社会課題と市民活動内容
はじめに
コロナ禍により暮らしが変化するなか、私たちの購買行動が大きく変わりました。ネットショッピングなどのEC(Eコマース)化が進む一方で、地元での買い物の機会も増えています。本稿では、統計資料から加速するEC化の現状と今後に起こりうる課題を予想します。いっぽうで都会であっても買い物難民が増えており、地域商店の必要性が見直されています。コロナ禍で分断された、「対面での人や社会とのつながりのある暮らし方」を提案する「バイローカル(=地元で買い物をしよう)活動」へのインタビューを通じて、生活者が主体的につくる地域商店のある暮らしについて2回にわたり考察します。
コロナ禍における消費行動や意識の変化
2020年以降の2年にわたるコロナ禍による行動制限は、私たちの消費の行動や意識に大きな影響を与えました。
景気動向判断の基礎資料を得るため、内閣府が毎月消費動向調査をおこなっています。以下のグラフ「消費者態度指数」(消費者マインドという用語で語られることもある)は、消費者の今後6ヶ月間の消費動向の見通しを表しています。このグラフをみると、コロナ禍の消費者マインドは、リーマンショックや東日本大震災の時期と比較されるほど落ち込みましたが、感染症拡大の波に影響されながらも、徐々に回復してきたことがわかります。
本稿の前半では、消費者マインドが回復傾向のなか、小売業がどのような業態、業種で消費を伸ばしたかを、インターネットショッピング(EC)と実店舗の利用率の統計資料から概観し、消費者の購買パターンの主な変化をみていきます。さらに統計から、自宅に近い店舗の利用率をみていきます。また近年、取り上げられている買い物難民の問題と、EC化の影響について考えます。
消費者動向全般について
1.ネットショッピング(EC)の現状
経済産業省統計の資料によれば、2020年5月以降、二人以上の世帯でネットショッピングを利用している世帯は、50%を超えた状況が続いています。
また同省は、コロナ禍の収束後も、EC化は継続するとみています。その理由として、ネットショッピングで購入されるモノやサービスの内容が、コロナ前後で変化していることをあげています。コロナ前にECで主流だった旅行サービス(交通機関や宿泊の予約販売)やチケット・サービス(コンサートや集会等のチケット販売)が36.05%減となり、コロナ後は、食品、衣料品、衛生用品、家電、家具などの物販の購入に内容が入れ替わり、かつ利用率全体が上昇しているからです。今後、コロナ禍の収束に伴い移動制限が解除されると、物販に加えて、観光やチケットサービスの利用率が回復するため、EC利用率はさらに伸びると考えられています。
このようにコロナ禍で拡大した物販のEC市場について、市場規模の伸び率をみてみましょう。
2020年のデータですが、市場規模は前年比8.08%増の12 兆 2,333 億円で、伸長率は21.71%でした。
また、ECを利用している人たちは、年代によって偏りがあると思われるため、2018年から2020年の3年間のデータで、ECの年代別利用率の推移から今後の傾向についても予想します。
2018年以降のインターネットを利用した支出について、世帯主の年齢層別にみると、20歳代以下から70歳代以上まで、幅広い年齢層で支出総額が増加しており、特に、30歳代を中心に20~50歳代が多く利用しています。今後の傾向としては、インターネットに慣れている年代が増加するため、次第に年代間の差が減少し、ECの利用率が一定の水準で維持されると予想されます。
2.実店舗での小売販売業の実績にみる消費動向
いっぽう、実店舗での小売販売業は、商業動態統計調査によると、業態別に見た場合、それぞれの特性により異なる傾向が見られます。経済産業省の「商業動態統計調査」の結果から、小売業に関する業態別(百貨店・スーパー、コンビニエンスストア、家電大型専門店、ドラッグストア及びホームセンター)の差異をみてみましょう。
感染症の拡大状況や時期に応じて、休業要請などの影響を受けた百貨店は大きくマイナスに、家電大型専門店はプラスとマイナスに大きな振れ幅で、コンビニエンスストアは弁当類の売上げ減でややマイナスに影響を受けました。比較的影響を受けにくい業態は生活必需品を販売するスーパー、ドラッグストア、ホームセンターであったといえます。
3.地元で買い物をする比率の増加
つぎに、中小企業庁が引用した国土交通省の資料から、コロナ前後における外出先の変化をみてみましょう。これによると、「趣味や娯楽」、「外食」、「休養や育児」のコト消費だけでなく、「食料品・日用品の買い物」や「食料品・日用品以外の買い物」のモノ消費も、そのための外出先が、「自宅周辺」が増え、「自宅から離れた都心・中心市街地」が減少していることが、統計資料で数値化されて、明確になりました。
以上の統計資料から、コロナ禍によって、消費者の行動パターンの変化として、二人以上の世帯の50%以上がインターネットショッピングを利用し、EC化は今後も進むことが予想されることと、自宅周辺のスーパー、ドラッグストア、ホームセンターで食料品や日用品を買い物するだけでなく、その他の買い物や趣味、娯楽、外食なども自宅周辺で行うことが増えたということが明らかになりました。
4.ECの市場拡大が小売業と社会へもたらす影響
今後、EC市場が拡大すると、小売業にどのような変化がおこるのでしょうか。2013年の株式会社フィデア情報総研の資料「Eコマース市場の拡大と小売業への影響」には、次のような記述がありました。
「人口減少と低い経済成長率を前提とすれば、今後の国内小売市場規模が大きく拡大する可能性は低いと思われます。仮に、国内小売市場規模が横ばいで推移するとした場合、マクロ的な視点からみれば、Eコマース市場の拡大は、リアル店舗の売り上げ減少に直結する」と断言していました。
それから7,8年後の現在、地域商店の廃業は買い物難民の増加という新たな現象となり社会課題化しています。農林水産省のホームページの2021年の資料によれば「我が国では、高齢化や単身世帯の増加、地元小売業の廃業、既存商店街の衰退等により、過疎地域のみならず都市部においても、高齢者等を中心に食料品の購入や飲食に不便や苦労を感じる方(いわゆる「買い物難民」、「買い物弱者」、「買い物困難者」)が増えてきており、「食料品アクセス問題」として社会的な課題になっています」とあります。
同省は、「食料品アクセス問題」に関する調査をおこない、「近年、食料品店の減少等に伴い、過疎地域のみならず都市部においても、高齢者を中心に食料品の購入に困難を感じる消費者が増えてきており、食料品の円滑な供給に支障が生じる等の「食料品アクセス問題」が顕在化」しているとし、とくに生活基盤を揺るがす食料品の買い物難民問題を重視しています。
EC化の加速が、少なからず地元商店の存続を脅かす傾向にあるため、今後、ますます買い物難民を増やさないためにも、地域商店の在り方について事業者と生活者がともに考えていく必要があるのではないでしょうか。(次週へつづく)
取材・記事作成:市民ライター 林 真理
【参考文献・資料】
・「消費動向調査(令和3(2021)年 11 月実施分) 調査結果の要点」経済産業省P.2 https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/youten.pdf
・「家計消費状況調査ネットショッピングの状況について(二人以上の世帯)(2021年12月7日)」経済産業省統計
https://www.stat.go.jp/data/joukyou/pdf/n_joukyo.pdf
・『令和2年度 産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書』
令和3年7月 経済産業省 商務情報政策局 情報経済課
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/210730_new_hokokusho.pdf
・「消費動向に見る、withコロナのトレンド」経済産業省
https://www.meti.go.jp/statistics/pr/rikatuyou_20210219/rikatuyou_20210219.html
・「感染症流行による消費者の意識・行動の変化」『企業白書』2021年版 中小企業庁 第2部 第1章 第3節
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/shokibo/b2_1_3.html
・「Eコマース市場の拡大と小売業への影響」藤井康雄『Future SIGHT』62号 2013 株式会社フィデア情報総研
https://www.fir.co.jp/fs_bk/201310/28-31.pdf
・「食料品アクセス(買い物弱者・買い物難民等)問題ポータルサイト」農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/eat/syoku_akusesu.html
・「「食料品アクセス問題」に関する全国市町村アンケート調査結果」農林水産省 食料産業局 食品流通課 令和3年3月
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/eat/pdf/r2kaimonokonnan.pdf
・農林水産政策研究所
https://www.maff.go.jp/primaff/seika/fsc/faccess/a_map.html
・「ウイズコロナ・ポストコロナでの持続可能でレジリエントな地域づくりについて」
環境省 2020年