社会課題と市民活動内容

「私だけ損して……る?」

 

お酒を置いていないスナックが舞台の漫画『スナック キズツキ』。仕事や人間関係に疲れた女性たちが「私だけ損してる」とつぶやきながら、偶然通りかかった「キズツキ」の扉を開けるところから物語は始まる。

仕事で無理難題、いわゆる無茶ぶりを押し付けられながら会社で働く女性や子育て家事に追われる母親が「こんな私じゃなかった、違うんだ」と誰にも何にも反論できず、むなしさと怒りを抱えながら、「キズツキ」の女性店主に言葉少なく悩みを打ち明けながら会話は続く。

大阪出身の50代女性イラストレーター益田ミリが、実在しない架空スナック「キズツキ」で描く女性店主は、人に傷つき、人を傷つけながら日常を生きる客へ、叱る事も励ます事もせず、ただ寄り添うだけである。しかし、最終的に客は、晴れ晴れした表情で店を出て物語は終わる。

傷ついた人の心を癒やす手段は、酒ではなく、人と人が「つながる場所」かもしれない。この漫画をヒントに、働く女性の「居場所」を考えてみた。

 

<図1>

 

 

社会で働く女性は損ばかり?

 

コロナ禍により外出自粛や社会活動の停滞で、収入の減少や失業問題が新たな課題となった。総務省による「非正規雇用労働者数の増減」グラフによると、男性に比べて、女性の労働機会は長期にわたり失われている。不況が続くと非正規雇用の女性にシワ寄せがいく。女性の雇用保障が軽んじられてしまうのは、社会の責任か、コロナが原因か。女性の怒りは、どこにぶつければいいのだろうか。

 

<図2>

 

働く女性の悩みは「人」

 

コロナ禍になる前、私は仕事の悩みを解消する憩いの場として、人生相談型の飲食店、占いスナックを訪れていた。「キズツキ」と同じくカウンターだけの店で、店主と客の距離が近く、初対面ながらも親近感があった。占い師による手相やタロット占いの結果を、真剣な表情で聞き入る女性客たちで店は満席であった。

「職場の人間関係に悩んでいて……」「転職したほうがいい?」「いつ頃に結婚できるかなぁ」「ケンカした友達と仲直りできる?」など、客の女性たちが、占いに託す悩みのテーマは、対人関係のつまずきだった。

 

自分の居場所を確保したい

 

職場と自宅を往復する生活は、衣食住を確保するために働いているだけだ。私は会社のロボットではない、会社の仕事だけが私の人生ではない、会社の愚痴で一日を終えたくない。会社だけに依存せず、同僚や家族には見せない素顔の私がいきいきと輝くことができる居場所を確保したい。

「明日が待ち遠しいの」

占いを通じて知り合った同じ40代女性の言葉だ。彼女は、会社員という働き方は選ばず、子どもの頃から習ってきた舞踊の講師として生計を立てている。決まった時間に、決まった場所で、決められた通りに働く事が出来なかったから自由業なのよ、と茶目っ気たっぷりに笑う彼女のように、私もワクワク出来るような毎日を過ごしたい。そのためにも、笑い、悩み、明るく前向きな話の出来る同志が欲しい。さらに欲を言えば、会社で働きながら、もしも、私が会社員でなくなった場合に備えて、会社以外で収入を確保するための準備も始めてみたい。いわば働く40代女性の職業訓練場だ。私は働く40代女性同士が集い、つながる場所を探す準備を始めた。

 

社会と人とつながる手がかり探して

 

自粛生活が広まる前は、大阪府や大阪市が運営する、働く女性向けの講座や相談会へ仕事が終わると毎週のように参加した。

「学んだことを地域で活かす」がテーマの学びの場「いちょうカレッジ」では、職場や自宅以外の「サードプレイス(第三の居場所)」という用語を知った。昼間は銀行で働き、平日の夜は自宅を開放して日本酒の会など趣味・特技を語る座談会を開く会社員の活動や、週3日の夜限定で、全国のフリーペーパーを設置しながら、日本各地のインスタントラーメンやハチミツを広める活動など、サードプレイスの事例を聴講する機会を経て、営利ばかりを追求しない活動の先に、人と人が密につながるサードプレイスの手がかりをつかんだ。

「サードプレイスの作り方講座。ホント楽しかった~!」

私が受講した目的は、人とつながる場所を探すことだった。しかし、市民活動に対する考え方やサードプレイスの取り組み方を初めて学び、私の居場所探しは「サードプレイスが欲しい」へと、心変わりし始めた。「50代、60代に向けて何か準備している?」と同世代の女性と気軽に話し合えるコミュニティーを求め、つながる居場所が見つからなければ、私がサードプレイスを作ろうと決意した。

 

「朝活」は三文の徳と得!

 

早速、ブログやSNSを開設し、会社員でありながら、複数の仕事を持つ働き方に関心のある40代女性に向けて、大阪府・大阪市内のイベント・セミナー情報を発信してみた。毎日、根気よくブログに書き込む作業を続けていくうち、少しずつ同世代の女性たちからメールが届くようになった。「メールだけでは物足りないな、会ってみたい」という私の思いは強くなり、毎月1回土曜日の午前中に任意団体「週末起業サークル」と名付けた「朝活」を梅田で開いた。

「休日の朝に参加してもらっているのだから、会って話すだけではなく、彼女たちに

『お土産』を持ち帰ってもらおう」。サードプレイスづくり講座で学んだ、フリーペーパーの無料配布案を参考に「週末起業」に役立つセミナー・イベント情報のチラシを収集し、朝活で配ってみた。

「土曜の早起きは眠かったけど参加して良かった、お昼からバーゲン行って来るわ!」「この前もらったチラシのイベントに参加してきたよ」「定年まで働き続ける自信がなく不安だった。けど何とかガンバレそう」「40代になって年収300万円未満のワーキングプア状態が続いている。もう会社の給料だけでは無理。以前から複業に興味あった」など率直な声を聞く事で、私が欲しかった居場所は、他の女性も必要な場であると実感した。

 

<図3>

 

アフターコロナに新たなサードプレイス探し

 

「こんな私じゃなかった、違うんだ」

社会生活に満たされない気持ちを抱えてモヤモヤしながら働く女性を増やしたくない。

大阪府と大阪市による市民活動セミナーや相談会では、働く女性の活躍に対する支援の場で情報を得ることができた。大阪で働いていると刺激的な情報を入手できて、年齢に関係ない働き方の選択肢が増えるかもしれないと私は勇気づけられた。アフターコロナの時代に向けて、サードプレイスづくりを再び学び直そう。まずは、以前のように相談会やフェスタを見学しよう。職場と自宅以外で、女性による女性のための駆け込み寺となるサードプレイスが増えるアイデアを吸収できることを願う。

「密にならず、でも、つながる方法って。なぁ~んだ?」

人と人が密にならず、社会と人が密接する解決策が見つかれば、アフターコロナの新しい時代にサードプレイスづくりを再開できる。この謎解きのような課題に、私はワクワクしている。

 

図4・5

 

市民ライター 森田 陽子

【参考文献】

『令和3年版 厚生労働白書』33ページ「非正規雇用労働者数の増減」

https://www.mhlw.go.jp/content/000810636.pdf

 

OSAKAしごとフィールド「働く女性・働きたい女性のための相談会」

http://1.l-ork.jp/security/up/jyosei11_just_light.pdf

 

大阪市立総合生涯学習センター「総合フェスタ2021」

https://osakademanabu.com/umeda/archives/11105