市民活動ワクワクレポート内容

今回は、多様性という言葉が世に広く認知される前から、活動に取り組む

NPO法人VAROR(バロール)代表・辻和王さんの取材を行いました。

 

 

VAROR(バロール)とはスペイン語で「価値」。

まだ出会ったことのない〈コト・モノ・ヒト〉の“価値”に出会い、繋げていくことをコンセプトに様々な活動をされています。

 

「性別・人種・年齢・世代・障害を越えて、人と人、出来事と出来事が混ざり合うこと。そこにこそ“価値”が生まれると思うんです」と辻さんは語ります。

 

 

 

美容師との偶然の出会いから始まった“ごちゃまぜファッションショー”

 

きっかけは、約15年前のこと。

特別支援学校の教員として20年以上、子どもたちと向き合ってきた辻さんが

ある日の飲みの席で、美容師に「支援学校で働いている」と話した際に、「えらいね」という一言が返ってきました。

その言葉に違和感を感じ、ふと思いついたように辻さんは言いました。

「じゃあ、生徒たちにメイクやヘアセットをして写真を撮ってもらえませんか?」と。

軽い会話から始まったこの出来事が、後に多くの人を巻き込む大きなムーブメントへと発展していきます。

 

装飾は美術の教員に会場のバックに流す映像は美容師に協力を得て作成してもらい、迎えたはじめてのファッションショー当日。

 

辻さんはある光景に胸を打たれたといいます。

 

それは、姿勢の保持が難しい低緊張という障害と知的障害のある

女の子がメイクをしてもらった瞬間、なんと姿勢がピンと伸び、カメラに目線を向けて笑顔を見せたのです。

 

ごちゃまぜフェス2025 in 出来島支援学校で行われたファッションショーの様子

 

そして、その様子の写真を見た生徒や保護者から「私もしてほしい!」と次々に声が上がり、その時の写真は別のイベントのフォト部門にも取り上げられました。

 

このことがきっかけでファッションショーを学校で継続的に行うようになりました。

 

教員の中には「何の意味があるのか?」「どの教科のどの目標になるのか」当時は理解されることが難しかったそうです。

ですが、その後も校内でのファッションショーは回を重ねるごとに賛同者が増えていきました。

 

 

そして

辻さんがスペシャルオリンピックスのボランティアをしているときに

「世界大会に行く選手たちの壮行会のために

ファッションショーをしてほしい。」とオファーがあり、

初めて学校外でファッションショーを開催しました。

 

それを機に外部でもファッションショーをするようになっていき、

SNSを通じて辻さんのファッションショーを知った

他校の保護者や教員から「うちの生徒にもファッションショーに参加させてあげたい」という声があり、

外部の人も参加できるファッションショーを豊中市千里文化センターで開催することになりました。

 

 

 

若い美容師とこどもでペアになり、心斎橋の古着屋でファッションショーで着る衣装やアイテムを一万円まで買い物をする企画を通して

本人には「おしゃれを楽しむ」こと、周りのおとなには「本人に自分の着たい服を選ばせること」を意識してほしいと言います。

 

それは単なる身だしなみではなく、“自分を表現する力”を育てる教育でもありました。

支援学校の先生ってジャージ姿の人が多いんです。でも、子どもたちを取り巻く大人たちが“かっこよく”見えたら、きっと子どもたちの感性も変わる

おしゃれを通して『自分も選べる』『自分も変われる』と感じてほしかった。

生徒たちがファッション誌を見て自分でコーディネートを選び、スタイリストに相談するようにすることで

「服をインする」「清潔にする」といった“指導”ではなく、

「こういう服を着たらかっこいいね」ということがしたかったと言います。

 

ごちゃまぜフェス2025in出来島支援学校

 

 

“ごちゃまぜ”が創り出す社会の新しいカタチ

 

VARORの活動は、ファッションショーに留まりません。

 

ごちゃまぜファッションショー:プロのスタイリストや学生が手がけ、障害のある人もない人も一緒に舞台へ。

 

ごちゃまぜ大運動会:豊中市の服部緑地公園で、競技用車椅子レースやリレーなど、誰もが参加できる運動会。

 

ごちゃまぜ校外学習(淡路島):芋掘り・海水浴・花火体験などを通して“自然と社会に混ざる”1泊2日の体験プログラム。

 

こうした活動のどれもが、「混ざり合うことに価値がある」という理念から生まれています。

 

“間違ってるけど自分たちらしい”――VARORという名前の由来

 

「実は、VARORという名前はスペイン語で“価値”を意味する“VALOR”のスペルミスなんです。」

役所に提出した後に気づいたという辻さんは、笑いながらこう続けます。

 

「でも、“間違ってるけど、これが自分たちらしいな”と思って、そのままにしました。」

 

完璧じゃなくていい。

正しさよりも「人らしさ」「想い」を大切にする

その姿勢がVARORの活動すべてに通じています。

 

“スター”を生み出したい――ファッションショーの未来へ

 

現在、VARORはファッションショーを通じて「社会テーマ」とのコラボも展開しています。

「不登校」「防災」など、さまざまな課題をファッションと掛け合わせることで、誰もが関心を持てる入り口をつくっています。

 

辻さんの夢は、京セラドームで1万人規模のファッションショーを開催すること。

それは“障害のある人のため”というよりも、“社会全体を巻き込む新しいカルチャー”としての挑戦です。

 

「このショーで“障がいの世界を変えたい”というより、

関わった人たちが“夢を叶えるきっかけ”になる場にしたいんです。

“障がいがあるから素敵”じゃなくて、“その人自身が素敵だからモデルになってもらう”。それが僕たちのスタンスです。」

 

 

 

すべての人に「価値=VAROR」がある

 

辻さんは最後に、静かにこう語りました。

 

誰もが価値ある存在であり、その価値を見つけ、光を当てることや

混ざり合い、つながり、認め合うことで新しい価値を創りあげていく

VARORの活動を今後も注目したいと思います。

 

近々の予定

・阪大病院への打ち上げ花火 12月23日㈫
・ごちゃまぜフェス 2026年2月21日㈯

 

詳しくはVARORの公式ホームページからご確認ください。

 

 

取材・記事作成:シミポタ運営事務局(大山 智現)