社会課題と市民活動内容
ニュースなどで「ヤングケアラー」という言葉を耳にすることが増えてきました。「ヤングケアラー」の法的な定義はありませんが、一般的には、「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っているこどものこと」とされています。
近年行われた全国調査では、小学生にもヤングケアラーがいることがわかり、家族のケアが、子どもたちの健康面や学校生活、日常生活に影響を及ぼしていると指摘されています。令和4(2022)年3 月には、厚生労働省は「ヤングケアラー支援体制強化事業実施要綱」を示しました。また、各地で相談窓口の設置など支援が始まっています。
ヤングケアラーとはどのような子どもたちなのでしょうか? また、どのような支援が求められているのでしょうか? 実態調査や活動事例から考えてみます。
大阪市の中学生の9.1%が家族をケアしている
令和4(2022)年7月、「大阪市立中学校生徒を対象としたヤングケアラー実態調査報告書(※1)」が公開されました。
報告書によると、「ケアを要する家族がいる、自分がその人のケアを担っている」と回答したヤングケアラーは大阪市内の中学生の9.1%いることがわかりました。大阪市内で、4,500人強の中学生が家族のケアやお手伝いをしていると見込まれます。ケアが必要な家族は、高齢や認知症などの祖父母、幼いため世話が必要である、もしくは障がいのあるきょうだい、病気や障がいのある父母などです。
調査では、ケアの対象となる家族には精神疾患や精神障がい、日本語が苦手な外国人ルーツ、アルコールなど依存症の親も含まれていることがわかりました。それらは単なる家事のお手伝いとは違うもので、話し相手、見守りだけでなく「きつい言葉や怒りを受け止める」など、緊張感を伴う「感情面のサポート」が伴います。
このようなヤングケアラーの日常は、ふだんの生活や健康に影響しており、ケアをしている者の方が睡眠時間が短く、また、ケアの時間が長いほど、学校を欠席する、遅刻が増えるなど、顕著な影響が出ていることがわかりました。また、「ケアをしていることを家族以外の誰にも話していない」の回答が6割にのぼりました。
昨年4月、大阪府は初めて小学生を対象に調査を行いました。報告によると、大阪府の公立小学校の5・6年生14万人の約2割が「きょうだいの世話をしている」と回答し、きょうだいの世話や家事をすることに「とても疲れている」と答えた割合は3割を超えています。
地域ぐるみの連携から始まった西成区ヤングケアラープロジェクト
西成区では、わが町にしなり子育てネット(※2)が、西成区ヤングケアラープロジェクトを立ち上げ、支援態勢を整えるための調査が始まっています。「保護者が社会の中で生きにくさを抱え、その保護者を助けるためにヤングケアラーとして生活を支えている子どもたちは中学生だけでなく、もっと幼い頃から家事やきょうだいの面倒を見る環境に関わっているのではないか」
地元の保育園や子どもの施設の職員、区役所、研究者、民生委員などが話し合いを重ね、元ケアラーの聞き取り調査をはじめ、学童保育や子ども食堂職員、主任児童委員への第一期アンケート調査を行い、地域でできる支援を考えようとさまざまな活動に取り組んできました(2021年度)。
調査の結果、「小学生以上の子どもたちよりは少ないかもしれないが、就学前の子どもの中にも、精神疾患の母親のケアや年下のきょうだいの世話など、家族のケアを担っている子どもたちがいる」ことがわかりました。
2023年2月からは第二期調査として、現在、西成区の16小中学校の教員にアンケートを実施しています(2022年度)。プロジェクトチームでは、これらの内容を「白書」にまとめ、今後への提言をしていく予定です。
ヤングケアラーがつながる居場所をつくる、ふうせんの会
家族のケアを担っている子ども・若者や、元ヤングケアラー、ヤングケアラーに関わる専門職が集まって2019年から活動を始めたのが、NPO法人ふうせんの会(※3)です。
ふうせんの会は、ヤングケアラーが安心して交流できる場をつくるため、経験を共有する場や、語り合う「つどい」を定期的に開催しています。あわせて、中高生に限定したサロンなど、オンラインでの交流の場もつくっています。
「つどい」は、現役・元ヤングケアラーが中心になって運営されています。参加者から「はじめてケアのことを人に話せた」「一人ではないと思えた」という声があるなど、仲間とつながり、お互いの経験から学べる場になっています。
ヤングケアラーが語り合う「つどい」の様子
身近な存在であるヤングケアラーを孤立させない支援を
大阪市ヤングケアラー支援に向けたプロジェクトチーム(区役所、福祉局、健康局、こども青少年局及び教育委員会事務局)では、「ヤングケアラーの家庭に無料で支援員を派遣し、食事の準備やきょうだいの送り迎えなどをサポートする」など、ヤングケアラーの支援に向けて、今後の支援のあり方や対策が検討されています(※4)。
大阪市のプロジェクトチームのアドバイザーで、大阪市の調査、西成区の調査にも関わったふうせんの会代表理事の濱島淑恵さん(大阪歯科大学教授)に、調査によって明らかになってきたヤングケアラーの存在や課題をふまえた支援についてお聴きしました。
「実態調査が進み、ヤングケアラーは本当に身近な存在だということがわかってきました。子育てや親の介護など、実は誰もが一生の中でケアラーになることがあります。ただ、ヤングケアラーの場合、同じような立場の子どもと交流する場がなく、周囲の理解も乏しく、孤立しがちです。また、勉強や友達付合いなど、成長に必要な経験を積めないことも少なくなく、人生に与える影響は大きいと言えます。
西成区のように民間と行政が手を組み、地域ぐるみでヤングケアラーを支援しようとする動き、ふうせんの会のように孤立しがちなヤングケアラーが安心できる場を作ろうとする動きは、日本全国をみてもまだまだ稀有と言えます。大阪発信でヤングケアラー支援が広がっていくと素晴らしいですね」
シミポタ事務局
※1「大阪市立中学校生徒を対象としたヤングケアラー実態調査報告書」
大阪市内の全市立中学を対象に行われ、調査対象51,912名の87.2%にあたる45,268名が回答。https://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/cmsfiles/contents/0000550/550590/4houkokusyo.pdf
※2 わが町にしなり子育てネット
「いつでも どこでも みんなで 子育て」を合言葉に2000年発足。安心して子育てができる地域つくりをめざして、子育てサークルや保育所・園、施設、行政、病院、地域のボランティアなど約70の団体がつながるネットワーク。
https://nishinari-kosodatenet.com/
※3 ふうせんの会
https://ycballoon.org/index.html
※4 大阪市「ヤングケアラー支援について」