社会課題と市民活動内容
「団体を立ち上げた頃の中心メンバーは高齢化し、活動の継続が難しくなった」「社会情勢が変化し、この先、事業を続けることができない」
さまざまな理由から、特定非営利活動法人(以下NPO法人)が解散しています。意欲に満ちて活動を始める時、団体を設立する時は、どこで活動を終わりにするか、どのように組織を閉じるかについて考えることは少ないかもしれません。
NPO法人の3割以上は解散している
大阪市のNPO法人数の推移はグラフの通りで、2016年をピークに法人数は減少しています。2022年12月末現在、NPO法人数は1,399です。
一方で2022年は57、多い年には100を超えるNPO法人が解散しており、2022年末までに解散したNPO法人数は822。大阪市で設立されたNPO法人の37%は解散したことになります。
NPO法第31条は、NPO法人の解散事由を定めています。大阪市のNPO法人の解散事由の内訳をみると、「社員総会の決議」570、「設立の認証の取消し」244の他、「目的とする特定非営利活動に係る事業の成功の不能」2、「社員の欠亡」1、「合併」2、「破産手続開始の決定」3となっています。
このような傾向は全国でみてもおおむね同様です。2022年末までに設立、認証されたNPO法人数は74,026、解散した法人数は23,542で、約32%は解散したことになります。その多くは社員総会の決議によって解散しています。
体力がないと、解散もできなくなる
活動をどのようにバトンタッチすればよいかなど、NPOの運営相談を受ける中間支援組織では、「解散できる体力があるうちに検討した方がよい」とアドバイスをするケースもあります。
法人を解散するにも費用がかかるだけでなく、法的な手続きや事務作業も必要なため、資金も含めて、組織の体力があるうちに組織の閉じ方を検討しておかないと、「解散もできない」ことになってしまうからです。
このような中、2022年11月、NPO会計支援センターから「NPO法人の解散手続きマニュアル」が刊行されました。同マニュアルは、NPO法人の解散についての基本的な説明、解散手続きの実際、ケーススタディ、Q&A(よくある質問と回答)で構成されています。実際に手続きを進めるNPOや相談窓口の支援者が実務に使える手引となる、詳しい解説書です。
マニュアルの編集に携わったNPO会計支援センターの村上義弘さんに、解散の現状や、発刊の思いをお聞きしました。
–このような解散マニュアルをつくることになったきっかけを教えてください。
NPO法の制定後めざましく増え続けたNPO法人の設立数も、近年は伸びが鈍化する中、通算で約3割が解散し、合計法人数が減少する傾向にあります。一方、体力が弱った法人が解散を考えても、専門知識の不足などにより自力での解散が難しいのが現実です。
解散志向の法人に、素人でも使える手引書が必要! そう考えて、全国初のマニュアル作りに取り組みました。自治体のウェブサイトなどで公開されている「NPO法人の運営の手引」等にも「解散」について書かれていますが、解散は必要手続が多種多様であり、所轄庁以外に法務局などの手続きもあるため、ボリューム的に網羅するのはなかなか難しいのが実情かと思われます。そこをカバーしたいという使命感もありました。
マニュアルは、法人運営の相談現場で経験した多くの事例をもとに、各地のNPO法人相談窓口からも意見を寄せてもらい、かゆいところに手が届くものになったと思います。
—中間支援組織仲間の協力もあったのですね。
マニュアルは実務に即した手引書として使っていただく他、中間支援組織や所轄庁の窓口で相談にあたる皆さんにも活用していただけるよう、巻末に「Q&A」をつけました。このQは、各地でNPOを支援しておられる中間支援組織の皆さんに、「よくある質問」を出していただいてまとめたものです。負債がある、役員がいないなど、「こんな時どうする?」というQを48項目にまとめて解説しています。
—長年NPOの運営相談を受けてこられたご経験から、NPO法人解散の相談が、実際にはどのようなものか、教えてくださいますか。
NPO法施行から20年以上が経ちました。スタート時点ではやる気満々だった団体も、やりがいや活動の楽しさを長年維持することは難しいものです。解散を考えるNPOは、役員や主要メンバーが高齢化した、活動資金が足りない、仕事とは別に活動を頑張っていたが時間が取れなくなってきたなど、法人として活動を継続する意欲が続かなくなったというケースが大半です。
中には、メンバー(会員)が誰なのかわからない、決算、役員改選、総会開催等の手続きがいいかげんになっているなど、NPO法人として必要な事務ができておらず、どうしてよいかわからないという団体もあります。
—法人として解散を決断する他に、どのような選択肢がありますか。
NPO法人として活動を続けるのが難しくなった場合、法人を解散して任意団体として活動を継続しているケースもあります。これまで相談を受けた中の3割くらいは、何らかのかたちで活動を続けておられます。
その他、他の友誼団体に法人格を譲り渡し、定款の変更などをしてリスタートに成功しているケースや、法人はそのままにしながら、活動に共鳴する企業に運営を委ねているようなケースもあります。
解散するという選択をした場合でも、ただ法人を閉じれば良い、というのは残念なことです。支援者の皆さんは、志をもってやってきた目的や成果を無に帰することのないよう、できれば地域に引き継いでいくようなアドバイスをしてほしいと思います。
(取材を終えて)
NPO法の施行後、社団法人などの公益法人制度改革も行われ、市民活動団体が選択できる法人格の種類は増えています。また、2022年10月の労働者協同組合法施行に伴い、NPO法人から労働者協同組合への組織変更が可能になりました。
この活動で何を解決したいのか? ビジョンを明確にし、活動や事業にあった組織運営を意識したいものです。
シミポタ事務局
NPO会計支援センター