社会課題と市民活動内容
認知症患者は2025年に、65歳以上の高齢者5人に1人の割合となり、全国で700万人に達すると推計されています。
大阪市統計によると、大阪市の人口(2021年11月現在)およそ275万人のうち、65歳以上の高齢者は70万5,901人(25.6%)と4人に1人の割合です。
「認知症になっても地域社会で安心して暮らせるように」。そんな願いをかなえるためには、どんな課題があるのか。そしてどんな対策が進んでいるのか。課題と対策を探ってみました。
認知症とは
認知症とは、後天的な脳の障害によって認知機能が低下して、日常生活や社会生活に支障をきたす状態を指します。高齢者に限定されるのでなく、若年性認知症になることもあります。
認知症が進行していくと、妄想・幻覚・徘徊・排泄など、周囲の負担が大きい行動が目立つようになります。自らの行動における判断力が低下し、当事者の尊厳も傷ついてしまうのが認知症の難しさです。
要介護認定調査の結果によると、2015年(平成27年)の時点で、大阪市の認知症高齢者の推定人数は10万300人。
このうち、介護保険を利用している認知症高齢者は6万5,600人。認知症高齢者の3分の1強の約3万4,700人は介護保険を利用していない状況でした。また軽度認知障害(MCI)など認知症予備群とされる人は8万7,000人でしたが、年間8,700人程度が予備群の段階から認知症になっているとみられています。
認知症の人を早期にサポート オレンジチームの役割
こうした背景があり、2014年度からのモデル事業(1区)を経て、2016年度には大阪市内24区すべてに「認知症初期集中支援チーム」が設置されました。愛称は「オレンジチーム」です。オレンジは、認知症支援のシンボルカラーです。認知症サポーター養成講座を受けた人は、受講した証しとなるオレンジリングが渡されます。オレンジリングをつけた人を見たら、「認知症の当事者や家族を応援します」と意思表示していると考えてみてください。
なお2021年度から認知症サポーターの証として渡されるグッズがオレンジリングから認知症サポーターカードに変更になり、オレンジリングは有料グッズとなっています。
区ごとに複数の地域包括支援センターがあり、オレンジチームを担当する地域包括支援センターは、認知症強化型地域包括支援センターとなります。組織の母体はさまざまであり、区によって、区社会福祉協議会や民間の社会福祉法人が受託しています。
オレンジチームは、対象者の把握と訪問の活動を通じて認知症の初期の人をサポートし、最長6カ月間かけて、認知症が疑われる人を医療や福祉のサービスにつなぐ役割を担います。家族、友人、知人、民生委員らからの相談を受けて、自宅を訪問、本人の状況を確認します。オレンジチームは医療・介護・福祉の専門職員で構成され、認知症サポート医のアドバイスを受けながら、対象となる高齢者に福祉・介護の事業所や病院を紹介します。
さらに、軽度認知障害(MCI)や認知症が心配される人に対し、身体機能を保つ体操や生きがいを感じる生活を提案することを含めて、広報や啓発の活動も大切な役割です。
あべのオレンジチーム(阿倍野区)は、「脳とからだのワーク」と傘体操を考案し、ひらのオレンジチーム(平野区)は、若い世代向けにインスタグラムで情報発信しています。それぞれの地域の実情に応じて、区ごとに独自の取り組みが展開されています。
外出自粛で存在が見えない
新型コロナウイルス感染拡大で、外出自粛が広がり、認知症が疑われる人の存在が見えにくくなりました。コロナ禍は、認知症を取り巻く環境を難しくしたとも考えられます。認知症かもしれない人が外出できず、人と会う機会を奪われると、認知症の疑いを指摘されるきっかけも減り、オレンジチームや医療・福祉につながるチャンスも失いかねないからです。
認知症を当たり前に
「認知症をよく知らない」という声も「認知症はこわい」といった誤解もまだあります。
知らないことは、望ましいことではありません。
無知は、正しい理解を妨げる原因にもなります。
みんなが認知症の知識を持てば、認知症に対する偏見も誤解もなくなります。
「誰もがかかりうる当たり前の病気」という理解が広がり、周りに誰か声を掛ける人がいると、認知症が疑われる高齢者の異変を早期に察知できます。
オレンジチームや地域包括支援センターの存在を知ると、相談窓口に情報が届きやすくなります。
◇認知症サポーター養成講座
認知症サポーター養成講座は、認知症を理解する場として役立ちます。
大阪市中心部のマンションでも、高齢者の一人暮らしや高齢夫婦だけの世帯もかなりあります。周囲が隣人の異変に気づけるように、顔見知りの関係が広がることも大切です。
小さな力の積み重ねが社会を変える
「同じ話を繰り返す」「ごみの回収日を守らない」などもの忘れの兆候や、「読書好きの人が本を読まなくなった」「楽しみにしていた活動をやめる」など行動の変化が顕著になったら要注意です。認知症が疑われるシグナルかもしれません。高齢者の異変に家族や周囲の人が気づいたら、医療や福祉・介護のサービスにつながるきっかけとなります。
社会を変えるのは、小さな力の積み重ねです。
認知症になっても住みよい社会を実現するためには、多くの人が少しずつでも認知症の知識を学んで認知症の理解が広がるといいですね。
報告:市民記者 中尾卓司
【参考文献】
大阪市(年齢別推計人口)
https://www.city.osaka.lg.jp/toshikeikaku/page/0000015211.html
認知症強化型地域包括支援センター運営事業
https://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/page/0000409531.html
認知症初期集中支援推進事業
https://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/page/0000287657.html
認知症初期集中支援チーム
https://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/cmsfiles/contents/0000287/287657/jigyogainenzu01.pdf