社会課題と市民活動内容
新型コロナウィルス感染拡大で、多大な「環境変化」を受け入れてきた「子どもたち」
そんな中でも、学校の教育活動で「ゲームは悪か?」という社会的な風潮と「ゲームを学校現場で導入する価値」を見いだすプロジェクトを大阪市立新巽中学校が実践した。
「子どもたち+現場の教師」の挑戦はどんな課題を掘り起こしたのか?
是非、お読みください。
学校で育む力って?
突然ですが質問です!
「みなさんは学生の時、ドッジボール大会をやったり、計画した経験はありますか?」
おそらく多くの人が一度ぐらいは体育の授業や、担任の先生から提案されてやった経験があるのではないでしょうか?
学校の先生に同じ質問をしても多くの人が実施しているそうです。
それでは次の質問です。
「ドッジボール大会を学校でやる『目的』って何だと思いますか?」
想像できたでしょうか?
これもおそらく多くの人が「楽しむため」「スポーツが好きだから」といった意見もあれば「本当は苦手なんだけど」や「クラス行事だし付き合いあるから」などの意見も出てきたのではないでしょうか?
実際に学校の先生たちにそのねらいを聞いてみると、こんな答えが返ってきました。
スポーツを通じて、
協調性や貢献しようとする姿を育む。
や、粘り強く取り組む力や運営するための計画力、
調整力、困難が起こった時に自己の感情をコントロールする力
などが育つことを願って取り組まれているそうです。
色んな場で全国の先生に聞いてみましたが、「ドッジボールの競技力を向上させるため」といった答えは今のところ出たことがありません。笑
他にも運動会や文化発表会など、学校では伝統的にさまざまな行事が実施されていますが、ドッジボール大会からもわかるように、これらは決してスポーツが得意な子どもたちだけが輝く場や、表現が得意な子どもたちだけが輝く場として用意されているわけではないということです。
スポーツが苦手でも実況やBGMで場を盛り上げたり、照明や音響で場を演出したり、タイムマネジメントや進行で貢献したりと、多様な役割で行事に貢献することができ、その行事を通じて前述したような力を広く子どもたちが伸ばせる場をつくるために、行事を行う目的があります。
今、注目されている非認知能力
学校では、ペーパーテストで測ることのできる認知能力を育むことだけが目的ではなく、テストでは測ることのできないけど大切な力、非認知能力を育むことも大切な学びの1つになっています。
非認知能力とは、自己と向き合う力、自己を高める力、他者と関わる力の3つに整理されると岡山大学中山芳一准教授が提唱しています。簡単にいうと、困難な場面でも粘り強く自己と向き合ったり、好奇心を持って新しいことにチャレンジしたり、自己を高めつつも、他者と居心地の良い場をつくったりする力のことです。レジリエンスやグリッド、アンラーニングなど、ビジネスシーンでもこれらの力を深堀りしたような言葉は広がっています。先ほどのドッジボール大会を通じて育みたい力ともリンクします。2030年に向けて注目されているwell-beingにも直結する力といえるでしょう。
また、人の多様性(ダイバーシティ)への理解も深まり、多様な人たちと立場や性別、国籍といった違いを認め合い、インクルージョンな社会を整えることについても非常に大切な時期にきています。
e-Sportsって究極の多様性だ!
そんな視点に立ったときに「e-Sportsには無限の可能性がある!」と感じませんか?
e-Sportsでは、フィジカルの壁がなくなるので性別や年齢に関係なく競い合うことができるし、スポーツと同様、言葉の壁を越えたコミュニケーションが取れる可能性もあります。ゲームそのものにも協力する場面や粘り強く取り組む場面が設計されているので、貢献しようとする姿や達成感を得ることもできるし、情報活用能力、集中力、言語を育む場面も生まれます。
また、e-Sports大会は、選手だけでなく、運営面でも多くの力が必要です。運動会や文化発表会にある進行・実況・音響・照明・時間管理といった役割に加え、機器の整備や配信などが増える分、もっと役割は細分化されます。そして、大会の盛り上げ方も運動会や文化発表会とまた少し毛色が違うので、新たな表現が必要な場面も出てくるでしょう。
そして、何より「学校でゲームをする」という常識を問い直すことができます。「ゲームは悪いもの」なんとなくそんな風潮が大人世代にはありませんか?「勉強に関係ない」や「頭が悪くなる」とおうちの人に言われた経験がある人も多いのではないでしょうか。
言葉は使い方を間違えれば人を傷つけたり、人の命を奪うものにもなり得ますが、正しく使えば、人生を豊かにするものです。ゲームだって言葉と同じで、使い方さえ考えたら成長につながり、人生を豊かにするものになるはずです。そうした捉え方変換ができれば、「勉強に関係がないから」という根拠のない理由で自分が好きになったモノが否定されたり、肩身の狭い思いをする必要はなくなるでしょう。むしろ、今までの教育の現場になかったマンガ、アニメ、SNS、動画などあらゆるサブカルチャーとされるコンテンツにも教育の可能性が広がり、異能が輝く社会を推進できるものになる。多様性を認め合うために必要な心の持ちようを育むことができる。そんな無限の可能性がe-Sports×教育には秘められています。
それを実証するべく、大阪市立新巽中学校は2020~2023年の3年間で4度のe-Sportsイベントを実施しました。「ゲームは悪か?」に対する問いを文科省や経産省に発信したり、「ゲームは文化の壁を越えるのか?」という問いを生野区役所や韓国大阪青年会議所といった地域の方々と世代を越えて実証したり、「ゲームは見えない力を育むのか?」という問いで、泉佐野市立新池中学校とオンラインで共同実施したり、ついには南海電鉄から「e-Sports施設が公園のような居場所となるよう利用方法を提案してほしい」という依頼を受け、校外学習(遠足)という教育活動の一環としてeスタジアム泉佐野にてe-Sports大会を自ら運営するというものまで行っています。
このような多様な問いや課題に、新巽中学校として3つの学年にわたり、それぞれチャレンジしました。そのどれもが子どもたちのやってみようを促し、たくさんの子どもたちが多様な役割の中で自身の責任を全うする姿を見ることができました。
「今までの教育」に前例がないものだからこそ、チャレンジする価値はありましたし、人がつくるものなのだから、使い方さえ間違えなければ人生を豊かにするものになる。そういった感覚を持つことができました。子どもたちと共に未知なるものへ一歩踏み出し、教育の明日をつくる実践は、社会の明日にもつながるものだという確かな手応えを持つことができました。子どもたちの実践は社会をより良くできると信じています。
文:大阪市教育委員会事務局 教育センター教育振興担当 山本昌平