社会課題と市民活動内容

 コロナ禍で「地元」への関心が高まっていることは、前回のデータ考察から、読み取れました。そこで今回は、2013年から大阪市内の一地域(阿倍野区南部から東住吉区西部)で「昭和なまちのバイローカル」というキャッチフレーズで取り組まれている市民活動「バイローカル」への取材を通して、市内外や他府県でも活動が始まっている「バイローカル」という消費行動と地域のあり方について考察していきます。

 

地元での買い物が地域を救う!?

 

「昭和なまちのバイローカル」とは

 

 本稿後半は、コロナ禍で行動が制限された影響もあり地元への関心が高まるなか、大阪市内外や他府県からも注目され、「Think Local」という考えのもとに勧められていた「バイローカル(地元で買い物をしよう)」という買物行動と地域のあり方について考察します。

 大阪市内の一地域(阿倍野区南部から東住吉区西部)に「昭和なまちのバイローカル」というキャッチコピーで2013年から取り組まれている市民活動があります。活動地域はOsaka Metro御堂筋線の昭和町駅から西田辺駅の沿線にあたる地域。西側はあべの筋界隈を含み、東側はJR阪和線界隈。阪和線の最寄り駅は南田辺駅となり、線路を挟んで西側が阿倍野区、東側が東住吉区となります。年1回開催されるマーケット「バイローカルの日」は、両区が隣接した阿倍野区側に位置する長池公園が会場となります。2つの行政区をまたいだ1~2万人ほどの居住範囲で、徒歩や自転車で往来できる生活圏を対象としています。

 

 

おもな活動はマーケットを開催して、マップつきの店舗紹介のパンフレットを会場で配布したり、ホームページやフェイスブックなどのSNS上でお店を紹介してお店を知ってもらい、「日常的に」お店を利用してもらうように促すことでよりよい地域づくりにつなげるというのが、この市民活動の特徴となっています。

 バイローカルの市民活動は10名のビーローカル・パートナーズと呼ばれる地域住民の有志によって行われており、その一人、山本英夫さんにインタビューを行いました。山本さんは、阿倍野区昭和町在住、まちづくりのお仕事が専門で普段はなんばの戎橋筋商店街の事務局に勤務、大阪府立大学観光産業戦略研究所では集客交流の実践研究をされています。

 「バイローカル」の活動を始めたきっかけは、阿倍野区昭和町で恒例になっていた地元の祭りの一企画を考えるにあたり、一人の有志がアメリカのまちづくりの事例を紹介したことによるといいます。昭和町の祭りの中で特徴ある企画を模索する中で、米国コロラド州発祥の取組みに共感、参考にして、「地元の店舗に出店してもらい、地元の人が地元のお店を知ってもらうマーケットをしよう」と考えたそうです。

 

 

 ちなみに「昭和なまちのバイローカル」のキャッチコピーは、「昭和」と「バイローカル」の組み合わせが、ノスタルジックさと行動を端的に表わし、心に響く語感があります。キャッチコピーが、人々を惹きつけ、商店街を活性化しまちづくりを後押しする例が他にもあるので紹介しますと、天神橋筋商店街が来客数の減少への打開策として「日本一長い商店街」のキャッチコピーを付けたことで、来客数が回復したと言われています。

 「昭和なまちのバイローカル」は、7年前に地元の生活者に身近な良きお店を知ってもらおうという目的で始まった活動ですが、コロナ禍をきっかけに、地域外から「バイローカル」について取材や問合せが増えているといいます。

 

これはコロナ禍によって見直される地元志向のあらわれのひとつと思われます。そして、「バイローカル」の手法が、和歌山県有田市などの他地域でも地域の活性化に使用されるなど、バイローカルという考え方の浸透とともに活動のモデル化がすすんでいる、とみることもできるのではないでしょうか。

 

 

 

 

地元のお店紹介で地域の魅力再認識

 

 2021年にビーローカル・パートナーズが発行したパンフレット「昭和なまちのBuy Local」(副題「このまちの素敵な111店舗を紹介するマップ」)で参加店舗をみてみましょう。111店舗の内訳は、「食の専門店」が33店舗、「飲食店」が27店舗、「カフェ・バー」が18店舗、「暮らしの物販」が18店舗、「工房・コミュニティスペース」が15店舗。40店舗が活動開始以降に新規開業しているとのことで、地域が活性化している証しといえます。「食の専門店」では、明治14年創業の餅屋やお茶屋、米屋、和菓子屋、鰹節屋、魚屋、肉屋、八百屋、酒屋、ワイナリーなど、大型店とは違い、古くから商いをしている店舗が多く、豊富な知識や経験をもっています。新規店のベーカリーやスイーツ、珈琲専門店は、国産原料や独自の製法や技術にこだわりを持っています。「飲食店」、「カフェ・バー」なども美味しさはもちろん、地産地消や安心安全をコンセプトにもち、なかには店自体を大正時代の長屋を改装するなどして、街並みを活かした店づくりを行う店舗もあります。「工房・コミュニティスペース」は、生活者にとって居心地の良い場所を提供し、本屋が5店舗も増え、10代の若者の居場所づくりをしている古書店ができました。

 山本さんによると、「バイローカルの役割は、身近な暮らしのそばにある小さなお店や事業所が、暮らしを豊かに多彩にしてくれていることに気づくこと」だといいます。また、地域で買い物をする人々のことを「消費者」ではなく「生活者」という言葉で表現するなど、バイローカル活動は、単なる購買行動ではなく、人や地域とのつながりを大切にする買い物や暮らし方として理解され、活動していることがわかりました。

 

 

 これらの個性のあるお店が生活圏内に点在しており、バイローカルのエリアを徒歩や自転車で行き来することができる距離に絞っているのも生活者目線のポイントです。既存の商店街には一部閉店した店舗もあります。シャッター率が高くなると商店街全体の印象が下がるため、営業している店舗まで客足が遠のく傾向がありますが、商店街という商環境にとらわれず生活圏内でバイローカルという新たな視点で店舗ごとにクローズアップすることは、地域の人が地元商店を再認識するのに、よい機会になっているにちがいありません。

 

 2020年のコロナ禍以降は、店舗のコロナ対策やテイクアウトの情報を、ホームページ上などで生活者に提供し、感染対策に協力的な店舗の応援と、生活者の安全の両立を図ったということです。限定だからこそ、住民が求める情報をタイムリーに届けられ、予期せぬ事態への対応ができる(災害対応力)ことも証明されたのではないかと感じました。

 

バイローカル活動の目的とアンケート結果にみる活動の成果

 

 活動開始から7年目の2020年8月、バイローカル運動の活動の成果について、バイローカル参加店と生活者にアンケートが行われました。どのような結果が得られたのでしょうか。活動グループが掲げているバイローカル活動の目的と、アンケート結果をみてみましょう。

 活動グループがかかげている昭和なまちのバイローカルの目的は以下のとおりです。

「地域の商いを私たち生活者が知ることから始まります。それらのお店を積極的に継続的に使うことで、良い商いが残り、新たに良き商いが起こります。昔ながらのお店は地域に伝統や品格を与え、新しく生まれたお店は新しい風を吹き込みます。地域に根ざす商いは、食の安全や安心、地域の助け合い、子育てや教育、地域経済や働く場、古い建物の再利用など、直接、間接に地域に。私たちの生活を魅力的なものにし、暮らしの質が高まることで、住みたい住み続けたいと思うまちになります。私たちの地域の価値を維持向上させるという信念のもとバイローカルムーブメントに取り組んでいます」。

 そして参加店へのアンケート結果(回答数26店)は以下の通りでした。

 これまでのバイローカルへの参加状況は、30.8%の店が「日常的に参加」、51.5%が「たまに参加」と回答しました。「バイローカル参加の効果」については、42.3%が「認知度アップ」、23.1%が「新規客の増加」、15.4%が「お店どうしのつながり」と回答しました。生活者に「バイローカルで暮らしの質が高まったり、まちの魅力が増したと感じますか」に、89%が「感じる」と回答しました。

 この結果をうけて山本さんは、「89%もの多くの人が暮らしの質が高まり、まちの魅力が増したと感じると回答したことにとても驚き、喜んでいる」とバイローカルの活動目的がしっかり成果となって現れていることを実感しています。

 

バイローカルは「通学路の見守り」と同じ、地域愛着を醸成させる行動 

 

 山本さんへのインタビューで、という印象的な言葉がありました。

 通学路の見守りは、地域社会に根ざした生活行動のひとつとして住民にとって大切なことです。これと同様に、地元の良き店を知り買い物をすることは、住民にとって地域社会に根ざした大切な行動といえるのです。

 

 まちづくりの専門家によれば、「地域愛着」の度合いは、「選好」(せんこう)、「感情」、「持続願望」の3段階があるといいます。個人的な嗜好の観点から地域を評価する地域愛着の「選好」は比較的短期に醸成される一方で、当該地域を大切に思い、愛着を感じ、住み続けたいと感じるという地域愛着の「感情」や、当該地域に変わってほしくないものがある、なくなると悲しいものがある地域愛着の「持続願望」は、選好の程度の影響を受けつつ、比較的長期に熟成されるというのです。

(※参考論文「「消費行動」が「地域愛着」に及ぼす影響に関する研究」鈴木春奈・他)

 地域にとって「バイローカル活動」は「通学路の見守り」と同様に重要なため、それらの行動によって人々は地域への愛着の「感情」を育くみ、なくなると悲しむ「持続願望」を抱くでしょう。今回のアンケート結果がそれを示唆し、7年間の活動の蓄積は、地域への愛着が醸成されるのに十分かつ必要な年月だったかもしれません。

 

まとめとして

 

 本稿前半の利便性を追求したEC化の購買パターンと、後半の生活者と店舗が協働して時間をかけてつくりあげるバイローカル活動は、目的、手段、費やす時間、人や社会とのつながり度合いが非常に対照的といえます。そして今後、多くの人が、これらの両極の選択肢を求めていくことが予想されます。

 ポストコロナ、ウィズコロナの時代において、地域商店の在り方を考えるとき、買い物難民を減らし、生活者が地域に愛着を深めるきっかけをつくるまちのバイローカルのような草の根運動は、地域に活力やしなやかさを与える大きな力になるのではないでしょうか。

取材・記事作成:市民ライター 林 真理

 

参考文献・資料

・「昭和なまちのバイローカル」のホームページ https://buylocal.jp/

・「「消費行動」が「地域愛着」に及ぼす影響に関する研究」鈴木春奈、藤井聡 土木学会論文集D Vo.64 No.2, 190-200, 2008.4

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejd/64/2/64_2_190/_pdf

・『商店街はいま必要なのか 「日本型流通」の近現代史』満薗勇2015 講談社

・「地域コミュニティーが見直される」姜尚中 日本経済新聞電子版 2020年4月20日