社会課題と市民活動内容

「こども」の姿を見つめた時、そこに見えてくる「社会課題」は多様でいろんな要素が複合的に絡み合っています。
その「こども」には今何が必要か?「居場所が必要」なのか?「学習支援が必要」なのか?「まずはごはん!」なのか?
個別に違いがあり、一言では言い表せません。
活動の資金を工夫して調達し、そんな「こども」とともに歩んでいる「一般社団法人HOMEステーション」の挑戦とこれからを寄稿いただきました。
リアルな「こども」をめぐる現状をお読みください。

 

HOMEステーションの挑戦ってなに?

挑戦って?:初めてのクラウドファンディングで平野区に学習支援の場【MANAーviva】新設のための資金集めをしました。

誰と・どのように? : 大阪府が公認事業団体として広報、団体がクラウドファンディングで事業費を募り、目標金額に達成した際に村上財団から同額の寄付が行われる(マッチング寄付方式)。

 

こどもに未来を感じ、関心のあるすべての方からのご支援により

目標金額達成!(success)

 

どんな内容?:様々な理由で学習やその場(学校)から距離を置いてしまった子に学ぶ楽しみを知り、習慣を身につけることのできる個別学習サポートです。

なぜ、平野なの?

『平野区における3つの困窮家庭指標』を見てみると・・・

1️⃣平野区のひとり親世帯数(令和2年):3,563世帯

 

2️⃣平野区の生活保護世帯のうちの母子世帯数(令和5年3月時点):566世帯(出典:大阪市)

 

平野区のこどもの周囲のデータをもう少し細かく数字で見てみると2️⃣の生活保護世帯のうち、高齢者世帯は5,377世帯、障がい者世帯は1,716世帯、傷病世帯が704世帯(大阪市集計 2019年3月末時点)となっています。

 

3️⃣平野区の就学援助(※)利用人数(令和3年度):小学生ー2,444人、中学生ー1,455人(出典:大阪市)

※就学援助とは
経済的な理由により就学が困難な大阪市立の小・中・義務教育学校に通学される児童生徒の保護者に対して、援助を行い、児童生徒が等しく義務教育を受けることができるようにする制度。詳しくは⇒こちら

 

数字で見る平野区の現状は、この通りです。平野区はそもそも大阪24区で一番人口が多く、世帯数や児童生徒数も多いため、ひとり親世帯数、生活保護世帯のうちの母子世帯数、就学援助利用人数も多くなっています。私立高校も授業料の無償化制度が府民対象で合意され、2024年度から実施される予定ではあるものの、こども達の成長に伴ってかかる費用は授業料のみだけではありませんよね。

 

また、平野区という地域の中心である平野は、大正時代まで『平野郷』と呼ばれ、排水や外敵に備えた環濠集落でした。元和2年(1616年)に行われた町割りがそのまま継承されている大阪市内第1位の人口を有する地域です。

毎年、5月に大念仏寺では『万部おねり』が行われ、5月18日には重寺で『魔まいり』
7月には、けんか祭りとも呼ばれるだんじり祭りが4日間に亘り、昼夜を問わず平野を賑わします。

 

また、高層マンションが建設されたことをきっかけに大念仏寺の屋根の高さを基準とした建築構造物の高さ制限が設けられたという経緯や、全興寺には『音の博物館』といった暮らす人々の息づかいを大切にしたまちづくりが特徴的な地域です。

 

私たちも平野の人々と関わるとき、五感とその感受性を大切にされていることを気付かされます。

 

なぜ、いまなの?

2020年2月27日「学校現場は濃厚接触しやすい」との理由から、新型コロナ防止措置として、市内の小中学校や幼稚園を休校・休園することが決まりました。同日、府立学校もすべて休校することが決まり、その後の2023年5月8日に5類感染症に位置付けられるまでの期間、私たち大人は無論のこと、こども達はその対策に振り回される3年間を黙って過ごしてきました。

 

私たちの多くは『喉元過ぎれば熱さ忘れる』性質を持っていますが、振り返ってみてほしいのです。

家庭と学校くらいしか世界観を持たないこども達が、顔の半分をマスクで覆い隠された状態で過ごしました。必要最低限での会話。黙食指導。そして、何をするにもどこへ行っても、手洗い、消毒。

臨時休校が解除され、登校できるようになった学校では、制限の多い行事内容が行われていました。

 

それが、学童期(6歳〜12歳)と青年期(中学〜高校)のこども達にどれほどの影響を及ぼしたか?

 

学童期(小学校低学年)の時期のこどもは、大人が「いけない」ということは’‘してはならない’‘というように、大人の言いつけを守る中で、善悪について理解と判断がつくようになっていきます。

また、言語能力や認識力も高まり、興味関心が増える時期で、自然にも関心の高い時期です。

(小学校高学年)の時期のこどもは、物事をある程度対象化して認識することができます。自分のことも客観視できるようになりますが、同時に発達の個人差が目立ってきます。体力もつき、自己肯定感が高まる時期ですが、反面、自尊感情の低下などで劣等感を持ちやすい時期でもあります。(→いわゆる9歳の壁)

 

この頃の学校教材は文字の大きさも小さく、行間も狭くなって来ることから、学習に対する意欲の低下が始まると言われています。

青年期(中学〜高校)になる思春期と呼ばれる時期は、親や友達とは異なる自分独自の内面世界があることに気づき始めます。

その自意識と客観的事実との違いや差に悩み、様々な葛藤を抱きます。親よりも友達や仲間への評価が高く、家庭内では親とのコミュニケーションが希薄性をおび、皆無になる家庭もあります。

 

あなたもお子さんとのコミュニケーションにすれ違いを感じる時があるのではないでしょうか?

身体の成長も活発となり、異性への興味関心も高まる一方、他者との交流に消極的な傾向も出てきます。

高校になると、大人社会が視野に入ってくるようになり、大人社会でどのように生きるか。を模索する時期となります。

この時期までにこども自身が将来を真剣に考えることを放棄したりすると、目の前の快楽だけを追い求める刹那主義的な傾向を持ちやすくなります。

特定集団の中では、濃密な人間関係を築けても、自分の所属する集団以外には無関心となり、社会や公共に対する関心や意識低下につながります。

だからこそ、いま、私たちは学校の外で、塾ではない学習支援の場が必要だと考えました。

 

なぜ、HOMEステーションが取り組むの?

私たち一般社団法人HOMEステーションは、『頼れる大人がいないあなたへ』というメッセージコンセプトのもと、2019年設立した社会的養育経験者を含むこども・若者支援を行う団体です。

2020年5月のGW、コロナ休校の始まった中、大阪市平野区の商業施設(イズミヤSC平野)の中で【平野宮町みんな食堂】を開催。地域のこどもとそのご家庭にお弁当や食品を配布し始めました。

同年夏に食堂内を改装し、こども達が自由に遊ぶことのできるスペースを設置。

フードドライブやランチの提供、こどもの居場所事業(遊び・学習)、児童養護施設利用者のサポートをする中で、見えてきたもの。

それは【人々のつながりの希薄さ】

学校や地域の祭りで顔を合わせるものの3年という月日は、こども達にとって、とてつもなく長い時間軸です。

その中で、彼らの見本となったのは、YouTubeやTikTok、ゲーム配信の中の人々。

物理的に人との距離を置かなければならない中で、自分の心を守るために息を吐くように嘘をつくこども。家庭環境を恥じなければならず、建前で話さなくてはならないこども。社会への強い危機感を感じずにはいられませんでした。

だからこそ、成績や評価を気にすることなく、本音で話せる居場所が必要でした。

 

ただ、この3年のうちに【平野宮町みんな食堂】を訪れる子の数は
令和3年度の109名→令和5年9月までに452名にまで増加。

給食がなく、保護者も休息したい土曜日には、30〜40名ほどのこども達がひしめき合って、食事をしたり、友達同士、同級生・上級生・下級生・大人と年齢に関係なく遊んでいます。

その中で『宿題を済ませたい』『もっとゆっくり話したい・話を聴いてほしい』『こども同士で気を使わず、ひとりで過ごしたい(でも誰か大人とは一緒にいたい)』『やかましくて、頭痛がする(商業施設特有の照明や音楽を不快に感じる=感覚過敏』といった声が、こども達の中から多く聴かれるようになりました。

そこで、大阪府で募集のあった『NPO等活動支援による社会課題解決事業』に申請。学習支援の場【MANAーviva】新設のためのクラウドファンディングに挑戦し、こどもの未来に関心のある多くの方々よりご支援を賜りました。

 

MANA-vivaのいま

MANAーvivaでは現在、高校生ボランティアを中心に元中学校教諭・社会人学生が、平野区の小中学生の個別学習サポートを担当しています。
彼らは、勉強だけでなく、対人関係においても、過去の自分の苦悩を目の前の小中学生が話す姿に共感を示し、小中学生の学習意欲の向上や習慣化に力を尽くしてくれています。

一方で、利用するこども達の方は、なかなか自分から自分の意見が言えなかった子が、自分の好きなことを話すようになり、2年ほど離れていたピアノで1ヶ月で1曲完コピできるようになったりしてきており、本来のその子のもつ力を発揮して、自信を取り戻してキラキラしています。
また、別の子は食堂で友達同士で過ごす時には見せない顔や話せない内容を、ぽろっとMANA-vivaに来て話したりしています。

受験生は、進行途中の学習に加え、やり直し学習に根気強く取り組み、志望校合格に向けて、日々、学習に真剣に取り組む姿勢が見られるようになってきました。
保護者のお声として『MANA-vivaに行くのを楽しみにしている』『行くようになってから、こどもが明るくなった』『おやつや食品提供もあって、助かる』などのご意見が聴かれるようになりました。

通常の塾では、食品配布までは行いませんし、夕方近くに学習や脳トレに訪れるこども達は、お腹が空いて集中力に欠ける日もなくはありません。
ですから、HOMEステーションが学習支援の場【MANAーviva】をおこなう強みの一つになっています。また、臨床心理・コミュニケーション心理トレーナーと心療内科医、こどもアドボケイトが理事として現場にいますので、こどもの悩みだけでなく、親(大人)が抱える見えない不安の正体を明らかにし、問題解決に導くことができるのも強みの一つです。

 

MANA-vivaの未来

気の早い話ですが、MANAーvivaで学んだ子が、MANA-vivaや平野宮町みんな食堂で地域のこども達に学習サポートのお手伝いや居場所事業でボランティア活動を行ってくれると嬉しいなぁと思っています。
また、学習やコミュニケーションの土台を作っている国語力を外国語としての観点から(逆の視点を持って)こども達に教えることができるように、基盤を作っていきたいと考えて準備しています。
とはいえ、まだスタートラインに立ったばかりで、この先どのようになるのか見通しは立っていませんが、これまでHOMEステーションが設立時から行なってきた、行動理念でもある『こどもの声に耳を澄まし、語りかける活動』を継続していきたいと考えています。

 

文責:代表理事・福住文子