社会課題と市民活動内容

育児や家事などの無償ケア労働は「お母さん」に負担が大きく深刻だ。

 

働く女性の休み方改革 ~休みが足りない女性たち~

 

 ウィズ・コロナ3年目。1月末から適用されているまん延防止等重点措置は、延長、再延長となり、非常事態を示す赤信号は灯り続けたままだ。

 未就学児を育てる女性社員が多い私の職場では、20歳代を中心に子や配偶者を介した家庭内感染者や濃厚接触者が増え始めた。重症化にいたらず2~3日間以内に、せきや発熱が落ち着くなど、後輩たちの早い回復に安心するも、症状の次に私が気がかりなのは、自粛期間中、有給休暇の不足により給与が無給になってしまう現状だ。

 若手社員は勤続年数が浅く、有給休暇は充分に与えられていないケースが多い。さらに、子の病気や学校行事のために、日頃から有給休暇を消化していた女性社員の多くは、この自粛期間に有給をほぼ使い果たしてしまった。また、非正規雇用の女性も多く、収入が保障されていない状況で10日間を超える自宅待機に不安を感じている声も聞く。国の行う感染症対策の休業手当制度を導入しても、いつまでも国の財源をアテには出来ないということもある。コロナ関連に限り、臨時的な休暇を与えるなど、自粛期間中の懸念を取り除くような体制づくりが、職場内でも必要だろう。コロナ禍前は、フリーランスや副業など、女性のライフスタイルに合った多様な働き方が着目されていた。しかし、今は、働き方改革だけでなく休み方の改善も重要な課題なのではないだろうか。

 そこで、社員の勤怠管理を担当する私から見えた休み不足な女性の現状と、休み方の改善案を考察したい。

 

有給休暇の積み立て制度

 

 「失効年休積立制度」という休暇制度を、ご存じだろうか。失効した年次有給休暇を消滅させず積み立てて、長期的な療養に有給休暇を充てる制度だ。資産だけでなく、まさか休暇の積み立てができるとは、ウソみたいなホントの話だ。この制度は、「病気でも安心して休めるから、安心して働ける」をモットーに、長期療養や介護、子の養育に関わる「特に配慮を必要とする労働者」を対象とする特別休暇制度の一つだ。厚生労働省「労働時間等見直しガイドライン」においても、企業による治療と仕事、家庭と仕事の両立支援や、国が行う支援制度の活用、特別休暇の付与を望ましいと記されている。ただし、育児・介護休業のように法で定められた休暇制度ではなく、企業の任意であり、義務づけられていないのが現状だ。

 しかし、今の時世、突発的な理由で中・長期にわたって休む場面は誰にでも何度でも起こりうる。育児のために有給休暇を使い切っていれば積み立てようがない。「特に配慮を必要とする労働者」まで届きづらい制度は、誰にでも利用できそうで、利用できそうにもない現状がもどかしい。

 

 

 企業が社員に有給以外の特別休暇を積極的に与えましょう、だけでは女性の休み方改善へ直結しないだろう。男女共同参画白書「年齢階級別非正規雇用労働者の割合の推移(令和2年)」によると、非正規雇用労働者全体の割合は男性22.2%に対し、女性は2倍以上の54.4%。とくに女性は年齢層が上がるごとに非正規雇用率も高くなる。

 コロナ不況による経営悪化で雇用の確保が難しくなれば、解雇や非正規雇用者の雇い止めが予想される。しわ寄せがいくのは女性だ。一方、企業側も労働者に対して特別休暇を与え続ける体力は残されていないだろう。この時代を乗り越える息の長い企業をめざすためにも、国の支援に頼りすぎず、特別休暇を与えすぎない方法を考える時期なのではないだろうか。

 

休みづらい女性たち

 

社員の勤怠管理を任されている私は、タイムカードの確認が日常業務だ。

「感染による休校のため」

「夜中に子どもが高熱のため」

「子どもが濃厚接触者に該当したため」などの理由で休みが重なる女性社員たち。もう一方は、子育て社員の業務フォローで疲弊する女性。

「休んでいいですか」

優先順位なんてないけれど、どちらも休みづらい、どちらか我慢。

積み重ねられた女性社員による欠勤・遅刻・早退の届け書を手にしながら「すみません」「ごめんなさい」と繰り返す彼女らの姿と理不尽な思いが残る。

「女性ばかり何で?」

 

 

 経済協力開発機構(OECD)「男女別にみた生活時間(令和2年)」によれば、日本女性が家事や育児などに費やす無償労働の男女比は、男性の5.5倍で14か国のうち残念な1位。無償ケア労働者の多くは女性である印象が強まる。とくに、感染拡大や休校で子に付き添う時間も増え、女性の比重ばかり増しているのではないか。

 

 

 さらに、休み不足が加速する理由として、厚生労働省の委託事業「働き方・休み方改革の取組及び仕事と生活の調和の実現に関する調査研究」で挙げられているように、7割近い女性が「みんなに迷惑がかかると感じるから」と有給取得をためらう傾向にある。

 これは、社会全体が働き方改革「女性が働きやすい職場づくり」を重んじるあまり、職場や周囲の同僚たちも、子育て女性に対して、腫れ物に触るかのよう過剰に対応してはいないだろうか。配慮、イコール女性を特別扱いする事ではない。コロナ禍に巻き込まれた女性が、ジェンダー平等を停滞させている一つの要因と、私は考えたくない。このような社会に飽き飽きしているのは、制限された行動よりも、制限された女性の働き方だ。

 

休暇は積み立てではなく「ギフト休暇」に

 

 失効年休積立制度は、「ストック休暇制度」とも呼ばれる。原則、有給休暇の買い取りや譲渡は、労働基準法で禁じられているが、コロナ時代に限り、このストック休暇を「ギフト休暇」に代用できないだろうか、と私なら考える。

  勤続年数が長く、消化しきれず失効する先輩の有給休暇を、休みが足りない後輩へ贈る。個々の日数を増やすのではなく、与えられた範囲を社内で循環させる工夫だ。 女性の働き方が変わっても、長く働き続けられる職場環境づくりにつながってほしい。いざという時の備蓄は食料品や日用品だけで十分。ストック休暇が備蓄=タンス預金になってしまわないよう、「困った時はお互いさま」の精神で、ストック休暇を職場内でシェアできる。これがウィズ・コロナ時代における休み方の改善案だと考える。

 

市民ライター:森田 陽子 

 

【参考】

「労働時間等見直しガイドライン(労働時間等設定改善指針)」厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/000504226.pdf

 

「就業をめぐる状況」男女共同参画局

https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/html/honpen/b1_s02_01.html

 

「特に配慮を必要とする労働者に対する休暇制度」厚生労働省

https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category4/h26_byouki.pdf

 

「生活時間の国際比較」男女共同参画局

https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/column/clm_01.html

 

「休み方に関するマニュアル」厚生労働省

https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category1/200515_1.pdf