社会課題と市民活動内容

「もう買わない」と誓える?

 

 日本では1年を通してたくさんの行事がある。節分、七夕、ひな祭りなど、季節や日本の暦と結びついた行事、二十四節気にちなんだ夏至冬至等いろんなものが浮かぶ。日本の伝統的な行事だけでなく、世界の行事を取り入れたものも含めると毎月何かの行事があり、街に彩を与える。

 こうした行事は、ビジネス機会としても捉えられ、これに合わせたイベントやプロモーションが開催されている。クリスマス前には普段見かけない丸鶏が棚に並び、12月26日にはその棚がガラッと代わりお正月に向けた食品が棚を占拠する。そして新年を迎えて七草がゆセットが棚に並ぶ。特定日に需要が集中する「季節食品」は、売り手が特定日を狙って大量に生産し、結果的に賞味期限を過ぎた商品を大量廃棄する「食品ロス」の元凶になっているとの指摘が出ている。

 消費者庁は恵方巻シーズンを前に、デパートやスーパーなどの食品小売店に対し、予約販売の推進を要請するなど食品ロス削減に向けて取組をしているが、

 「節分の恵方巻はご予約を」の文字を横目に見ながら前日まで過ごし、当日の特設コーナーについつい足を運んでしまっていないだろうか?「今回特別に販売しています!」という売り子の声についついつられてきらびやかなラッピングのチョコレートの箱を抱えてみたり。

「ああ、また流れに乗ってしまった。来年は買わない!」と誓う前に、自分自身がどんな消費をしたいのか改めて考え、未来を変えるチャンスはすぐ目の前にある。

 

「おいしい」と食べているものが、誰かの犠牲の上に成り立っているものだと知ったら?

 

最近までバレンタイン商戦で街を賑わしていたチョコレートはカカオマスを原料に砂糖やココアバターなどを混ぜて練り固めたお菓子。

1粒数十円のものから、デパートなどで1粒数百円で販売されている高級チョコまで、チョコレートといっても幅広い種類がある。最近ではハイカカオチョコレート(カカオの含有量70%以上)が売上を伸ばしており、ルビーカカオやホワイトカカオのような稀少なカカオを使ったチョコレートも販売され、厳選されたカカオ豆の商品も増えている。普段でも棚をにぎわすチョコレートだが、確かに今の時期は特別会場まで設けられていて、2月の月別の支出金額は他の月とは比較にならないほど多くなっている。

 

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ちなみに、大阪府はチョコレート菓子の生産額が日本一ということで、チョコレートに縁のある場所なのだが、チョコレートの原料となるカカオ豆は、赤道から南北15度以内の熱帯地域でしか育たない南国の作物で、基本的には輸入に頼らざるを得ない。

 日本はカカオ豆の生産量世界2位であるガーナから輸入している。ガーナの総輸出の10%を占める主要な産業であるカカオ豆は、家族経営の小規模な農園による生産が中心で、5人に1人の子どもが働かされている。チョコレートが売れても、生産者の収入となるのは3%とわずかであることを知ると一体どこにお金がかかっているのだろうと思う。

 安い労働力として子どもが働かされている一方、「学校に行っても仕方ない」「女の子には教育は必要ない」といった考えが子どもたちを労働現場に送りだしているという側面もある。児童労働がなくなればよいが正当な人件費をかけて作られたチョコは、割高になってしまう。そうすれば、今度は商品が売れなくなるので結局は生産者の生活に影響するし、私たちも気軽にチョコレートを買えなくなってしまう。頭ではよいとわかっていても、実際には、自分の財布にも限界がある。

 

日本の女子高校・大学生たちが児童労働とフェアトレード※について学び、バレンタインデーに、フェアトレードでつくられた本当に「愛」のあるチョコレートを選んでもらいたいというキャンペーンをしたというドキュメンタリー映画「バレンタイン一揆(https://acejapan.org/campaign/15th/index.html)」が2012年に制作されている。これは児童労働の問題に取り組むNPO法人の15周年を記念して作られた作品で、団体は1997年から活動をはじめていた。四半世紀もこの課題に取り組み、市民への啓発活動を続けている団体は、企業での研修や商品開発にも取り組んでいる。

 

チョコレート、砂糖、コットンのTシャツ、コーヒー、たばこ…。

日常的に手にする食べ物や洋服、嗜好品は、私たちの生活に安らぎを与える。しかしその裏側にどんな事実があるのだろうか。誰かを泣かしている商品はなぜ作られるのだろうか?

 

フェアトレード

 

 

社会的な責任を負うのは企業だけ?

 

 商品を作るという点においては、作っている企業の責任が大きいと言えるかもしれない。日本における企業の社会的責任を大きく意識するようになった時期として、1960年代~1970年代にかけての高度経済成長期における公害問題が挙げられる。企業の利益のために自分たちの健康が脅かされたという記憶はもう遠い過去かもしれないが、公害問題解決のために市民は動き、社会を動かし、自分たちを守るルールを作っていった。それでも解決できない課題があり、その解決に向けた取り組みが進められている。

 

企業が作る製品についての責任は企業だけのものではない。経済原理の基本は、需要と供給であり、私たちの行動が影響していることは否めない。消費者として「同じ品質ならば1円でも安い商品がほしい」という心理は、当たり前のものだとは思うが、「安さ」の裏側には企業のコスト削減競争があり、その先に貧しい生産国の子どもたちがいるという現実もあることを知っておく必要がある。食品を買う際には、見た目や味だけでなく、その製造過程にも是非注目してほしい。洋服を買うときも、同じことが言える。

 

誰も取り残さない社会は誰かの努力ではなく、あなたの努力が「愛」のある選択になるということを、今一度自分に問うてみてはどうだろう。

 

市民ライター 堀 久仁子

 

【参考】

全国菓子工業組合連合会(全菓連)http://www.zenkaren.net/_0700/_0707

チョコレート

チョコレート菓子の生産額の都道府県ランキング(平成29年)https://region-case.com/rank-h29-product-chocolate-snack/

JICA (https://www.jica.go.jp/topics/2019/20200212_01.html

JICA(https://www.jica.go.jp/publication/mundi/202003/202003_09.html

カカオマス生産量(https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/cacao.html