社会課題と市民活動内容

ここ数年、「生きづらさ」という言葉が、社会の中で色々な形として使われることが多くなりました。

令和4年の意識調査をみると、多くの時間を過ごす「学校」や「職場」が、自分の居場所になっていると思わないと感じる人が4割近くいます。また、同じく4割近くの人が、孤独を感じることがあると回答しています。様々な理由から居場所を失って、「生きづらさ」を感じている人が多いことが社会課題となっています。

 

 

 

この「生きづらさ」に対して、世代を超えた小さな居場所作りに取組んでいる、「くつろぎステーションつばさ(以下、つばさ)」の取組みを寄稿していただきました。

 

「生きづらさ」とは

 

生きづらさという概念は、大きく「他人軸」から捉えるものと「自分軸」から捉えるものに分けて述べることができると考えます。
他人軸から捉えるものは、本人だけでなく第三者からも「生きづらさの原因」として見えるもので、「幼少期のイジメ」「不登校」「障がいや疾病」「周りからの支配」「経済的な問題」「悪い依存」「アダルトチルドレン」「家庭の環境」などが挙げられます。
それに対し、自分軸から捉えるものは、生きづらさを抱える本人の「感じる部分」であり、第三者の目には見えづらいもので、「他者からの目線を気にしながら生きていくことから起こること」「辛さやしんどさ」「ねたみ・ひがみ」「劣等感」「トラウマ」「他人と自分との比較で感じるもの」「環境の変化で感じること」など、主観的な部分から起こるもの、暮らしていく中、生きていく中で自然に生じるものです。

 

「生きづらさ」という言葉が、今日青少年問題によく使われます。またこの「生きづらさ」とは、将来への展望が描けない疎外された孤立状態を指しているとも言えるでしょう。
原因は多種多様であり、周囲の対人関係のなかで精神的に生きづらい人もいれば、貧困による生活苦から経済的に生きづらい人もいます。

 

その社会的背景には、家族や地域社会との交流・交流する場が、昔と比べ客観的にみて著しく乏しい現実や、若者にとってはSNS世代を生きるがゆえに承認欲求から起こるもの、他人の目をリアルタイムで意識する環境下で良きも悪きも多くの情報があふれる中で情報に溺れてしまい自信を見失う機会が多いことなど、社会が生んだ病でもあり「社会的孤立の多様化」なのかもしれません。

また、単身世帯でも家族や近隣・友人との交流がある状態は「社会的孤立」ではなく、一方、家族と同居していても、家族との日常的な交流がないうえに外部の近隣・友人とも接触が乏しければ、「社会的孤立」に陥り、「生きづらさ」を強く感じてしまう場合が多いなど、「生きづらさの定義」といのは、一人ひとりの感じ方も概念も違うため、線引きが曖昧です。
そんな曖昧さを含んだ「生きづらさ」へのアプローチこそが、令和の生きづらさという社会課題への処方箋かもしれません。

 

この課題を解決するために取り組んでいること

 

生きづらさを感じる若者の中には、仕事も見つけられず、社会参加の場も見つけられない者がおり、社会的孤立を強く感じる者が増えています。
また同時に、多くの場所で色々な支援の場が展開されていますが、十分に機能しているとは言い難い状況です。
そのような若者の支援を目的とした援助機関も多く存在しますが、実際には、短期的な支援でのかかわりで援助する場が多いことや費用負担が大きく、費用負担を減らすことで積極的に地域と連携して取り組もうとしている自治体もありますが、地域間格差や都心部と地方では、この問題に関する背景も異なるため模索しながらの対応にもなっています。
両者とも「対象者」というものがハッキリと明示され支援にあたっていることは素晴らしいのですが、社会の中にも居場所を見いだせないままがゆえに、何らかの「すきま」に陥っている現状が多く見られます。
また、コロナ禍において、その「すきま」が増えつつあり、社会的孤立を抱える若者が増えているようにも見えます。

 

そこで、生きづらさを抱える人への支援を包括的に「生活問題」としてとらえ、構造的にも機能的にも調整していくことを目的とし、不登校ひきこもり当事者でもあった私が、2001年10月に元当事者メンバーや賛同者と共に、小さな任意団体「くつろぎステーションつばさ」として立ち上げました。生きづらさを感じる(コミュニケーションが苦手な)高校生~30代の者への居場所づくりを含めた支援を心掛けています。
今は、支援のあり方をベースに、参加者を「生きづらさを抱える人もそうでない人も同じ空間で」「対象者を高校生から30代の人へ」「SNSなどのツールを使っての参加者目線のアプローチ」を用いることにより、「生きづらさを抱えることは特別なことではない」という社会課題への私たちなりのメッセージも投げかけながら活動を進めています。

 

つばさにおける、生きづらさを抱える人に対して「居場所」を通じて行う支援方法についてご紹介します。

 

「若年者の社会的ひきこもり」の支援を市民団体という土俵で行うワケ

 

つばさは、あえて社会福祉サービスや相談援助機関という形を前に出さず、それらが持つ機能の一部を兼ね備えた柔軟な対応や時代と共に変わりゆく「今、地域の中や社会の中で必要とされていること」に目を向けやすいように、市民団体という土俵で活動しています。個別のカテゴリーを目的とした支援サービスからもう一歩踏み込んで、生きづらさをかかえる若者が「社会的自立」を果たすためには、生きづらさを抱える人が認められる場が必要であり、現代社会が抱える問題を社会に訴え、日ごろ取り組んでいる活動を通してその問題解決に取り組むことが必要だと考えています。

 

 

生きづらさを抱える人もそうでない人も、共に活動することから「社会参加のきっかけ」をつくる

 

生きづらさを抱える人の社会参加の場や交流の場を作り出すため、月2回程度の「居場所」を大阪市内の交通アクセスの良い場所に設けています。この居場所へ参加することが、つばさの活動を通じた様々な支援体制の入口でもあります。
また、ボランティアという形で、生きづらさを感じる人以外へも参加を呼び掛けています。「居場所を共にまもり、つくりあげる」というスタンスで、数時間ではありますが、あらかじめ用意したメニューに沿った形で居場所を共に過ごすことで、「小さな人間社会」「小さなコミュニティー」を参加者全員が感じ取れるように、会話や対話を中心とした交流、季節を感じることができる企画づくり、やりがいを得られる簡単な作業など、様々な交流・体験、そして活動プログラムの企画を行っています。
この小さな積み重ね・繰り返しは、社会生活を送る上の生活リズムの疑似体験となるので、居場所という安全な場所の中で起こるコミュニケーション上のメリハリを感じることや成功体験の積み重ねを得ることを期待しています。
そして、この居場所を用いた市民活動目線での活動から、社会参加へのきっかけをもたらすことを意識しています。

 

学生も社会人もフラットにフリートーク

クリスマス会でケーキ作りをおこなう     

 

当事者メンバー(生きづらさを抱える人)自身が活動企画や実施することで、自信をつける

 

私たちが対象とする生きづらさを抱える人の中には、社会的ひきこもりである者も少なくはありません。
また当事者メンバーは、の要因で人との関わりが少ないため、自信をもてない者が多いという現状があります。
その現状に対し、「つばさの活動企画への参画」という機会を作り、生きづらさを感じる人自らが参加する企画を自分たちで考え、実行することで彼らに自信を得てもらいます。
生きづらさを抱えている人を当事者と呼ぶならば、当事者ではない居場所づくりに参画する人にとっては、当事者メンバーの課題を同じ空間で知ることができ、活動企画をすることで異なる世界観を知ることができます。
そして、その世界観から得られたものは、当事者自身の問題だけではなく、共に生きる「社会の課題」であることに気づきます。居場所という空間の中で、フラットな関係でコミュニケーションを取っていると、実際には、生きづらさを抱える人もそうでない人も共に自信を少しずつ付けていくことにつながっているので、結果的には双方向に支え合う地域社会活動へ視点を向けていくことへもつながっていきます。
「支援する側・支援される側」という、生きづらさを抱える人のみへのアプローチでは得られない効果を私たちは意識しているので、運営スタッフやソーシャルワーカーは必要に応じてサポートしますが、基本的には参加者に任せ、失敗も含めて経験をすることで、社会参加の一歩を見出しています。そのため、活動計画も3か月1クールで進める手法を用いています。

 

(活動企画の事例)

令和5年8月26日に、生きづらさを抱える高校生の企画・発案で、居場所づくりタイム・緒(いとぐち)を開催しました。
通常の活動日の時間を割きながら、4月末よりこのイベントの企画や準備、チラシやSNSを通じての広報活動などを行ってきました。
当日はプラ板づくり体験を行い、縁あってつながった埼玉県の高校生ともオンラインで結び、日ごろ感じることや自分たちの存在意義などについて話をする時間を設けることができました。

 

 

ソーシャルワーカーを配置し、専門的な支援が受けられる環境を整備する

 

つばさの活動は、生きづらさを抱える人もそうでない人も同じように過ごす中で、生きづらさを抱える人や社会的ひきこもり問題への啓発活動や、高校生から30代までの人とする少し幅を広げた年齢の人を対象とする「社会参加への第一歩」を見出すことを目的としているため、ソーシャルワーカーを活動の場の中に配置しています。
ソーシャルワーカーがいることにより、生きづらさを抱える人が持つ潜在化された力を引き出せるよう、一人ひとりに応じた社会資源の活用や、関連機関への紹介、情報提供、福祉相談等、その人らしい生き方をナビゲートし、様々なアプローチを試みています。

 

通常の会話の中でソーシャルワーカーがテーマを提示し、その話題から自らの気持ちを伝える時間を設けました。
ここでは、他の参加者を否定せず受け入れることがルール。そして、お互いに想うことや感じることを言葉にして、自己洞察の時間を作りました。

 

 

社会人とソーシャルワーカー複数名で意見交換をする場面。生きづらさを抱える人もそうでない人も、同じ空間でフラットに話ができる居場所をつくるための時間でもあります。

 

 

 

つばさが試みる、居場所づくりや連携支援を中心とした実践

 

私たちが対象とするのは主に高校生から30代の人ですが、社会的ひきこもりやコミュニケーションが苦手な人を特別視せず、それもその人の個性の一つとして受け止め、その人の個性を活かした生き方が出来るように、生きづらさを感じる人に歩み寄ることが大切なのではないかと思います。そして、私たちには、目標とする3つの想いがあります。

①声なき声に耳を澄ませ「居場所」として、まもり続けていきたい。
②活動の場に来る人の「カーナビ的な存在」として共に歩んでいきたい。
③手を取り合って「同じ空間で過ごす」というメッセージを発信したい。

 

具体的には、「時間・空間・瞬間」という3つの”間”を、参加者が自発性を育むサインとして受け止め、活動に参加する人と共につくりあげた、寄り添い、集い、分かち合う「場」を守りながら実践を行っています!

 

【参考】 参加メンバーの意見を採用しX(旧・Twitter)・YouTube・Facebook・Instagramで、参加者が共に考え、つばさの活動を視覚化することでPRにとどまらず、「まもられた居場所」を築き上げています。

 

 

その中で、「やりたい気持ち」と「できるかどうか」 を認識していくために、市民活動目線の発想を取り入れています。失敗と成功を試行錯誤しながら活動している取り組みについて、下記のように共感と機能のレベルを意識して取り組んでいます。

・「私」の問題を「みんな」の問題として捉える
・地域・専門機関のほか、あらゆる社会資源を巻き込む
・社会資源を創出する(社会資源の開発・改善・活用)
・全体を見る視点を持つ(「虫の目」から「鳥の目」に)
・専門技術(ソーシャルワーク)も大切であるが、もっと大切なのは「人間らしさ」

 

今後の課題と取り組み方

 

私たちつばさが取り組む、生きづらさを抱える人もそうでない人も同じ空間での居場所を用いることによって、その人らしさを尊重しながら地域の中で社会参加できるように援助する手法は、私自身は少数派の意見と感じることが多いです。
しかし、この手法により、居場所という土俵から支援に関わり、人と人との関わりも活動に加わる人とともにTPOに応じて微調整できるなど、相談援助機関や福祉サービスにはないメリットがあると思います。
地域で暮らす人を応援し元気づける活動をこれからも続けていくためには、安定して活動を運営できるだけの様々な基盤と包括的支援を対にできる環境づくりが重要であり、今後の課題と考えています。
また、一人ひとりに応じた社会資源の活用や、関連機関への紹介、情報提供、福祉相談等、その人らしい生き方をナビゲートできるような支援を、市民活動の場や他団体との連携を踏まえながら取り組んでいきたいと思います。
そのためには、「生きづらさ」という社会課題を個別化してアプローチするだけではなく、生きづらさを感じることが減らせるような「まちづくり」「居場所づくり」「社会啓発」というものがあっても良いと考えています。
「援助する側・援助される側」という視点だけでは解決できないこと、社会課題を生活問題としてとらえ、構造的にも機能的にも調整していくことを目的とし、生きづらさという曖昧さを持った内容が持つ特有の力、地域社会に潜在化されたもの、多くの社会資源を糧として、一人ひとりがその人らしく社会参加できるよう、また、社会問題の解決にも寄与していけるよう、今後も取組んでいきたいと思います。

 

文:くつろぎステーションつばさ 代表 江頭 雅史(社会福祉士・保育士)

 

引用文献

内閣府 こども・若者の意識と生活に関する調査 (令和4年度)

内閣府 人々のつながりに関する基礎調査(令和4年)