社会課題と市民活動内容

性的マイノリティを表すLGBTという言葉は、2020年の調査では約80%の人が認知しているという調査結果がありますが、2020年の調査ではじめてクエスチョニング・アセクシュアル・Xジェンダーなどの存在が明らかになるなど、今なお研究が進んでいる分野です。そのため当事者層の割合も調査ごとに増えていて、約10人に1人が当事者に該当するということが分かってきました。当事者が生きやすくなるための社会的認知度や実際に講じられている対策なども、時代の変遷とともに変わっています。

LGBTQ+という言葉の認知度も調査の度に上昇し、2023年の調査では単に認知度という調査は行われなくなりました。

一方で、非当事者層の77.3%がLGBTQ+の当事者に相談されたときはできるだけ協力したいと回答しているのに対して、当事者の51.7%が職場や学校には性自認や性的指向に関する悩みを相談できる人がいないと回答するなど、両者のギャップはまだまだ大きいと言えます。

2015年から、当事者として性的マイノリティの相談支援・交流の場づくりやサポートなどを行っているLife hospitality management service代表の山﨑あおいさんに、活動の内容や、活動を通じて変化している現状や課題などについてご執筆いただきました。

 

「性同一性障害」の診断を受け、女性として日常生活を送る

 

代表である山﨑あおいは、出生時に割り当てられた男性の性別に違和感が有りながら、違和感を治そうと頑張りますが、30歳になりうつ病を発症しました。2年間ひきこもり状態の中、インターネットで知り合った女性へ相談をキッカケにカミングアウト。女性として生きる事に背中を押されジェンダークリニックを受診と同時にうつ病が緩和、2008年「性同一性障害」の診断を受けてから、女性として日常生活を送っています。

 

現在は、「すべての人が幸せに生きられる世の中」Life hospitality management service(ライフ ホスピタリティ マネジメント サービス)をめざし、性別・年齢・国籍・社会環境・生活環境・地位・あらゆる障がいを持っていても関係なく幸せな人生を全うする為の社会的サポートを行っています。

 

きっかけは「女性」としての再就職活動

 

この活動をはじめる経緯としては、やはり私自身の経験が基になっています。私は一度「男性」として就労の経験がありますが、その会社を辞めたことをきっかけに「女性」として再就職をめざしました。名前は男性名、性別が男性である状態の中、書類選考や面接に挑みますが、そこで企業の間違った認識や偏見差別を目の当たりにしました。例えば、女装趣味の延長上と勘違いをされたり、職業も夜の仕事である水商売やニューハーフを職にする方達という間違った認識を持たれたりしました。冷やかしで面接に来たと失笑やバカにされたりして門前払いにされ面接を受けさせてもらう事が出来ず、「出生時の女性」と同じ扱いで昼職に就く事の難しさを痛感しました。

 

知らないことによる不安「前例がない」

 

2009年秋に戸籍上の名前が女性名である「あおい」へ改名許可が下され、正式に改名をしました。このことにより書類選考を通過し面接までいけるようになりました。また、今までのように門前払いを受けることはなくなり、まともに取り合ってくれるようになりました。

 しかし、就労するまでには、まだ大きな壁がありました。企業にとって、戸籍上男性を女性職員として雇い入れることは、「前例がない」ことだったのです。「性同一性障害」の認知や理解が今ほど浸透しておらず、人事や経営者は「知らない」事での不安から、想像や根拠のない人伝いの情報や知識を信じたり、職員や顧客からのトラブルによる企業の信用を低下させるのではないかというリスクと認識していることを、肌で感じました。

 その後2014年秋に面接を受けたNPO法人の理事長に、性同一性障害の間違った知識を得て当事者自身を傷つけていることや思い込みによる偏見や差別があり思うように職に就けなかった経緯を話すことが出来、それがキッカケで採用され、ようやく就労することができました。

 この時の実体験から、あらゆる人に性同一性障害の見えない生きづらさや、知らずに間違った知識を得ていることを知ってもらい、正しい知識に上書きしてもらう必要があり、一般の男性女性と違い、社会で生きていくうえで生活・学校・就労・介護医療・行政などの利用時の心無い排除や制限などを受けている現状を何とかしないといけないと思い、2015年に団体を設立しました。

 

具体的な活動内容

 

性的少数者は「LGBTQ+」などで表現され一括りされていますが 当事者全員が同じ考え思想ではありません。L、G、B、T、Qそれぞれの属性で全く違いがあります 同じ属性でも、一人一人考え方や境遇が違います。特にTであるトランスジェンダーは、生き方そのものに大きく影響があります。障がいや病気の有無・国籍・人種・年齢・性別関係なく、誰もが幸せに生きて行く権利を持っています。それぞれが持っている権利がきちんと尊重される世の中になる事が重要であります。その理由から、性的少数者の繋がりだけではなく、他の社会活動団体さんとも連携し、共に生きやすい社会をめざして協働をさせて頂いています。

 

私自身が性同一性障害と言う事も有り、主に性的少数者の活動をメインにし、特に性別に違和感があるトランスジェンダーや性同一性障害などの方の居場所作りや自分らしい生き方が出来るようにQOL向上支援をさせて頂き、各種団体である医療福祉、教職員、行政、人権、一般企業などへの啓発セミナーの依頼を頂き、性的少数者にとって生きやすい社会へめざす活動を行っています。

 

主な当事者支援の内容として、

・意見交流会

・個別相談会

・セミナー

・メイクレッスン

・ボイストレーニングレッスン

・所作立ち振舞いレッスン

があります。その中でも、私が最も力を入れていることは、「意見交流会」の開催です。

 

意見交流会の重要性

 

 意見交流会は、「当事者」と「非当事者」の人が交流する場です。性同一性障害の当事者に対する偏見や差別は今も根強く残っていますが、非当事者に悪意があることは少なく、ほとんどは性同一性障害に対する知識が少ないことが原因です。当事者とどう接したら良いか分からない、非当事者である自分の常識で接すると、無意識のうちに当事者を傷つけてしまうかも知れないから距離を保とうといった意識の人が多いと思います。

 一方で、当事者は性同一性障害だと知られると今までのような付き合いができなくなる恐怖で、ほとんどの人はカミングアウトもせず、学校や職場では違和感のある性のまま過ごしています。このギャップが、性同一性障害に対する偏見や差別の正体だと考えています。

 

ですので、意見交流会では当事者と非当事者を対面させてたくさん話をすることを重要視しています。コロナ禍ではリモートでの交流会も開催しましたが、やはり対面でしか伝わらないものがあります。

例えばトイレや着替えなど、普段の生活をするうえで当事者が困っていることや生きづらいと思っていることを知ったり、職場や家族、友人の立場で、当事者とどう関わっていけば良いかを例をあげて話していくことで、当事者・非当事者双方の思い込みなどの乖離の溝が埋まっていく実感があります。

また、非当事者が当事者に寄り添ったり助けて貰えている現実を当事者が知ることにより、心を打たれたり気持ちが前向きになるという効果も大きいものです。

 

この意見交流会は当事者のためであることはもちろんのこと、周りの大切な人(職場や家族、友人)とどう関わっていくかを知れるという意味で、非当事者のための会でもあることを、もっと多くの非当事者の方にも知っていただきたいです。

 

 

 

活動を通じて感じる変化

 

LGBTQ+や性同一性障害という言葉の認知度や理解は、私が活動を始めてからの8年で確実に上がったと思います。それに伴って、学校や職場、行政などで対応や制度などにも変化が見られるようになってきました。

 

【学校】

 ・趣味や性癖でなく、身体の性別が間違って生まれてきた児童・生徒の存在が認知されてきた

 ・男女分けの出席簿が廃止され名前順のみになる流れ

 ・トイレが男女だけでなく多目的トイレが設置される学校が増えた

 ・男女の区別での更衣ではなく別室で着替える心遣いの学校も増えてきた

 ・制服の男女共通のデザイン化や好きなデザインを選べる、ジェンダレス制服の導入

【職場】

 ・性別違和を持っていても、きっちりと向き合って面接をする企業が増えた

 ・職場環境での配慮や心遣いを持つ発言が増えた

 ・髪の毛の長さの指摘やメイクの可否服装などの指摘が少なくなった

 ・トイレや制服の着替えによる更衣室など話し合いの下希望する性別での利用ができるケースもある

【施設】

 ・公共施設では、許可があれば希望する性別でのトイレや更衣室の利用可能な場所が増えた

 ・民間温泉施設において、男女区別していない貸し切り温泉が増えつつある

 ・大病院へ受診時、本人確認のためのフルネームの呼び出しから番号の呼び出しに変更されつつある

【行政】

 ・住民票など公的証明書、印鑑証明書、精神障がい保健福祉手帳など性別欄の廃止対応が増えた

 ・健康保険で通称名の使用や性別欄の空白表記が可能に。登録名や性別は裏書き対応になった

 ・大阪市では選挙の投票において本人確認は口頭ではなく写真付きの身分証明書の提示でOKになり投票券の発券時の男女区別も廃止された

 

今後の課題と取り組みについて

 

これらの変化はまだまだ多くの当事者にとっては不十分で、まったく変化のないものも多くあります。設備を増やしたりするのは簡単なことではないかもしれませんが、これは性別違和の方に限った話ではなく、現代の家族構成でも同様の問題はあると考えています。例えば、一人親世帯のお子さんが異性の場合の付き添いや、障がい者の異性での介助など、性別によって区別出来ない見えない多様なマイノリティは多く存在しています。多目的トイレの増設や、特例として銭湯や温泉で、一般の利用客とは違う時間帯での利用や貸切利用の設置を望みたいです。

 

また、このような変化が、性同一性障害を騙り女性スペース(温泉・更衣室・トイレ)に立入り、のぞきや盗撮痴漢行為を行う性犯罪者が容易に入れる環境になると言われるケースがあるなど新たな問題も出てきており、当事者と非当事者がお互い生きやすい環境になるには、まだまだ長い時間が掛かります。

それでも、当事者と非当事者が色々な問題から目をそらさず、向き合い話をしてお互いを知り、方法を探っていくことこそが、少しずつ生きやすい世の中につながると信じています。

 

今後も、意見交流会や講演会などで積極的に非当事者と対面で関わりながら、性同一性障害についての間違った知識や思い込みを上書きするキッカケや場づくりをしていきたいと思います。

 

最終的には、性別の区別なくかかわるのが当たり前の世の中になるように願っています。

 

文:Life hospitality management service代表 山﨑あおい

 

引用文献

株式会社電通 「LGBT調査2015」を実施
株式会社電通 「LGBT調査2018」を実施
株式会社電通 「LGBTQ+調査2020」を実施
電通グループ 「LGBTQ+調査2023」を実施