市主催の研修会「多文化のまちづくり」では、フィリピン人のジェイビー・ビセンテさんが坪内さんと対談し、小学生の頃に日本に来た自らの経験を語りました。ジェイビーさんは23歳となった今、母親が経営するフィリピン食材店で働く傍ら、フィリピンに野球を伝える活動を続けています。ジェイビーさんは「最初は自信がなかった。でも僕には野球があった。野球に自信を持つことで友達もできた。漢字を勉強して、日本語も話せるようになった。多くの人に支えられたのでその恩返しがしたい」と話していました。
坪内さんは「経験を積んだ若者や上級生が下の子のロールモデルになるような人間関係を大切にしてほしい」と願っています。そして「私たちに、できることは限られる。でも、できることをあきらめずにやり続けたい」と地道な活動を継続しています。西淀川インターナショナルコミュニティーの学習支援教室は、ボランティアの力に支えられています。
今、日本社会と私たちができること
「この社会に暮らすすべての子どもたちが夢をかなえるために何ができるのか?」というテーマのもと、有志が集まり、勉強会を重ねて結成された市民団体「子どもの夢応援ネットワーク」によると、日本語の能力や文化習慣のちがいで高校への進路選択からこぼれ落ちる子も少なくありません。同じ人間でありながら、ひずみは、弱いところに向かいます。研修会でも、参加者に対して、問い掛けがありました。
「外国にルーツを持つ多くの子どもや若者が大阪に暮らしています。その子どもたちや若者が自分を見失うことなく、キャリアを重ね、夢を実現するために、社会や大人は何ができるのでしょうか」
難しい問いかけです。
◇私たちの隣人の存在を知りましょう。無関心ではなく、あたたかいまなざしで。
◇外国籍住民も日本社会を支える一員です。同じ社会を構成する仲間です。
◇「多文化共生」という表現はときに厳しい現実を覆い隠してしまいます。
◇背景の異なる人の声なき声を受け止めて、相手の声に耳を傾けましょう。
◇社会を変えるために必要なことは、一人一人の小さな力の積み重ねです。
一緒に考え続けたい課題です。それにより「SOS」の訴えを受け止めるセリアさんや坪内さんのような支援者に巡り合える子が、学び直しのチャンスをつかむ機会を増やすことにつながるのではないでしょうか。
取材と報告:市民記者 中尾卓司
【参考文献】
大阪市「大阪市の外国人住民数等統計のページ(ともに支えあう、多文化共生のまちづくりを)」
https://www.city.osaka.lg.jp/shimin/page/0000431477.html
大阪市「大阪市における学校の概況(令和2年度学校基本調査)」
https://www.city.osaka.lg.jp/toshikeikaku/page/0000543479.html
文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成30年度)」
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/09/1421569_00001.htm