社会課題と市民活動内容
「大阪の人って健康診断に行かないの? なんでなんやろうね?」
私の父親は、絵にかいた大阪の商人だった。「体の調子が悪くても(酒を)呑んだら治る」、「寝たら治る」。そう話していた父が病院に行くと、末期の肝臓がんと診断されて、1カ月もたたずに、この世を去った。もう15年になろうとしているが、未だに悔やまれ、父のことを考えると泣けてくる。
私は今、認定特定非営利活動法人・健康ラボステーションの理事長として、健康寿命を伸ばす健康づくりのお手伝いを仕事にしている。働き盛りで健康に無関心そうな人に会うたびに、父親のことを思い出す。健康状態を知ることを恐れては、自分のためにも、家族のためにもならない。「知りたくない」、「面倒くさい」という自分の気持ちに危機感を感じてほしいと願っている。
大阪の健診率は低い
「特定健康診査」という国の政策を知っていますか?
特定健康診査という国の政策を知っている人がどれだけいるのだろう。
国の政策なので、年に1度だが、比較的安価で、問診、身体測定、血圧測定、血液検査、尿検査などを受けることができる。
しかし、特定健康診査と特定保健指導の受診率は、なかなか目標に達しないのが現状である。
特に大阪は、全国平均を下回る。
「結果が悪いのは分かってんねん、悪い結果なんか、知りたないわ!」「怖い怖い!悪いとこあったら、どうするん!」「忙しくて行く暇なんかあるかいな」「特定健診て何?聞いたことないわ?」大阪の健診率の低さは、これらの声が反映されているのだろうか?
さらに問題なのが、特定健康診査を受けて、生活習慣病の発症リスクが高い人に対して行われる特定保健指導を受ける人が少ないこと。
健診を受けるだけで安心するのだろうか?重要なのは、自分の体の状態を知り、気になる結果であれば、健康な状態に持っていく努力をすることではないか。
次に、がんに関するデータだが、大阪は、全がんの75歳未満年齢調整死亡率(年齢構成の異なる地域間で死亡状況の比較ができるように年齢構成を調整した死亡率)が高く、がん検診の受診率は、まだまだ低い。また女性の受診率が低いのも気になるところだ。
よく耳にする「2人に1人はがんになり、3人に1人はがんで亡くなる」というフレーズ。年齢を考慮すると額面通りに受け止めるは如何なものかと思うが、心に残るのは確かであり、がんという病気を身近に感じ、正しく恐れるには、いいフレーズだと思っている。
今の医療を持ってすれば、早期に発見し治療することで、完治するがんも多い。
冒頭の繰り返しになるが、私の父は、絵にかいた大阪の商人。熱があっても、体調が悪くても、(酒を)呑んだら治る、寝たら治る。病院?健診?絶対(体が)良くないんは、自分が一番分かっているし、忙しくて行けるか!お客さんが待っているのに!とニコニコしながら言う人。私は、父の言葉を笑って聞いていたし、そんな父が自慢だった。だが、ある時、真っ黄色な顔の父を見て、母が病院に行くことを懇願し、仕方なく受診すると、末期の肝臓がんと診断された。その後、本人に告知する間もなく、たった25日でこの世を去ることに。
父のことがきっかけで、私は今、健康関連の仕事をしている。
一人ひとりができることを続けることが健康維持の秘訣
健康意識が高まり、セルフ健康チェックを受けたり、食事に気を付けて運動を始めたりすることはとても大切。
でも、それと同じぐらい大切なのが、まずは健診によって自身の健康状態を知る。そして相談できる仲間を持ち、必要な助言を得て、自分に合った行動変容を見つけ、それを継続すること。
老いも若きも関係なく、一人ひとりの持続可能な楽しみながらの健康への取り組みが、人生を豊かにし、国を豊かにする、私は、そう信じている。
市民ライター:浦田千昌
(認定特定非営利活動法人・健康ラボステーション 理事長)
【出典】
厚生労働省 特定健康診査・特定保健指導に関するデータ
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03092.html
厚生労働省 特定健診・特定保健指導について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161103.html
厚生労働省 1.年齢調整死亡率について
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/other/00sibou/1.html
国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/age-adjusted.html