社会課題と市民活動内容

 最近、良く聞かれる言葉に教育格差があります。教育格差とは、様々な要因でこどもたちが受けることのできる教育に差ができることを指しています。教育格差は学力ばかりか、収入や学校の格差など様々な問題につながっており、特にこどもの将来に大きく影響し、生まれながらに人生が制限されてしまうこともあります。教育格差の起こる背景には地域格差など様々な要因がありますが、なかでも一番大きく影響しているのは家庭ごとの経済格差で、その背後には子どもの貧困問題がかくれています。

 

相対的貧困がこどもの教育格差を生みだしています

貧困には大きく分けて「絶対的貧困」と「相対的貧困」があります。絶対的貧困とは、生存する為の最低限の状態を維持するのが困難な状況のことです。飢餓や医療がほとんど受けられない状態にある人がこれに当たります。相対的貧困とは、その国の文化的水準や生活的水準と比較して困窮の状態にあることを指します。日本や欧米などの先進国の場合の貧困は、ほとんどが相対的貧困を指します。

 

日本のこどもの相対的貧困率は先進国の中でも非常に高い状態にあります

大阪市こどもの貧困対策推進計画(※1)によると、わが国のこどもの貧困率は長期的な傾向としておおむね緩やかに上昇しており、平成28年の国民生活基礎調査では、約13.9%と高い水準にあります。また、こどもがいる現役世帯のうち大人が1人の世帯の相対的貧困率も、昭和60年以降50%を下回ったことがなく、非常に高い水準となっています。国際的に比較すると、OECD(経済協力開発機構)が公表している平成22年の加盟国のこどもの貧困率は加盟国34か国中25位と高い水準にあります。また、こどもがいる現役世帯のうち大人が一人の世帯の相対的貧困率は、加盟国中最も高くなっています。このことから、日本の相対的貧困率が意外と高い事がわかります。

 

親の経済格差がこどもの学力格差・教育格差にもつながっています

内閣府の子供の貧困対策の「子供の貧困の特徴」(※2 P.6)によれば、低所得世帯やひとり親世帯の子供は、学習の理解度、進学意欲、自己肯定感、生活習慣の定着などの面で他の世帯より低い傾向があります。また、大学の進学率(※2 P.7)においても、全世帯では約72.9%あるのに対して、生活保護世帯では約36%と低く、逆に高校の中退率は約4.1%と全世帯の約1.3%に比べて高くなっています。家庭の経済格差が学力格差を生む要因の一つと考えられます。

 

行政や民間団体、地域などが協働で、貧困からくる教育格差の対策や改善の取組みが始まっています

子どもの教育格差を解決するには、外からは見えにくい「子どもの貧困」問題が根底にあるため、行政・地域・民間の協働した取組みが必要です。

・行政での取組み

行政では「子どもの貧困対策に関する法律」に基づき策定された「子供の貧困対策に関する大綱」により、地域ごとにソーシャルワーカーを配置したり、教育費を負担するための無利子奨学金や保護者の就労支援を行うことで、貧困状態にある子どもにも教育の機会が得られるように支援策を実施しています。

・教育バウチャー(無料券)の取組み

地域の教育関連企業と団体が協働で、貧困や経済的な余裕のない家庭のこどもたちが塾や習い事など教育関連で利用できる無料券を発行しています。こどもたちの学習機会の均等化を図ることを目的としたもので、教育バウチャーと呼ばれています。

無料券にすることで、現金と違って食費などの教育以外に使用されることを防ぐことができます。大阪市でも「塾代助成事業」(※3)として、大阪市内の中学生を対象に「塾代助成カード」を発行することで、学習支援を行っています。

・こども食堂での学習支援

従来のような食による貧困対策だけではなく、地域住民と協働で子どもたちの生活向上の為の学習支援を行なうところが増えてきています。また、気象・防災や金融・経済の出前授業のように、さらに進んだ取組みとして、企業や団体の得意分野を活かした出前授業をこども食堂などの施設と協力して行っています。

・STEM教育

民間企業と教育機関が協働で地域による教育格差の解消にも取組んでいます。ユニークな事例では、離島や過疎地での子どもたちのSTEM(サイエンス・テクノロジー・エンジニアリング・数学)教育の機会が十分に得られないことから、オンラインで地方の学校と企業をつなぎ、教育プログラムを提供することで、地域による教育格差を是正するための取組みが行われています。

 

社会に、経済に大きな影響を与える教育格差、社会全体の課題です

このような連鎖を断ち切るためには、生まれ育った環境によって受けられる教育が左右されることのない社会を実現することが理想です。

教育格差は他人事の問題としてとらえるのではなく、社会全体の問題として私たち個人も取組んでいかなければならない課題です。

 

 

※1 大阪市こどもの貧困対策推進計画

https://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/cmsfiles/contents/0000430/430435/suissinnkeikakusassi1.pdf

 

※2 出典:内閣府 「子供の貧困対策」

https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/ouen-forum/r01/pdf/tokyo/naikakufu.pdf

 

※3 出典:大阪市塾代助成事業

https://www.juku-osaka.com/class_search/top.html/